退屈だから、夫を死刑にしてみた。
志乃原七海
第1話浮気したら、ぜーんぶアイツのせいにしてやる
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わたし、春海(はるみ)、24歳。彼氏は……まあ、たくさん? 指が足りなくなるくらいには。旦那がいようがスマホの通知は鳴りっぱなしだし、深夜2時の「会いたい」LINEにも既読つけちゃう。カンケーねし
だって、ウチの旦那サマは週末ごとに「接待ゴルフ」だの「急な出張」だのでお泊まりして、そのたびに知らない香水の匂いをぷんぷんさせて帰ってくるんだもん。どうせ高級な泡の出るお風呂にでも入ってるんでしょ。お互い様ってやつ? たいして変わんねー
そんな私たちが、日曜日の昼下がり、揃いのサングラスなんかしちゃって都会のど真ん中、銀座を歩いてる。彼が私のために買ったブランド物の紙袋をいくつもぶら下げて。周りから見れば、誰もが羨む仲良し夫婦。ウケる。私たちは今日も完璧に、理想の夫婦を演じてる。そんな関係。
「春海、次あそこのカフェでも入るか?」
「んー、いいね。あそこのタルト、美味しいもんね」
完璧な笑顔で頷いてみせる。心の中じゃ、昨日の夜にホテルで食べたケーキの方が100倍美味しかったって毒づきながら。
その時だった。
甲高い悲鳴が、平和な休日の空気をナイフみたいに切り裂いた。何? ざわめきが波のように広がって、優雅に闊歩していた人たちの足が止まる。怒号と、泣き声と、何かを叫ぶ声がごちゃ混ぜになって、銀座の街がみるみるパニックに染まっていく。
「え、何? なんだよ……」
隣で旦那が間抜けな声を出す。人垣の向こうで、誰かが叫んだ。
「通り魔よ!」
その言葉が引き金だった。人々が一斉に逃げ惑う。私たちは人の波に逆らうように立ち尽くしていた。その人垣が割れた先、白い石畳の上に、生々しい赤が広がっているのが見えた。血みどろで倒れるスーツ姿の男性。その横に、刃物を握りしめた男が、虚な目で立っている。
誰でも良かったんだろう。が、運が悪い
男がふらふらと、こっちに向かってくる。焦点の合わない目で、次の獲物を探してる。そして、人の波をかき分けて逃げようとした私の肩に、ドンッ、とぶつかってきた。
アタシにぶつかるなんて、邪魔や!
舌打ちと同時に、身体が勝手に動いてた。男が振りかざそうとした腕を掴み、捻り上げる。悲鳴を上げる間も与えない。手首の関節が嫌な音を立てて、きらりと光るナイフが宙を舞い、それを寸分の狂いもなくキャッチする。
わたしは犯人なんか誰でも良かった。こんな退屈な日常を壊してくれるなら、悪魔でも神様でも。
男の目が、初めて恐怖の色に染まるのを見下ろしながら、私は逆手に持ったナイフを寸分の躊躇もなく振り下ろした。狙うは眉間。ヘッドショット! 一撃で。ゴスッ、と鈍い音がして、男は糸の切れた人形みたいに崩れ落ちた。
一瞬の静寂。世界から音が消えたみたいだった。隣で、旦那が「は、はるみ……?」と震える声で私の名前を呼ぶ。血で濡れたナイフを握る私を見て、腰を抜かしている。
ああ、そっか。
私はニッコリ笑って、旦那のほうへ一歩踏み出した。
「はい、あなた!」
呆然とする旦那の手に、ぬるりとした感触のナイフを無理やり押し付ける。驚きに見開かれた彼の瞳に、満面の笑みを浮かべる私の顔が映る。
口笛をふきながら、踵を返す。パニックで誰も私のことなんて見ていない。
人混みに紛れる直前、一度だけ振り返って、固まったままの旦那にひらひらと手を振った。
「じゃあな!」
これからアンタがどうなるか知らないけど、ぜんぶアンタのせいだから。私の退屈を殺してくれて、ありがと
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