Episode:13 人と森とそして……

 アウルが発動させた闇属性魔法で覆われた空間には一切の光などない。

 『漆黒の闇』

 副官は光属性の魔術をいつでも発動できる体制で周囲を警戒していた。視力ではどうすることもできないこの空間で頼りになるのは己の感覚と察知能力。


「(おそらく、奴はレイスだ)」


『レイス』とは、アンデットの中でも上位に値する闇属性の種族。生霊に近い存在でもあり、長く生きれば生きるほど、その姿は生前の姿に近くなっていく。


「レイスであろうと、所詮はアンデット!我が光魔術の前では手足も出まい!」

「それはどうかな……?」


副官は声のする方に光魔術を放つ。周辺は瞬く間に光りに灯され、僅かだがアウルの影をとらえていた。


「そこか!」


チャンスを逃すことなく、魔術を連射する。空間の壁に魔術が当たり、反射してあちこちに光属性の攻撃魔術が飛び交った。

これならいける!と思ったその時、副官は背後に冷たい空気を感じ、とっさに距離を取り、魔術の構えをする。


「なかなか良い反射神経だ。お前、アレより実力者だな」


 反応速度から察するに、身体能力も魔術も空間外にいる指揮官よりも上だろう。が、所詮『人の世』は能力の高さよりも年齢がモノを言う。上の世代が何らかの理由で落ちない限り、若者たちは上を目指しても途中で足が止まってしまう。


「『人の世』を捨てて、俺たち『多種族の世』にいれば、その能力を有効活用できると言うのに……」


 身構える副官の背後に気配なく回り、冷気を放ちながら副官の首を掴む。

 副官は足元から光属性の魔術を発動させる。すると、辺り一面が光り輝きそこにアウルの姿も映し出される。その魔術はアウルにダメージを与えるほどの力はないが、姿が現れれば勝機はある!っと叫びながら、アウルに向けて光属性魔術を放ち続けた。


「元人間の死人が、そうまでして力にこだわるか!」

「ああ、こだわるね。レイスの大半は魔術に没頭し続けた奴らの慣れの果てだって、アンタも知っているだろ?」

「過去の遺物と化したお前達に、今の『人の世』を語る権利などない!」


 アウルは放たれた魔術を全て受け続けるも、涼しい顔をして会話を続ける。


「権利などくだらない。『人の世』はその権利とやらにしがみつき、同属を見捨てている」


 副官の首から右手だけを放ち、魔術を発動させる副官の腕を掴む。

 掴まれた右手はひどく冷たく、神経が針で刺されるような感覚に襲われていた。


「だからこそ、人間はいつまで経っても進化できないのだ」


 そう言葉を発した瞬間、副官の肩から腕にかけて無数のトゲが突き出し、ドサッという音を立てて地面に落下した。


「ぐぅっ……!!!」

「いくらレイスが光属性の魔術に弱いと言っても、若造程度の魔術で俺を殺すことはできない」


 ちぎれた腕を押さえながら、それでも副官はその場に立ち続けた。その腕は無数の魔術刻印が刻まれていた。おそらくまだ繋がっている腕にも同様の刻印が刻まれているのだろう。

 なるほど、演唱なしで光属性の魔術を連打できたのはこれのおかげかとアウルは目を細めて眺めていた。


 かつての『人の世』でも魔兵になった者達が力を求めて刻印を刻んでくれと、アウルに告げてくる人を数多く見てきた。それは命を代償とする危険な行いでもあった。だからこそ、アウルたち魔術師は命を落とさせないために、死の間際まで研究を続けていた。

 それが、まさか魔兵が軍隊入りした者達が刻印を刻むことを強制させられていたことを、アウルは『とある者』と出会ってその事実を知った時、酷く後悔もした。


 アウルは副官を蹴り飛ばし空間の角へ追いやる。飛ばされた副官は起き上がろうとはせず、繋がっているもう一本の腕で再度光属性の魔術を発動させようと構えていた。


「勝機がないのに、まだやるのか?」

「ここで死ぬわけには……いかない。わたしは……指揮官殿を、まもらなければ……」


 徐々に光を増していき、光属性の魔術……それも強大な魔力を駆使する術を発動させた……が、それよりも先にアウルが残っていた腕を闇属性の魔法で剣を作り、切り落とした。


「っ!!!」

「これでもうお前は、何もできない」


 完全にその場に崩れた副官は、アウルとの魔力の格差も立ち位置も違うことを自覚し、もう立ち上がることはなくなった。




* * * * 




アウルが副官を相手にしている時、リョートは群がってくる魔兵を尻尾で吹き飛ばしたり、ドラゴンの腕でなぎ倒したりしていく。皆が皆、指揮官を守るためにリョートの周りで魔術を発動し、指揮官の元へ辿り着こうとするのを邪魔してきた。


「邪魔だ人間ども!!」


 リョートが再びドラゴンの姿に戻り、氷属性の魔法を発動し、周りにいた魔兵たちを氷漬けにし、後から駆け寄る魔兵の足を凍らせて動けなくする。

 全ての魔兵を片付け、リョートは再び指揮官の方に頭を向ける。

 指揮官は術を発動させようと陣の上で魔術を練りながらリョートの方を見て


「クソッ、使えない駒ばかり!!」


 と悪態をついていた。

 ズンズンと近づいてくるリョートの姿に怯えながらも魔術を発動させようと術を練るのを止めようとはしない。

 リョートは口の中に冷気を蓄え、一気に放射する。辺り一面を氷漬けにしていき、視界が真っ白になるまで続けた。

 グルル……と口を閉じ、周囲を見渡す。人間には耐えられない冷気、これで指揮官も氷漬けになっただろうと翼で冷気を消し去る。消えた瞬間、一ヶ所だけ地面が凍り付いていないところがあり、その中心には、氷漬けにしたはずの指揮官が立っていた。

 自分の部下を何人も壁代わりにして。


「こ、コイツ……!!」

「はっ、私のために役に立てて光栄と思うのだな」


 指揮官は魔兵をまるでごみのように投げ捨て、術の最終段階まで練り上げた。

 これで終わりだ……!!と指揮官が『自決魔術』を発動させ、森の中では何かの悲鳴と爆発音が響き渡る。

そして、指揮官は高笑いしながら『感染型呪術』も発動させようとした。


「滅びろ!下等な亜種族どもが!」

『まずい、このままでは……!』

「アウルを待っていられるか!!」


 リョートはもう一度冷気を溜め込み、一気に放射した……が、


「呪術よ、この森の下等どもに制裁を!!!」


 放射と共に『感染型呪術』は発動してしまった。それにより、指揮官の体は灰となりリョートの冷気に乗って空高く舞い上がり……


 『綿雪の森』全体に灰が降り注いだ。





 副官を戦闘不能にしたアウルは、自身をも覆っていた魔法を解除する。すると、空から白い雪のような存在が『綿雪の森』全体に降り注いでいた。


「嘘だろ……」


 間に合わなかった。術は発動してしまい、森は呪いに覆われてしまった。


「くっ……ハハハッ!」


 アウルの背後で副官が仰向けになって笑っていた。


「あわれな、実に哀れだ」

「っ……!」

「哀れだなレイスよ!この森は時間をかけ死に至る!」


 笑いながら叫ぶ副官をアウルは魔法で宙に持ち上げる。ギロリと睨め付けても、副官は笑い続けていた。

 次の瞬間、リョートは副官を氷漬けにし、尻尾で叩き潰した。


「俺のせいだ、俺が、魔兵なんかに時間をかけたせいで……」

「それを言ったら、俺にも責任はある」


 リョートとアウルは降り注がれる灰を睨みつける。


『リョート、後悔している場合ではない』


 ストールの中からβが顔を出し、リョートの頬を叩く。

 そう、この森はまだ死なない、死ぬことはない。


『すぐに感染者を翡翠の大樹に集めるんだ。アウルは『綿雪の森』全体を結界で囲んでくれ』

「ダンナ?」

「お前……まさか」


 βがアウルとリョートの前に浮きあがり


『俺が、この森の降り注ぐ呪いを解く。


それが、


『人の世』から逃げ出した、俺の役目だ』

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