第5話・屋上

 20XX年7月18日水曜日9時30分

 ホームルームが終わり、一限目の準備をする

 カバンから筆記用具を出し、机に置く

 ──置けなかった

 僕はペンケースを持ったまま止まった

 机の上に堂々と……そう堂々とあの猫がいるのだ

 

「なんでお前ここにいるんだよ!?」


 つい大声を出してしまった

 自分の声が教室……いや、廊下まで響いたのがわかる


「ワシのことは霊感があるやつしか見えん

 気にすることはないわい」


 そういうことは先に言え

 さっきの声のせいで周りの視線が全て僕を向いている

 とそこに


「何でけぇ声出してんだ、お前」


 声をかけてきたのは、原井 紀途はらい のりと

 こいつは、僕の幼少期からの幼馴染だ

 代々心霊関連の仕事をしているらしい


「んだ、その猫?」


 早速反応した

 何が見えないだ、嘘つき猫が

 そう思い猫の方を見る

 猫は口をあんぐり開け「嘘だろ」みたいな顔をしている


「貴様、ワシが見えておるのか?」


 険しい表情で猫が紀途に問う


「見えてるか見えてないかで言うと……はっきりと」


 困惑したように答える紀途

 そりゃ、猫が突然しゃべったら困惑もするわな


 

 3人──いや、2人と1匹というべきか

 話したいことが多すぎて時間がないので、昼休憩に集まることになった

 4限目の終了を知らせるチャイムが鳴る

 号令を終えると紀途に連れていかれる

 人けのないところがいいから、と紀途について行く

 ついたのは屋上への入り口だ


「おい、屋上は立ち入り禁止だろ

 てか、鍵が閉まってて入れないだろ」


 わかってないな~お前は、みたいな顔をされた


呼魂こだまは真面目だなぁ

 いいか?屋上はな、青春なんだよ」


 また、紀途の青春語りが始まってしまった

 こうなっては何も会話にならない


「それに鍵はある」


 ポケットから普通に出てきたそれは、施錠されている屋上を解放させた

 まず僕のことよりもこいつの話(言い訳)を聞く必要がありそうだ



 屋上には、数年の間放置されたようなベンチが2つ並んであった

 僕らはそこに腰を掛ける

 それと同時に僕の頭から猫が出てくる

 

「早速本題に入ろうか」


 珍しく真剣な紀途

 僕は彼のこんな姿を見るのは初めてだ


「まず、なんでお前みたいなのが呼魂と一緒にいるの?」


 冷たい、突き刺すような視線だ

 


 「──ワシも予定が狂っていてな

 本来契約していない人間に助けを乞うのは良くないがの」


 ため息をつくと話し始めた


「ワシとこいつが一緒にいるのはただの利害の一致ってやつじゃ

 そして貴様にも手伝ってもらう」


 手伝わないと殺すという顔をしている

 

「手伝う?俺が悪霊お前に手を貸す理由がないな」


 紀途は反発する

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