中富家の記述
じじいが入院したのは、俺の誕生日の一ヶ月前だった。
「おい!じじい!何入院しとんじゃぁ!俺が20歳まで元気に過ごして、俺と一緒に酒を飲むって約束しとったろ?」と入院しているじじい…俺のじいさんに詰め寄る。
「すまんのう…最近体が動かんでな…ふらっときたと思うたら倒れて血ぃが出てのぉ。死ぬかと思うたわ。」と冷静に淡々と言われる。
こっちにとっちゃ、今元気そうにされててもいつ死にそうになるか分からん。もう75歳…そろそろ落ち着いてくれてもいいんだが、このじじいはいっつもいっつも散歩してどこぞにほっつき歩いてやがる。最初はボケてんのか?と思ってたが俺と同じで、体がウズウズして仕方がないらしい。それは俺もわかる。いつも何かしらやらかして、喧嘩とか、事件とかになる旅に青痣とか怪我して帰ってくる。人のことは言えないなと思った。
「元気そうで何よりだ。調子はどうだ?」
「今んところはマシだなぁ。それよりお前の方が心配じゃぁ。お前、また喧嘩したんけ?」と鋭く刺される。目を逸らした。
「ま…まあ。それでよ、なんの病気なんや?」
「知らん。」…いかんいかん。また手が出そうになってしまった。「知らねぇって…あのなぁ…。自分の調子ぐらい自分で管理してくれ。倒れて血ぃ出るとか普通じゃねぇだろ?」
「そうじゃのぉ。まぁ、このまま入院してゆっくりしよるわ。」とサラッと言われて、大丈夫かよ…と思ってしまった。
入院してから数日、どんどんと調子が悪くなっているような気がする。じじいは口を開けば、「ワシは大丈夫だ。」としか言わない。心配する人の身になってほしい。
最近じじいに時間を割かれすぎている。面会時間は多く取れるから、行けそうな時には付き添いに来ている。
どんどんと容態が悪くなっている。そんなような気がする。じじいはいつも減らず口を叩いているが、弱っているような気がする。
白血病だと診断が下った。やべーことは俺でもわかる。
…神様でも何でもいい。頼み込みたい。俺はじじいと酒が飲みたいんだ。
泊まり込んでもいいと許可が出た。裏返すと、もう長くないんだろう。そう思った。母親親父は仕事だ。だから俺が泊まり込む。できるだけ長くそばにいてやりたい。
何日も何日も泊まり込んだ。病院の硬い椅子で寝たからか、関節とか体が圧迫されたように痛い。
すると、夜中に病院に備え付けられた電話が鳴る。時間を確認してないが、真夜中くらいだと言うことが分かった。その電話の音にじじいも起きた。病院からの何かしらの電話なのだろうか?と思っていたら、じじいが電話に出て、何か話を聞いていた。「健人、おい。電話の主が誰かぁ分からんし、言うとることも分からん。じゃが、お前の名前を言うとるから、お前の知り合いか?」と言いながら、電話を渡してきた。こんな時間に何なんだろうか。そう思い電話に出た。
「ねぇ、知ってる?⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎は、中身が痛んじゃった!ねぇ、知ってる?⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎は、噴火しちゃった!」という不気味な少女の声に、思わずゾワっとする。どう言うことかも分からなかったし、じじいが俺の名前を言っているとか言っていたが、そんなこといたことも言ってない。続け様に電話の少女が、「絶対掛け直さないでね?」と言っていた。怖くなった。「じじい、俺はこんなやつ知らん…。何を言っているのか分からんし…中身が痛んだとか、噴火とか…内容は同じか?」と言う問いに、コクリと頷く。
怖くなってその日は寝たが、頭の中には不気味な少女の声が残っている。一体何を伝えたかったんだ。まさか、本当に神様の天啓なのか?俺の…じいさんを助けてくれるためなのか…?とも思った。藁にも縋る思いで、あの声を探った。縋りたい。縋るしかない。それしか方法がないのだから。中身が痛む…は分かんねーけど、内臓…?かなんかなのか?と感じた。噴火…は分からんが、何かが吹き出す…?考えれば考えるほど、分からなかった。イタズラ電話か、それとも…と考えても考えても、霧は払拭されなかった。
誕生日2日前、信じられないことが起こった。診断結果が覆ったのだ。あんなにも白血病、白血病だと言っていた主治医が、急にころっと意見を変えて血友病?だとか言い出した。聞くところによると、白血病より死亡率が低いらしい。じじいの場合、まだ軽症で助かるらしい…!!
「おい!じじい、良かったな!…あの電話怖かったけど…本当に天啓だったのかもしれねぇな!」と明るく振る舞う。「あぁ、それは良かったんじゃが…まあ、白血病でも血友病でも変わらんが…アルコールの摂取が禁止されてるんじゃ。」
「そんなの、どうでもいい。そりゃ、一緒に飲みたかったけどよ、死んでたら飲めねぇからな。もっと良くなってから、だ。」
誕生日当日、細々と家で酒を飲む準備をしていた。いてほしかった人はいないが…まあ。いつかは飲めるだろう。最初だから度数が少なめのビールを空けて飲む。じじいと一緒に飲んだら、もっともっと美味しかったんだろうな。
少し酔いが回ってきた。回らない頭で、最近怒った出来事を整理する。本当に、じじいの病気が分かったのは、あの天啓のおかげなのだろう。お礼が言いたくなる。
こちらから電話をかけることができるのだろうか。そう思い、電話に手を伸ばした瞬間、急に胃がムカムカする。これが二日酔いか…と思いトイレに直行する。早く異物をぶちまけたい。
トイレに着いた。もう限界だ。
「オェッ…」と吐いたと同時に激痛が走った。それと同時に、周りに血が飛び散る。激痛が走り続ける体で、なんとか生きながらえようとした。俺も、もしかしたら、あの天啓に、助けてもらえるんじゃないか…。と思いながら伸ばした手は、携帯に触れることなく地面に落ちた。
中富健人 20歳
死因 ・先天性血友病
・消化管出血による出血過多
メモ
トイレの近くで倒れていたところを両親に発見される。発見時は血で溢れかえるようだった。
近くの壁に、「ありがと」と血文字で文字が添えられていた。
アルコール摂取からくる
消化管出血によっての出血死として処理。
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