氷と太陽
𝗿𝗶𝘁𝘀𝘂
第1話 氷ちゃんと太陽くん
「―おれさ、もう何すれば喜んでくれんのか、分かんない。お前、いっつも真顔だから。·····別れよう、芽衣。」
ジリリリリリ
朝6:00。
毎日同じ時間、同じ夢を見て目覚める。
「·····んー····。」
アラームを止めて体をおこす。
カーテンの隙間から、まぶしく光る朝日が差し込んできた。
爽やかな、春の朝だ。
「芽衣?起きたのー?」
部屋の外から、姉の声がした。
「うん、今行くー」
私はそう言ってベッドから降りた。
そして爆速で制服に着替えて、その辺に置いてあった白色のリュックをとる。
ガチャっとドアを開けて、部屋を出た。
今日も、騒がしい一日が始まる。
「あ、芽衣おきてきたーおはよ」
「結衣姉、今日2限?いつもより遅いね」
「今日はね講義ない!バイトだよー」
姉が作ってくれたハムチーズトーストをがぶり。
姉は近所の短大に通う大学生だ。
そして私は少し離れたところにある高校に通う高校2年生。
うちは自営業で楽器店を営んでいるので、基本的に朝は両親共々寝ている。
「ねぇ、進級して1週間でしょ、なんかあった?面白いこととかさ。」
姉が机に身を乗り出して聞いてきた。
「·····面白いことって?」
「んー、あ!恋バナとか?」
「·····結衣姉さ、」
「ん?」
「私からそんな話、出ると思う?」
「··········いや、思いません。」
「だよね。面白いことなんて何も無いよ。
ほとんど1年の時とクラスメイト変わってないし。」
「そっか、特進2クラスか。」
「そ。じゃあ私先出る。いってきます。」
「はーい気をつけてねー」
姉が手を振る。
少しだけ口角を上げて笑ってみる。
そして茶色いローファーを履いて、ガチャっとドアを開けた。
暖かい風が入り込んできた。
芹野芽衣、高校2年生。
部活は吹奏楽部で副部長。ホルン担当。
成績は学年TOP5には常に入っているし、結構いいと思う。
友達関係もそこそこ。
不自由なんてないじゃないかとみんなは言うけれど、そんな私には、最近悩みがある。
2年生になって新しいクラスになった時、周りの席のほとんどの人が、去年からのクラスメイトだったのだが、隣の席のアイツだけは、よく分からない。
なぜこいつが特進に?というほどの頭の悪さで、特進2クラスのなかでは間違いなくビリだ。
そこそこの進学校なのに、髪を明るい茶色に染めて、制服もいつも着崩してる。
オマケに耳には左右で合わせて3つ以上のピアスがついてる。
遠くから見ても目立つ彼は、ガリ勉の集まる特進クラスのなかで、常に注目の的だ。
そいつの名前は、朝間琉生。(あさまるい)
とにかくチャラい。
うざい。
最近の私の、悩みの種だ。
教室に着いて席に座ると、てててと1人、ボブの髪をしてパーカーを着ている女子が私の元に歩いてきた。
中学からの親友である、音原麦(おとはらむぎ)だ。
「芽衣おはよー」
「おはよ。」
「ね、まだ来てないね、例の彼」
「·····来て欲しくない」
「へ?」
「私最近あいつのせいで悩んでるの!
授業に集中できない。」
私の返事に麦はんー、と言った。
そして
「·····ま、私からみてもそうだけどね」
と付け加えた。
私と麦がそう話していた時、教室の扉が、勢いよく開いた。
そこに立っていたのは、5人組の男子。
他の4人が黒い髪をしている中で、ひとりだけ明るい茶色い髪。
例の朝間琉生だ。
今日の彼は、赤いパーカーをダボッと着ている。
「おい琉生、今日の部活絶対遅れんなよ!」
「あと客連れてきてねー」
なにやら話しながら、その集団は私と麦の方へ近づいてきて、私の隣の席で集合した。
5人組の中の1人、黒い髪をノーセットにしている男子が、私に声をかけてきた。
「芽衣、おはよう」
「·····翔、おはよう」
八雲翔(やくもかける)、昔からの腐れ縁だ。
翔を始めに、他の4人もあいさつしてきた。
「芹野さんおはよう!相変わらずクールだねぇー!」
「おはよっす」
「おはよー、芹野も音原も」
そして最後に朝間琉生。
「おっす芹野、今日も真顔だな!」
チャラい。
陽のオーラが出ている。
この5人組は、特進クラスの中で1番目立つ。
朝間を筆頭にした、モテ集団である。
こいつらはみんな、私のことをクールだねと毎朝言ってくる。
うざいくらいに。
「·····真顔で悪かったね。」
そう言って私はまた麦と話し始めた。
しばらくしてチャイムがなり、麦と朝間と取り巻きたちは自分の席に戻って行った。
1番前で先生がなにやら話をしている時に、隣の席の朝間が話しかけてきた。
「芹野サーン、」
「··········なに」
「今日の放課後ってさ、暇?」
「··········ひまじゃない。部活」
「うそでしょ、翔はないって言ってた。」
チッ。
翔も吹奏楽部だった。
「·····で、なに?部活はないけど、そんなに遅くまでは無理。」
「あのさ、今日おれら新歓ライブすんの。
見に来てくんない?」
翔ともう1人の取り巻きをのぞく残りの3人は、みんな軽音楽部だ。
「··········やだ。」
「そこをなんとか!昨日もやったんだけど、全然人来なくてさ!お願い!」
「それなら、翔と山下くん(もう1人のnot軽音楽)に頼めばいいじゃん。」
「あいつらは来る。もう誘ってある。」
「··········ええ·····?」
「なに、なんか予定でもあんの」
「·····今日は麦と帰るから。」
「··音原さんも来るよ、昨日誘っといた。」
「は。」
チクショウ。
「ね、お願い来てよ、なんかお礼するからさ」
むむ。
そういわれると、ちょっと断りずらい。
ただに勝るものはないからね。
そして放課後。
来てしまいました体育館。
山下くん、翔、私、麦の順で、パイプ椅子に座った。
お客さんは本当に少なくて、私たちは2列目の真正面。
前も後ろも、誰もいなかった。
「·····意外。芽依も来るなんて思わなかった。」
隣で翔が言った。
「··········お礼くれるって言ったから」
「ああなるほどな。芽衣はお金に目がないからな〜」
「いやお金じゃないよ、無料だから。」
そんなことを話していると、びーっと音が鳴って、体育館の照明が、一気に落ちた。
そしてステージの上だけが、ピカっと輝いている。
しばらくして、幕の裏から6人ほど、楽器を持った男子がステージへ出てきた。
ギター、ベース、キーボード、ドラム、·····
楽器屋の娘なだけあって、どこのメーカーか分かってしまうのがちょっとやだ。
いつも教室で見かける3人は、2人がギターで、朝間がベースだった。
(·····ベース、昔やってたなぁ····)
父に教えられて昔練習していたのを思い出した。
先輩を含めても1番目立つ容姿の朝間は、いつもの笑顔でこちらを見ている。
先輩らしき人が、今話題のバンドのヒット曲のタイトルを叫んだ。
隣で翔が、
「これ俺大好き。」
と言った。
「それでは、聞いてください!」
その声とともに、有名なイントロが響いた。
ドラム、ベース、ギター、キーボードの順番で弾いていくイントロで、演奏している一人一人を目で追った。
ドラムの先輩、力強くていいな。とか
ギターの2人、結構うまいな。とか
キーボードのひと、手動かすの早!とか
そういうことが、頭に浮かんだ。
そしてチラッと朝間を見た時、いつもふざけ笑っている彼の表情が、はじめてみるくらい真剣で、なぜか引き込まれてしまった。
そんな私の様子を見て、翔が
「琉生、めっちゃかっこいいでしょ」
と言ってきた。
私は翔に、
「·····別に」
と言った。
翔はふーん、と笑った。
加えて3曲、全部で4曲の演奏をし、新歓ライブはお開きとなった。
麦の提案で、みんなでご飯に行くことになり、近くのファミレスにみんなで集まった。
私の隣には、なぜか朝間と翔。
麦の隣が良かった。
軽音楽部の1人が、
「なぁ、演奏どうだった?」
と聞いてきた。
私と麦は
「すごかったよ!」
と言った。
翔も
「俺あの曲好きでさー、」
とか話している。
その時、隣の朝間が、机に顔を突っ伏して、私に聞いてきた。
「ね、俺かっこよかった?」
(·····!?)
え、なに急に。
朝間の目が、私に向いている。
少し考えて、
「·····別に」
と言った。
だけどそういった時の朝間の顔が、すこしうなだれたように見えたので、私はあわてて
「··········ベース、うまかった。」
と加えた。
今度は朝間の顔が、いつもよりも太陽のように晴れた。
·····と思う。
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