第2話 HAZAWA世界戦略構想(二)
「次に各部署の報告を頼む。」社長は静かに席に座った。
総務部長入来博が立ち上がり、手元の資料を整えながら口を開く。
「それでは、各部門からの報告に移らせていただきます。順に、総務、経理、人事、法務、技術、販売、の順でお願いいたします。」
会長である羽沢慎之介の前に置かれた資料の束には、総務から販売まで、各部門の報告書が並んでいた。 彼は一枚ずつ目を通すが、言葉は発さなかった。
社長の羽沢祐一郎も同様だった。
『ここまで目新しい報告はないな』
法務まで滞りなく報告が終わり、技術部の番になる。
「「技術部 報告させていただきます。北米でのシェアを伸ばすために開発したアステルナが完成しました。現在安全性を立証するためにテスト走行を継続中です。さらにNASACARの使用車両を現行のパルスより変更申請を行いクラッシュテストも合格し承認されました。次戦のシャーロッテより投入予定です。さらに日本向けにアステルナを調整中です。
さらにメーカーオプションやプレミアム機能を装備したエディションの追加も準備中です。
主力商品である軽部門ですがベルナのマイナーチェンジも終わりました。
ベルナは現在販売実績では早瀬のペンシルについで第二位ですが女性購入率が高くデザインもさらに女性受けするようにしました。運転しやすいように完全な自動運転機能ではないですが軽の値段帯は維持しつつ運転をアシストできる機能を搭載します。ベルナで早瀬からシェア1位を奪取します。
アステルナとベルナの性能につきましては後日の技術会議にて報告させていただきます。
今後は来年マイナーチェンジ予定の車に取り掛かります。以上です。」
技術部長の田野倉宗則が誇らしげに報告を終える。
販売部 報告させていただきます。現在の販売状況ですがここ半年ほど全ての車種が横ばい状態です。この一年ラインナップ追加やマイナーチェンジがないというのが原因と思われます。ベルナだけが台数的に好調ですが、マイナーチェンジ前の駆け込み購入で値引き額が多く思うように利益があがっていません。新CMも有りませんので販促費はほとんど使っておりません。
ベルナの発売と同時に一大キャンペーンを張ります。
人気アイドル高松美波と清宮蓮をイメージキャラクターに据えて新CMの撮影 ディラーやショッピングモールでのイベント等を考えています。販促費に関しましてお手元の資料を御参照ください。
日本向けアステルナはまだ先ですが東京モーターショーに出展後に販売開始、同様のキャンペーンを考えております。以上です。」
販売部部長の井関正孝が報告を終える。
総務部部長の蒲生照也が締めに入る。
「各部署報告が終わりましたが意見・質問ないですか?
社長・会長最後に何かございますか?」
会長の羽沢慎之介が口を開く。
「よく社運を賭けたとかいう場合があるが今回はまさにそうなんだ。現状君たちの給料に影響はないがこの構想うまくいかなければ経営陣だけでなく君たちや一般社員の給料にまで響くんだ。繰り返し言うがこのままでは今後数年は大丈夫だが10年後はないかもしれない。
みんなのより良い生活の為に全社員一丸となって取り組んでほしい。」
「では会議を終了させてもらいます。」
総務部部長の蒲生照也は会議の終了を宣言した。
会議室に沈黙が落ちた。誰も立ち上がらず、資料の束だけが静かに閉じられていく。羽沢の言葉が、まだ空気の中に残っていた。
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