第6話 カジノ惑星



――――カジノ惑星トレゾリオ。


港には荷を受け取りに来た黒服たちが待ち受けていた。


「箱で届くと連絡があったが」

少女の姿は剥き出しだ。しかしながらその特徴で本人だと分かる。


「依頼主自身が壊したもので。何か不都合でも?」

答えたのは海賊船クルーの格好のフーゴだ。


「護送担当が2人来ると聞いたが」

こっちには教えといて俺らには教えなかったのかよ。ナメすぎである。

ここでのオルカの意味を分かってないと?


「船の中で暴れた挙げ句、偽装身分で乗り込んだのですよ。公認海賊船としては乗船拒否する権利がある」

「そう言うのは暗黙の……っ」


「嫌なら無認可に頼めば?持ち逃げされてもうちは知らないけど」

アンタ連邦警察だがな。しかしながら最後には彼らも諦めたのか舌打ちし、フーゴに何かを手渡した。追加の報酬か?それとも依頼の成功証明か。

「我々のバックに何がついているかをよく考えろ」

そうして彼女を乱暴に引っ張っていく。


「……これでいいの?ティエラ」

「まあ……な。依頼は依頼だ。それで……連邦警察は?」

「ま、行くけどね。ちょうどいい偽装身分が手に入ったし」

偽装身分でしょっぴいておいてこれだよ。全く連邦警察ってやつぁ……。


「あとリーノ貸して」

「おい、急にお前は」

しれっとリーノの偽装身分証を提示したフーゴにリーノが眉をひそめる。


「いいだろう?ティエラにも招待状が届いていることだし」

フーゴが渡してきたのは先程の……。なるほど、俺を手にできなかったから今度は強制的にか。

一体何がついてるんだろうな。


「行かせる気か!」

「落ち着きなよ、リーノ。ここは宇宙ギャング王の巣くう惑星だ」

「……だからだよ」

「別にとられないと思うよ?」

「殴るぞ」


「はいはい、それくらいで。闇オークションが始まってしまう」

こちとら海賊家業。闇オークションだのなんの、恐れてはいられないのだから。渋々納得した2人と共に、依頼の最後の仕上げと行こうか。


しかしながら予想していた通り俺だけ別ルート。リーノたちは一般客、俺は招待客なのだから仕方がない。


「武器をこちらへ」

「丸腰だ。確かめたっていいぞ」

どうせ取られるのなら返ってくる保証はないし、あれが闇市場に流れたら市場そのものが宇宙ギャングの餌食だぞ。


「確かに。入ってよし」

ふむ……。それなら堂々と入ろうか。安心しな。俺は丸腰が一番強いんだ。


黒服どもに付いてひとけのない回廊を進む。招待と言えどきっとろくなところではない。見るからに物資を搬出入するような場所。見慣れていないはずがない。


「……」

黒服たちが止まり俺を囲う。


「何の真似だ」

「決まっているだろう!」

「希少種!」

「お前も商品となってもらう!」

ほん……っと、そうだろうと思って来てやったのに期待を裏切らないな!?


「海賊なら分かっているだろう?闇オークションのバックには何がついているかを」

お前らこそオルカの隣に何がくっついてんのか知らんのか。


「さぁて知らないね」

「何!?」

「ほらよっと!」

華麗に彼らの武器を蹴落とし、手痛い蹴りや裏拳をお見舞いしてやる。しかし前方から大量の黒服たちがやって来る。


「おいおい、それはさすがに聞いてな……っ」

しかし一歩下がろうとした矢先、背中にぽすんと触れた感触に驚く。そして数人の黒服たちが急ブレーキを踏むものの、若いと見られる黒服が数人の飛び出してくる。


キィンッキィンッと宇宙銃特有の銃声が響き悲鳴のない恐怖が彼らを襲う。


「うるさい羽虫どもだ」

声を聞く前から分かりきっている。


「何してんの、ルカンさん」

振り返れば茶髪に赤い瞳、特徴的な長三角形の耳飾りの男性が笑みを讃えている。因みに二刀流ならぬ二丁銃。


「ここは私の庭だよ。珍しい発注がかかったと聞いて散歩をしにきたんだ」

「ああ……そう言うことで」

いくらオルカ出向とは言え、元締めに偽装身分証を発注するとは。入れぬ訳はないのだ。


「それにしても、私があげた就任祝いは?」

「没収されて闇に流されたら困るんで、置いてきましたよ」

「賢明な判断ではあるが、愚策でもある」

「その心は?」

「暴れたりないんだ。今日は大粒のレインルビーが手に入ってね……それを眺めて閃いたんだ。そうだ、血の雨を降らせたい」

……聞かなきゃ良かった。


「もう満足したでしょう」

「あれじゃあ水溜まりレベルだ。そうだね……あれで楽しもう」

平然と黒服たちに銃を向けにんまりと笑む。


「いや……スタッフ総出みたいな感じで来たんで、殺ったらオークション、できませんよ?」

「おや……そのつもりじゃないのかな?」

「連邦警察の意図なんて知りませんよ」

そもそも全部知ってて偽装身分証を用意したのはルカンさんである。


「なら観に行くとしようか。良い余興になりそうだ。君も来るだろう?ティエラ」

「ご一緒します」

まあこれでオークション会場にも行けるわけだし。


「ま……っ、お待ちを!」

おいおい、どんな命知らずだよ!


「そ、そちらは我々の商品で……勝手に持って行かれては……」

まだなったつもりはねえよ!しかし俺が言う前にキィンと銃声が哭く。


「さて……そろそろ虹が出るかな」

「出ないと思いますよ」

……屋内だし。



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