第17話 3つの絆

インターフォンを鳴らす一時間前。


☆葉月結弦サイド☆


私は気持ちが複雑でライトノベルに没頭する事にした。

今頃彼と奏さんは何をしているのだろうか。

もしかしたら結ばれているかもしれない。

そんな事を考える度に胸に鈍痛が走る。


「ダメダメ。前向きにならないと。葉月結弦はそういう女なんだから」


そして私は自室の本棚を見る。

すると...懐かしいものがあった。

それは私が幼い頃のアルバムだった。

私はそれを「うわ。懐かしい」と言いながら取り出してみる。

それから埃だらけのそのアルバムをパラパラと捲る。

そして私は懐かしい頃の雄太を見つけた。

雄太と私が祭の花火会場で綿あめを食べている。


「へぇ。こんな事もあったなぁ」


そう言いながら私はどんどんページを捲ってからくすっと笑ったりする。

それから胸が締め付けられたりする。

思い出と言うのはいつになっても色あせないな。

その様に思っていた時だった。


「え」


私は「...え?」と声を上げる。

そこに幼い少女と雄太の写真(多分お母さんが撮ったものだろう)があった。

だがそれは良い。

横に居る少女は私じゃない。

この少女の顔はどこかで...。

結構幼いけど。


「...まさか」


その言葉に私は思い出す。

見ると写真に名前がインクペンで刻まれている。

この少女の名前は流鏑馬奏(やぶさめかなで)だった。

私は「...流鏑馬...奏?」と呟く。

そういえば更に思い出した。

確かこの子、低出生胎児でもあって病気がちで直ぐにこの町から出て行き転園した。


まさか。


「...奏...さん?」


私はゾッとした。

この時に...も。

もう既に奏さんは居たという事か?

じゃ、じゃあ...その。

えっと。


「...」


探す間に自然と涙が目から溢れた。

それからぽろぽろと大粒の涙で泣いた。

何でいつも奏さんなの。

私の居場所を取らないでほしい。

奏さん。


「...こうしちゃいられない」


そう思って私は涙を拭う。

それから私はアルバムを持ってから雄太の家に行った。

そして。



「...」


私はインターフォンを鳴らしてから雄太が出て来るのを待つ。

すると玄関のドアが開いた。

それから「え?結弦?」と声がした。

私は制服を着ているその雄太に違和感を感じた。


「...なんで制服を?」

「え?あ、す、すまん。これは実は」


するとそんな雄太の背後から「結弦さん」と声がした。

私は背後を見る。

そこに制服を着ている奏さんが。

私はなんとなく察した。


「...そう」


それだけ言ってから私は「...雄太。ゴメン。良いや」と言ってからそのまま涙を流してその場を去った。

すると雄太が追いかけて来て私の手を握った。

「オイ待てよ。誤解しているぞ。何の用事だったんだ」と聞いてくる。

私は「離して」と言う。


「どうしたんだ...」

「痛い。離して」

「痛いってそんな。強く握ってないだろ」

「...心が痛いの」

「...」

「雄太...と一緒に居たのは私だよ。奏さんじゃないよ」


嫌だ。

私は雄太が好きなの。

なのになんで雄太の隣はいつも奏さんなの。

奏さんじゃないよ。

昔ぐらい私で居させて。

そう思いながら私は雄太の手を弾く。


「もう良いから。離して」

「オイ待てって」

「良いから」

「...そのアルバムの件について話したい」


雄太はそう言う。

私は「...なんで?」と聞く。

空が曇ってきた。

雄太は「そのアルバムに流鏑馬奏の情報が載っているんだろ」と指摘する。

私は「!!!」となってから雄太を見た。


「流鏑馬奏は俺の妹だ。...旧姓らしい」

「ほらね。だからもう離して。もう良いよ。帰る」

「...なんでそんなに」

「私の思い出がすり替わって行く気がしてね!!!!!なんでいつもいつも...」


激しい怒りをぶちまける。

私は雄太が大好きだ。

思い出は思い出のままに居たい。

なのになんでいつもこういうのも奏さんなの...私だって記憶は...、とそう考えていると雄太がそっと私を包み込む様にハグをした。


「落ち着け」

「...」

「お前が負けたとかアイツが勝ったとかそういうのはまだないから。俺はお前も奏の告白も尊重する」

「...雄太は優しいよ。...だから好きなの」

「分かってる」


私はアルバムを胸に添えたまま泣いた。

雄太は私の頭を撫でる。

私は雄太に縋る。

嫌だ。

奏さんに負けるのが心底嫌だ。


「結弦さん」


そう声がした。

私は顔を上げる。

そこに青ざめた感じで立っている奏さん。

外に出るのはまだ慣れてない感じの様子だった。

私は「...何?奏さん」と聞く。

すると奏さんは私にハグをしてきた。


「私、貴方には負けたくない。だけど、私、貴方に嫌われるのもイヤ」

「...!」

「だからこれからライバル同士。...ライバル同士でどっちが先ににいさんを告白に導くか。頑張らない、かな」

「...うん」


ぐじゅぐじゅの鼻声で返事をする。

子供みたいだ。

まるで子供の様で奏さんがお姉さんの様に見える。

私は情けないな。


「それでさ。結弦」

「...なに?」

「7月になってテスト終わって夏休みになったら祭りとか海に3人で行かないか」

「...いく」

「なら話は早いな」


それから私は目を擦る。

笑顔の雄太。

すると奏さんが私に手を差し出した。

握手を求めてきた。

私はその手に目を擦るのを止めた。

そして力強くその手を握り締めてからパァンと叩き合った。


「じゃあ、これから、先は...」

「どっちが先に雄太を落とせるか、だね」

「お前らな」


雲の切れ間に晴れが見えた。

それから雲は去って行く。

私達はその場で笑い合った。

どっちが先に雄太を落とせるか。

覚悟してよね雄太。

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