第4話 藍は、上手く解けない⑴
窓から、区切られた空を見上げる。それはまるで絵画のようで、俺はそれに思いを馳せていた。
そうやって、いつも通りの日常を明石たちと過ごせればよかったんだが……。
「学食はどこにあるのかしら?」
「後で連れてくよ」
「なら、科学室はどこかしら?」
「移動授業の時に教えるよ」
こいつが終始俺に質問をしてくる。おい、副委員長!少しは助け舟を……。いや、両手を握って、「頑張って!」ってポーズされても!明石は俺の気まずそうな顔に苦笑いを浮かべ、荒木は面白そうに笑っていた。
おい、昨日の発言はどうした!少しは支えてくれよー!
すると、「しょうがないなぁ」とでも言うように、ゆっくりと荒木がこちらへやってくる。
「やっほー。川合さんだよね。私は荒木彩葉。川ちーって呼んでいい?」
「別に他人からの呼称にはこだわってないわ。そんなもので崩れるブランドイメージじゃないもの。好きに呼びなさい」
「そ、そっか」
完全に川合は心を閉ざしているな。案外、俺に対する態度は軟化していたようだ。
「怖い!なんか川ちー怖いよ!」
「まるでバラだ……。傍から見るのが1番だな」
なるほど、まるで彼女そのものだな。綺麗なバラには棘があり、川合にも刺がある。
そんなふたりを見かねて、ついに咲が動き出した。
「中学校の頃から変わらないなぁ……。おはよー、涼子ちゃん」
「あら、おはよう、咲さん」
少しだけ、川合の表情が和らぐ。やはり、中学校からの知り合いに対しては棘は少なくなるようだ。
「髪型、変わったんだね」
「えぇ。こっちの方が楽なのよ」
ふわふわと、少し髪を触った。川合は、中学校のころはかなり髪が長かった。まるで絹のように纏まった髪、反射した光は、まるで星のように輝いていた。
「まるで、髪型を入れ替えたみたいね」
「……あはは。そうだね」
そういえば、こいつは髪が短かったな。伸ばし始めたのはいつかは忘れたが、高校1年の頃にはもう今の髪型でイメージが固定された。
「2人も友達だから、仲良くしてくれると嬉しいんだけど……」
「そう。でも、私は仲良くなる人間は自分で見定めるわ」
前言撤回。咲にも毒は吐いてる。それでも、咲はめげずに笑顔を作る。健気だ。
「そ、そっか!なら、紹介だけするね!明石くん!カモン!」
「どうもー、明石隼人です!」
「そう、よろしくね。あなた、本当に私と仲良くなりたいのなら、自分から声をかけるくらいの気概を見せなさい」
「たしかに、毎度私の力を借りる訳にも行かないしねー」
「あははー、そうだよなぁ」
そう言いながら、明石は笑った。そこから話を続けられるのが、こいつの凄さだ。
「ねぇ、少し教えて欲しいのだけど……」
「なんでも聞いてよー」
「勉強のことなら、教えるぞ?」
それなら、後回しにしなくて済むし、ここで教えるだけでいい。
しかし、彼女はムッとした顔で、抗議してくる。
「違うわよ。こんな基本的な内容で、私が苦戦すると思ってるの?舐められたものね」
「そりゃ失礼しました。なら、何が聞きたい?音楽室の場所?トイレの配置?それとも……」
「学食のおすすめメニューよ」
こいつ、2限目から昼食のことで頭がいっぱいだ!でもそうか、おすすめか……。
「そうだな……、カツ丼とか、醤油ラーメンとか……」
「天ぷらうどん定食ー!」
荒木が笑顔でとんでもないカロリー爆弾を押し付けようとする。一瞬、川合の目が輝いた気がした。
というか、荒木が天ぷらうどん定食を食べているのを見た事ない。
「辞めとけよー、それ天ぷらうどんに特大おにぎり二つも着いてくるんだから」
「さらに天ぷらがドカ盛だからねー。お腹に脂肪もドカ盛だよ……」
ちなみにおにぎりは、ふたつ合わせてご飯大盛りくらいの満足感がある。それだけで、満足してしまうほど。
「じゅるり……」
「ヨダレ拭けヨダレ。ったく、過度な期待をするなよ?あくまで高校の学食。レストランじゃないんだから」
「わかってるわ。楽しみね……」
ほんとにわかってるんだろうか。さっきからヨダレが留まるところを知らないが……。というか、こいつこんなはらぺこキャラだったか?
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