私を壊したのは彼女(親友)だった

藍凪みいろ

第一章 全てのハジマリ

第1話 壊れる友情

 茜色に染まる学校の廊下を足早に歩きながら、私は教室へと向かっていた。


「数学の教科書、入れ忘れるなんて我ながら抜けてるな……」


 部活終わり、スクールバックに水筒をしまおうとした時、数学の教科書が入っていないことに気付いたのである。

 足早に廊下を歩きながら、ふと窓から見える外の風景を見ると空は茜色に染まり、夕日が街並みを染めていた。


「伊織はもう帰っちゃったかな……」


 ポツリと呟いた私の声は静かな空気に溶け込み消えていく。



 教室前に着き、スライド式のドアを開けようとドアに手を掛けようとしたその時。 

 教室の中から聞き慣れた声が聞こえてきた為、私は開けようとしていたスライド式のドアからそっと手を離して、ドアにある四角い小さな窓から教室の中を伺うように覗き込んだ。


「ねぇ、伊織ってさ、綾乃と凄い仲良いよね。なのにここ最近は、一緒に帰ってないらしいじゃん?」

「うん、まあ、ちょっと色々あってね……」

「色々って、何かあったの?」

「実は…… 綾乃に告白されて……」


 ドアの窓から覗き込んだ私の瞳に映ったのは親友の橋本伊織とクラスメイトであり、クラスの中心的な存在である紺野美香だった。


 そして、教師のドア越しに聞こえてきた伊織の言葉に私の胸は高鳴り、嫌な予感を感じる。


「え? 綾乃から告白されたってどういうこと?」

「その…… 4日前の帰り際に呼び出されて、恋愛的な意味で好きだって告白された」

「マジで? え、なに、綾乃ってレズビアンだったの?」

「それはわからないけど。告白されてから綾乃とどう関わっていけばいいかわからなくなっちゃって……」


 ドア越しに聞こえてきた伊織の言葉に私の胸は締め付けられ、後悔が押し寄せてきた。

 恋愛的な意味で好きだと思っていることを伊織に伝えれば、きっと困らせるかもしれないことはわかっていた。


 なのに、伝えられずにはいられなかった。

 伊織が委員会の男子生徒と楽しそうに話しているのを見たあの日。

 私は自分の気持ちをこのまま伝えずにいることは出来ないのだと気付いてしまった。


「ごめん、伊織……」


 私は教室の中にいる伊織と美香に気付かれないように静かにその場を後にした。


     ◆     ◆     ◆


 翌日。

 いつものように教室前へと着いた私はスライド式の教室のドアを開けて教室の中へと入った。

 自分の席へと歩み寄り、机の上にスクールバックを置くなり、美香がニコニコ笑みをを浮かべながら私の前へとやって来た。


「綾乃、おはよう〜! ねぇ、伊織から聞いたんだけどさ、伊織に告白したって本当なの〜?」


 美香の高いキンキンとする大きな声が教室内に響き渡る。

 美香の声は教室にいたクラスメイトに聞こえていた為、クラスメイト逹は驚いた顔で私を見てきた。


「本当だよ」


 誤魔化すのも面倒に感じた私は動揺を隠しながらも、美香の顔を見つめ返して伊織に告白したことを肯定した。


「へぇ〜、美香ってレズビアンだったんだね。気持ち悪い。ねぇ、皆んなもそう思わないー?」


 美香は私を嘲笑いながら、教室にいるクラスメイト達に同調を求めた。

 教室にいたクラスメイト達は美香の言葉に頷き返して、「気持ち悪いと思う」や「同性好きとかおかしいし普通じゃない」などと口々に言い始める。


 私は何も言い返すことはしなかった。

 言い返したら相手の思う壺だと思ったからだ。

 私は気にする素振りを見せることなく、スクールバックの中から出そうとバックのチャックを開けようとしたその時、美香はいきなり私の髪を引っ張るように強く掴んだ。


「痛っ……!」


 いきなりのことで私は引っ張られた髪の痛さに声を上げてしまう。

 美香は私の黒髪を引っ張り掴んでいない方の右手で、私の顔を掴み顔を固定してくる。


「ねぇ、綾乃〜? 私さ、ずっと綾乃のこと嫌いだったんだよねぇ、これからさ私の玩具として私のこと楽しませてね!」

「は……?」

「ってことで、よろしくね〜、綾乃!」


 美香はそう言い終わると私の引っ張っり掴んでいた髪をパッと離してから、立ち去って行く。

 クラスメイト達は美香の行動に恐怖を覚えたのか、見て見ぬふりをしている。

 そんな中、私はまだ教室に伊織が来ていないことを確認してから安堵した。

 もし、伊織に見られていたら、自分のせいだと思ってしまったかもしれない。


「最悪……」


 私はスクールバックの中に入っていた猫の刺繍が入った白いポーチを取り出し、ポーチに入っていた櫛を手に取って、美香のせいで乱れた髪を治し始めたのだった。



 放課後。

 伊織から今日、一緒に帰れる?というメッセージがきたことにより、伊織が待ってくれている校門前へと急いで向かった。


「ごめんね、綾乃。私、もう綾乃と親友でいられない……」


 校門前へと着いて早々に私は伊織からそう告げられた。


「え……? どうして、もしかして告白したことが原因……?」

「うん…… ごめんね。綾乃とどう関わっていけばいいかわからなくなっちゃったの……」

「そっか、わかった……」

「うん、じゃあね……」


 伊織は申し訳なさそうに私を見てから、私に背を向けて去って行く。


「告白なんてしなければよかった……」


 後悔が押し寄せてくる中、私は遠ざかって行く伊織の姿を見つめることしかできなかった。

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