みなしくるの短編集
@minasicl
Story.1 アンパムマンとアベベの幻影
ニャップ国は、ある意味「豊か」と呼ばれる国だった。
税収は過去最高。A国から強制的に買わされた軍事ドローンが空を覆い
政治家は胸を張って「平和のための力」と言った。
街のスクリーンには「ありがとう政治、がんばれ国!」の映像が一日中流れていた。
人々は笑っていた。
アンパムマンがまだ若かったころ、【アベベ】という魔王がいた。
【アベベ】は、国の中心に立ち、笑顔で民を眠らせた。
「努力と自己責任!」「責任を取ればいいというものではありません!」
そう言いながら、国の税を魔力に変え、弱者を砂にした。
??「いや、正確には 骨の粉やろがい!」
アンパムマンは、命を懸けて戦った。
パンの顔を千切り、ジャムオジパンを時には捧げながら、アベベを倒した。
だが——国は変わらなかった。
【アベベ】が倒れた夜、テレビではこう報じられた。
「アベベ政権、功績を残して退陣」
翌日、街には記念セールが開かれ、人々は笑顔でパンを買った。
子どもたちはアンパムマンの像に落書きをし、
大人たちはSNSで「やりすぎ正義パン男」と笑った。
SNS「弟子やったらな・・・パンパンやな お前」
アンパムマンはそのとき、初めて知ってしまった・・・
「そうだ悪を倒しても、人々が夢から覚めなければ、正義は幻なんだ・・・」と。
年月が過ぎ、彼は老いた。
ジャムオジパンの工場は政府に買収され、「公共パン供給センター」になった。
パンは補助金で作られ、配給されたが、味はもう――なにも感じなかった。
その頃、【アベベ】の弟子たちは「民の代表」として次々に政権を取った。
謎のSNS「弟子やったらな・・・パンパンやな お前」
アンパムマンは街角で呟いた。
「安定とは、腐敗の別名じゃないのかい?」
だが、誰も耳を貸さなかった。
市民たちはスマホを見つめ、バズる動画に夢中だった。
そしてある日。
アンパムマンは一人でパンを焼いた。
誰にも食べられない、自分だけの最後のパン。
オーブンの中で、焼きあがる香りが過去を呼び戻す。
ジャムの匂い、バータの笑顔、子どもたちの笑い声。
それらはすべて、国家PR映像の素材として使われたものだった。
「僕の正義は、広告にされたのか……」
彼は最後の力でペンを取り、パンの表面に文字を書いた。
やがて彼の身体は崩れ、粉のように風に溶けていった。
残されたパンには、かすれた文字がこう刻まれていた。
やるせ
なさし
その夜、ニュースはこう報じた。
「元ヒーローの老パン男、孤独死」
だが、電波のすき間に、誰にも届かない微かな声が残った。
「正義の味が消えても、まだ焼ける者のリズムを知っているものはいるか?」
それを聞いた者はいなかった。
ニャップ国は今日もゆるやかに洗脳されて、
豊かという文言が飛びかっていた。
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