愛人・莉子の懺悔——あの夜、妻は死んだ ~私が彼を奪った日から、階段で突き落とされるまで~
ソコニ
第1話 「私が彼を奪った日」番外短編
## プロローグ:罪の始まり
私——沢村莉子、28歳——は、人を愛することに臆病だった。
過去の恋愛で傷ついて、もう誰も信じられなくなっていた。
仕事と友達だけで満たされる日々。それで十分だと、思っていた。
あの人に、出会うまでは。
## 第一章:運命という名の罠
2023年8月、金曜日の夜。
仕事終わり、同僚に誘われて渋谷のバーに立ち寄った。
「莉子ちゃん、たまには飲もうよ!」
ユイの明るい声に押されて、カウンター席に座る。
カクテルを一口飲んで、ほっと息をつく。
**疲れてた。**
毎日の接客、クレーム対応、売上のプレッシャー。
アパレルの仕事は好きだけど——疲れる。
「あの、隣いいですか?」
低い声が、聞こえた。
顔を上げると——
スーツ姿の男性が、立っていた。
三十代半ば。整った顔立ち。優しそうな目。
「あ、はい……」
思わず、頷いていた。
男性が、隣に座る。
「一人で?」
「いえ、友達と……」
ユイを見ると、ニヤニヤしながらこっちを見ていた。
**あ、これ、わざと席外してる。**
「僕も一人なんです。仕事終わりで」
「そうなんですか」
「よかったら、少し話しません?」
優しい笑顔。
なぜか——断れなかった。
「……はい」
## 第二章:甘い言葉
「僕、桐谷隆志って言います」
「沢村莉子です」
「莉子さん。素敵な名前ですね」
**初めて会った人に、そんなこと言われたことなかった。**
顔が、熱くなる。
「ありがとうございます……」
「お仕事は?」
「アパレルです。渋谷の路面店で」
「へえ。じゃあ、ファッションセンス良さそう」
隆志さんが、私の服装を見る。
「今日の服も、すごく似合ってる」
「あ……ありがとうございます」
**褒められるの、久しぶり。**
心臓が、ドキドキする。
「隆志さんは?」
「商社で営業やってます。まあ、地味な仕事ですよ」
謙遜するように笑う。
**でも、スーツの仕立ての良さを見れば——きっと、いい会社なんだろう。**
「大変そうですね」
「まあね。でも、今日みたいに素敵な出会いがあると、疲れも吹き飛びます」
**え……今、私のこと?**
「……っ」
顔が、真っ赤になる。
隆志さんが、優しく笑う。
「照れてる莉子さん、可愛い」
**可愛い——**
そんなこと、言われたことない。
いや、昔はあったかもしれない。
でも、最近は——
**誰も、私を見てくれなかった。**
## 第三章:告白という罠
それから、二時間。
気がつけば、私たちはずっと話していた。
趣味の話。
好きな映画の話。
休日の過ごし方。
**不思議と、話が合った。**
いや——隆志さんが、合わせてくれていたのかもしれない。
でも、それでも——
**嬉しかった。**
「そろそろ、お店閉まっちゃいますね」
隆志さんが、時計を見る。
もう、日付が変わる時間。
「本当だ……」
「莉子さん、連絡先交換しませんか?」
「え……」
「また、お話ししたいんです」
真剣な目で、見つめられる。
**ドキン、と心臓が跳ねた。**
「……はい」
スマホを取り出して、LINEを交換する。
店を出ると、夜風が心地よかった。
「送りますよ」
「大丈夫です。駅近いので」
「じゃあ、駅まで」
隆志さんが、並んで歩いてくれる。
駅の改札前で、立ち止まる。
「今日は、楽しかったです」
隆志さんが、微笑む。
「僕も。また、会えますか?」
「……はい」
「よかった」
そう言って——
隆志さんが、私の頬に軽くキスをした。
「っ!?」
「おやすみなさい、莉子」
そのまま、去っていく隆志さんの背中。
私は——頬に手を当てたまま、立ち尽くしていた。
**これが、運命の始まりだった。**
**罪の、始まりだった。**
## 第四章:秘密という甘い毒
それから一週間後、隆志さんとデートをした。
映画を見て、ディナーを食べて。
**楽しかった。**
本当に、楽しかった。
でも——
「ねえ、隆志さん」
「ん?」
「隆志さんって……結婚してるんですか?」
聞かなきゃいけない気がした。
隆志さんが、一瞬表情を曇らせる。
「……してます」
**やっぱり。**
心臓が、ぎゅっと締め付けられる。
「でも——」
隆志さんが、私の手を握った。
「妻とは、もう冷え切ってるんです」
「……え?」
「結婚したのは、もう10年前。最初は良かったんだけど」
隆志さんが、辛そうに言う。
「今は、会話もないし、笑顔も見せてくれない」
「……」
「家に帰っても、冷たい空気が流れてるだけ」
隆志さんの目が——悲しそうだった。
「だから……莉子に会えて、救われたんです」
「隆志さん……」
「離婚も、考えてます。でも、手続きが大変で……」
「そう、なんですね……」
**罪悪感が、胸に広がる。**
**でも——同時に。**
**この人を、救いたいと思った。**
「もし、莉子が嫌なら——」
「嫌じゃ、ないです」
私は——隆志さんの手を、握り返した。
「私で、良ければ……」
隆志さんが、ぱっと顔を明るくする。
「本当に?」
「はい」
「ありがとう、莉子」
隆志さんが、私を抱きしめた。
**温かかった。**
**でも——どこか、冷たかった。**
## 第五章:高揚と罪悪感
その夜、家に帰ってから——
ベッドに倒れ込んで、天井を見つめた。
**私、何やってるんだろう。**
既婚者と、付き合おうとしてる。
これって——
**不倫だ。**
罪悪感が、胸を締め付ける。
でも——
スマホが震える。
**『隆志💕:今日は楽しかった。莉子に会えて、本当に良かった』**
そのメッセージを見た瞬間——
**嬉しさが、込み上げてきた。**
**『私も楽しかったです』**
返信する。
すぐに、返事が来る。
**『莉子は、俺の光だよ』**
**光——**
**私が、誰かの光?**
涙が、溢れてきた。
**嬉しいのか、悲しいのか、わからない。**
**でも——**
**この感情を、止められなかった。**
鏡に映る自分を見る。
「ごめんなさい……」
誰に向かって謝っているのか、わからない。
隆志さんの奥さん?
それとも——
**罪を犯す、自分自身に?**
「ごめんなさい……でも……」
**「好きになっちゃった」**
## エピローグ:奪った日
翌週、隆志さんから連絡が来た。
**『今度の週末、泊まりで出かけない?』**
**泊まり——**
心臓が、跳ねる。
**それって、つまり……**
**『いいですよ』**
返信した指が、震えていた。
週末。
隆志さんと、箱根の温泉旅館へ。
部屋に入ると、夜景が綺麗に見える窓。
「綺麗……」
「莉子も、綺麗だよ」
隆志さんが、後ろから抱きしめてくる。
「っ……」
「莉子、愛してる」
耳元で、囁かれる。
**愛してる——**
**その言葉に、全てが溶けた。**
その夜——
私は、隆志さんのものになった。
そして、隆志さんを——
奥さんから、奪った。
朝、目覚めると——
隆志さんが、まだ寝ていた。
その寝顔を見ながら——
**私は、泣いていた。**
**嬉しいのに。**
**幸せなのに。**
**罪悪感で、胸が潰れそうだった。**
**「ごめんなさい……ごめんなさい……」**
知らない誰かに——
隆志さんの奥さんに——
**謝り続けた。**
**でも、止められなかった。**
**この恋を。**
---
私が彼を奪った日——
それは、私の幸せの始まりであり。
そして、誰かの不幸の始まりだった。
---
## 【番外第1話 終わり】
番外第2話「見えない妻の影」に続く
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