はぐれと龍
じーさん
第1話 龍神とはぐれ者
かつて、人知れぬ山奥の
静かに暮らす一人の陰陽師がいた。
名は
はぐれ者と呼ばれ
その左目には、古ぼけた眼帯の下に異形の義眼を隠し持つ男。
世の
誰とも深く関わらず、ただ己の術を磨く日々を送っていた。
彼の庵に、ある日、一人の男が現れた。
純白の
銀色の髪は月の光を吸い込んだように輝く。
見る者を畏怖させるほどの気品を宿しているが
その瞳は氷のように冷たく
あらゆる感情を拒絶しているかのようだった。
男は、自らを
「貴殿の術の腕、噂に聞いている。
その言葉は、命令であった。
何の遠慮も、敬意もなく
ただ与えられた使命を果たすよう求める
絶対的な支配者の響き。
冷めた目で男を見やった。
「へっ。随分と偉そうな口を叩くもんだな、お坊ちゃん。俺は誰の指図も受けねぇ、はぐれ者だ。てめぇの退屈な遊びに付き合ってる暇はねえ」
以来、誰の命令にも従うまいと誓っていた。
ましてや、感情の欠片も見えぬ
この傲慢な男の配下になるなど、もってのほかだ。
「貴殿の過去は知っている」
感情のない声で告げた。
「その身に宿す、異形の力も。貴殿は、
(こいつ……どこまで知ってやがる……)
彼の異形の力――左目の義眼に宿る
全てを見通し、全てを破壊する禁忌の力は、誰も知らないはずだった。
「
庵全体が、凍てつくような霊力に包まれた。
それは、
深く、そして冷たい、絶対的な力。
「へっ。面白い。てめぇのような感情のねぇ人形が、どこまで俺を縛れるか、試させてもらうぜ、龍神様」
そう、男の正体は
この国の守護を司る、人ならざる存在――龍神。
だが、
何かを深く押し込めているような
言い知れぬ虚無を感じ取っていた。
それは、
拭いきれない喪失感にも似た、影。
二人の出会いは、支配と反発。
しかし、その始まりは、互いの心の奥底に
静かな波紋を広げ始めていた。
冷徹な龍神と、はぐれ者の陰陽師。
異なる道を歩んできた二つの魂が
今、交錯しようとしていた。
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