魔導書を拾う
@ceoite98
第1部
1~2 死と蘇生
10年前。
地球に、それまでなかったものが現れた。
少数は幽霊や精霊と呼んだが、
最も多く呼ばれたのは、小説やゲームでお馴染みのモンスターだった。
だからといって、生徒が学校に行かなくてもいいわけではなかった。
退屈な終業式の中、私たちは小さな声で話した。
「いつ終わるんだろうね。」
「それな、死にそう。」
レンと僕は幼い頃からの知り合いで、両親を亡くした後も以前と同じように接してくれた唯一の友達だ。
「河口湖に行くんだって。」
「そこどこ?」
「知らない。」
「お前が知らないなら誰が知るんだよ。」
レンの家族旅行に僕も同行することになった。
元々は行くつもりはなかったのだが、以前からよく会っていた方々で、どういうわけか僕の事情を知って一緒に旅行に行こうと誘ってくれたのだ。
短い夏休みが始まり、
湖の近くへ遊びに行く日になった。
「行ってきます。」
「気をつけて行ってらっしゃい。」
「はい。」
レンの家に行くため外に出た。
出てみれば、空には雲一つなかった。
照りつける日差しに目を細めた。手をかざして顔を覆った。
今日行く場所が湖のあるところだというから、水遊びには良い天気だった。
道を歩いていると書店が開いていたので足を止めた。
僕は本とは縁遠い人間だが、レンは本が好きだ。
ふと、お小遣いを全部使って本を買うお金がないと愚痴をこぼしていたのを思い出した。
書店に入ってレンにプレゼントする本を一冊購入した。
途中で変なことがあったような気もしたが、徹夜でゲームしていた疲れのせいだと思い、目的地に向かって歩き出した。
「こんにちは、ユウマお兄ちゃん。」
「久しぶりだね。」
ユイが車の横で僕を見て手を振っていた。
彼女に近づいた。
顔に何かが塗られている。
ぎこちないけれど、それなりに頑張った跡が見える。
「化粧したの?」
「私の友達もみんなしてるのよ。最近これが流行りなんだって。」
その言葉にユイを素早く見回した。
会わない間に見違えるほど成長していた。
「化粧?しなくてもいいんじゃないか?」
妹同然だから言う言葉だ。
「ユイ、ユウマお兄ちゃんの言うこと聞いた?
「そうだよ、見せる相手もいないのに幽霊みたいに化粧するなよ。オエッ。」
声が聞こえる方に顔を向けると、家からレンの家族が出てきていた。
ユイに車に積まれた荷物を守るように言いつけて、物を運んでいたようだ。
「こんにちは。」
「久しぶりね。旅行に行くのに良い天気でしょ?」
「はい。」
「おい、ここに来てお前も荷物を持て。」
僕は両手いっぱいに荷物を持って出てくる彼らに近づいた。
「ください。」
もちろん、おばさんの荷物を持った。
「ありがとう。」
「いや、俺が持たないと。」
運転はレンのお父さんが。
助手席にはおばさんが座り。
後部座席はレンとユイ、その隣に僕が座った。
「私も窓際に座りたい!」
「なんで? 私も外見ながら行くもん。どこがお兄ちゃんに口答えしてるの?」
「あら、あなたたち、ユウマもいるんだからもう喧嘩やめられないの? お母さんはあなたたちが一日でも喧嘩しなかったら願いはないわ。」
弟や妹がいる家はみんなこんなものなのだろうか。
くっついていれば喧嘩しない時がない。
二人とも僕といる時はそうしないのに、なぜか二人でくっついているとこうなる。
耳が痛くてユイに席を替わってあげようかと尋ねた。
「あっ、本当に? やっぱりユウマお兄ちゃんしかいないね。見た? あなたも妹にこうしてあげて。」
「何? まだ殴り足りないってこと?」
「お母さん、お兄ちゃんがまた私を殴ろうとしてる!」
席を替わってあげようとしたが、動くと危ないからおばさんの言われ、僕はじっとしているしかなかった。
「チッ。」
そうしてしばらく車に乗って移動していると、ふと本を買ってきたことを思い出した。
会ってすぐに渡そうと思っていたのだが、あまりに慌ただしくて忘れていたのだ。
「おい、お前にやるものがある。」
「うん? 何?」
「ちょっと待って。」
本を取り出そうとカバンを探っていると。
「な、何?」
「きゃー!」
悲鳴のような声に顔を上げた。
ドスン! ドスンー
「!!」
目の前にモンスターが現れた。
車がボーリングのピンのように吹き飛ぶ!
「車から降りろ!」
彼の言葉通り車から降りようとしたが、僕は直感した。
遅いと。
死にたくない。
いや、死ぬとしても両親を殺したモンスターにだけは殺されたくない。
しかし、そいつは目に見えるよりもはるかに速いスピードで距離を縮めてきて、結局避けられなかった。
ドスン。
事故で体が宙に浮き上がっていると、ふと書店で触った奇妙な本が体の中に消えたのを思い出した。
死ぬ間際なのに、なぜこんなことを思い出すのだろう。
その瞬間、私の体から正体不明の気が流れ出し、私を包み込んだ。
◇
「ちっ。」
東京支部防衛隊隊長マサヒロは、外勤を終えて帰る途中、数キロメートル先でモンスターが暴れているという報告を受けた。
彼は無線機を持って言った。
「俺が行く。」
ブツブツ。
「かしこまりました。では、事後処理班を送ります。」
道路は車でいっぱいだ。
車で行くよりも直接動く方が早そうだった。
ガタッ。
車から降りて耳を澄ませた。
そして不要な音を一つずつ消していき、モンスターの音が聞こえる方向を推測した。
あっちか。
バンー
「何だ? なんで降りるんだよ。お前がいるせいで渋滞してるだろうが!」
叫ぶ男を見て、腰に差した刀の鞘を少し見せると、車に座っている男はぎょっとした。
「気でも触れたか!」
いや、普通は武器を見せたら静かになるんじゃないのか?
むしろより激しい反応を見せる男を見たマサヒロは、刀を抜いてタイヤに穴を開け、音がした場所へ移動した。
シュッ。
マサヒロは道路と建物を馬に乗るよりも速いスピードで飛び越え、間もなく現場に到着した。
B級くらいか。
腰の刀に手をかけ、一振りすると。
ザシュッ。
モンスターが真っ二つに裂け、あっという間に制圧された。
さて、後始末は他の者に任せて修羅場と化した場所を立ち去ろうとしたその時。
尋常ではない気配を感じたマサヒロは刀を鞘に収め、その場所へ向かった。
「!!」
そうして到着した場所。
そこにはどういうわけか。
狐なのか狼の妖怪なのか判別のつかない奴が車の後部座席にいた。
女の子を事故から守ったようだが……とにかく彼には人には見えなかった。
このような時局においては、「人」か「人類の敵」かという二元論が、これほど通用する時代もない。
「良いモンスターは死んだモンスター」という持論を持つ彼は、その化け物を殺そうと刀の柄に手をかけた。
その瞬間。
プシュッ。
仮面が剥がれ、女の子と同年代くらいの男の子が姿を現すのを見て、病院に電話をかけた。
◇
夢を見た。
書店でレンにプレゼントする本を選ぼうとしていた。
一冊の本から後光が差すような光景に、思わずその本を手に取った。
書店にはあまり来なかったが、ここに似合わない本だということは、見た瞬間に分かった。
元の場所に戻すのは気が進まず、店員にいくらか尋ねようとした途端、本から野獣の形が飛び出してきて、僕を飲み込んだ。
「ハッ!」
全身が寝汗で濡れていた。
おかしな夢を見ていたと思ったら、頭が割れるように痛くて目を開けると、僕は病院のベッドに横たわっていた。
見慣れない天井だ… どうしたことだろう?
レンの家族と旅行に行く途中で、モンスターの襲撃を受けたはずだが······
クッ。
体が悲鳴を上げる。
全身を殴られたようだ。
気を失う前に見た男に助けられたのだろうか?
僕が生きているのを見ると、防衛隊が人を送ってきたのは確かだった。
無事だという安堵感がこみ上げてくると、一緒にいた人たちの安否が心配になった。
病室に横たわって周囲を見回したが、部屋には僕以外誰もいなかった。
豪華な個室とは。
いくらかかるのだろう?
レンの家族は別の病室にいるのだろうか?
ガラガラ。
その時、ドアを開けて看護師が入ってきた。
彼女がベッドの横にある機械を見ながらボールペンで書き込んでいるのを見て、僕はそっと口を開いた。
「あの···一緒にいた人たちはどこにいるか分かりますか?」
「お目覚めになりましたか。今、病院には多くの患者さんが運ばれてきていますので。関係者の方をお呼びしますので、楽にして休んでいてください。」
「ありがとうございます。」
確かにあんなことがあったのだから、怪我人も多いだろう。
誰かを呼んでくれるというから、今は看護師さんの言う通りにしよう。
看護師が出て行き、リモコンでチャンネルを回した。
すると、テレビで僕がいた場所をヘリコプターから撮影した映像が流れた。
「ご覧の通り、人命と財産への被害は深刻です。今回現れたモンスターはB級で、防衛隊隊長マサヒロ氏が迅速に出動し、被害を最小限に抑えたと······」
「テレビに穴が開くぞ。」
誰かが病室に入ってきた。
僕が人が入ってくるのも気づかないほど集中していたのだろうか?
でもどこかで見たことがあるような···見覚えがある。
眉間に皺を寄せながら記憶を辿る。
頭の中をかすめるように通り過ぎた人が浮かんだ。
「...防衛隊隊長さん?」
「俺を知っているのか?」
眉を吊り上げ、驚いた顔を見せる。
「事故に遭って気を失う前に助けてくださった方をぼんやりと見たのですが、ニュースで防衛隊隊長が解決したと報じられていたので、そう推測しました。」
「判断力は悪くないな。」
頷き、満足したようにニヤリと笑う。
何が良いのか分からないけれど、恩人が喜んでいるのだから僕も嬉しい。
僕は心からの感謝の言葉を伝えた。
「おかげで助かりました。ありがとうございます。」
「できたからしただけだ。体の具合はどうだ?」
「大丈夫な気がします。」
「それは様子を見なければ分からないだろうな。しばらくは体を大事にしろ。」
「はい、ところで僕と一緒にいた人たちは無事ですか?」
部屋に訪れる静寂、部屋の空気が変わった。
僕は何か間違っていることを直感し、もう一度尋ねた。
「一緒に車に乗っていた人たちはどうなりましたか?」
僕がじっと見つめると。
ためらっていた彼が、仕方ないといった様子で口を開いた。
「お前と一緒に車に乗っていた者がどうなったのかと尋ねるのなら、死んだ。成人男女が一人ずつと、お前と同年代くらいの男が一人。幸い、葬儀の手続きは無事に済ませられるから心配するな。」
「死んだのに心配するなって?」
あまりに信じがたい言葉に、思わず反問した。
「ああ、手足は無事に全て揃っているからな。」
人が死んだのに幸いだと話す彼を見て、怒りが込み上げてきた。
「狂ってる。出て行け。出て行けって!人が死んでどこが幸いなんだ!」
枕を投げつけた。
彼は避けずに淡々とした声で言った。
「今、存分に泣いておけ。明日また来る。」
その言葉を最後にマサヒロは病室を後にした。
ポツ、ポツ。
彼が出て行くと、待っていたかのように涙が溢れ出した。
今回もモンスターに大切な人を奪われた。
僕は枕に顔をうずめて、しばらく声を上げて泣いた。
翌日。
泣き疲れて眠ってしまった僕は、腫れ上がった目を辛うじて開けた。
内心夢であってほしかったのに、本当だったなんて···最悪だ。
「はぁ······」
病室に座っていると、ふと昨日隊長から聞いた言葉を思い出した。
確かに、僕と一緒に車に乗っていた成人男女と、同年代に見える男が死んだと言っていた。
昨日は正気ではなかったから気づかなかったが、改めて考えるとユイが死んだという話は聞いていないことに気づいた。
その瞬間、僕はベッドから飛び出し、ドアを開けて外に駆け出した。
そしてまっすぐにナースステーションへ向かった。
「ここに患者さんでイトウ・ユイという人はいませんか?」
「どういうご関係ですか?」
「一緒に事故に遭ってここに来たのですが、知人です。」
「申し訳ありませんが、ご家族でなければ病院のポリシー上、お教えすることはできません。」
「いや、でも······」
トン。
その時、僕の肩を掴む手が感じられた。
誰かと思ったら、昨日見た防衛隊隊長という男だった。
「朝から元気そうだな。健康そうで何よりだ。とりあえずここでそうしているよりも、二人で昨日話しきれなかったことでもしないか。外に良い場所があったが、気分転換がてら行かないか。」
行く途中、病院内のカフェで抹茶ラテを注文した。
「気分が優れない時は美味しいものを食べるのが一番だ。」
僕はストローに口をつけなかった。
冷たい抹茶ラテを手に持ったまま、昨日聞いたことを尋ねることにした。
「僕と一緒に車に乗っていた人たちは死んだって言いましたよね?」
「そうだったな。」
「一緒にいた女の子はどうなりましたか?」
「...ここの病院にいる。」
僕と同じ病院にいるという。
生きているという言葉に安堵した。
「看護師さんに聞いたら、家族じゃないからどこにいるか教えてくれないって言ってたんですけど、一緒に行っていただけませんか?」
「ふむ···ダメではないが、今行かなければならないのか?」
なぜかユイの状態が良くないという口ぶりに不安感が押し寄せた。
僕でさえこの状態なのに、一人残されたユイが今どうなっているのか想像すらできなかった。
知らんぷりはできない。
隣で力になってあげたい。
「はい。」
「よし。本人が望むならな。」
飲み終わったカップをゴミ箱に入れ、僕は彼の後を追った。
到着したのは重症患者が滞在する病室だった。
ドアを開けて入った。
ベッドには人が横たわっていたが、包帯で顔を覆われていて、ベッドの前の名前がなければ誰か分からないほどだった。
ベッドの横に行き、そっと彼女の名前を呼んでみたが、ユイの声は聞けなかった。
植物人間判定を受けたという衝撃的な知らせと、合同葬儀の前に火葬を進めるという話を聞いた。
防衛隊隊長に会ってから、多くの話を聞いた。
彼の名前はサトウ・マサヒロ。
日本の東京支部防衛隊の隊長として、仕事を終えて防衛隊に戻る途中で事件が発生したため、彼が直接動いたという。
そして僕に運が良かったと言った。
彼でなければ、現場に隊員が到着するのが遅れて死んでいたはずだ、と。
その言葉に、もっと早く来ていればレンの家族は助かっただろうと言いたかったが、それは子供の駄々っ子だと分かっていたので口には出さなかった。
そして。
「お前には才能があるぞ。」
「才能ですか?」
「怪物を殺す才能だ。」
その言葉に心臓が激しく脈打った。
「家ほどの大きさの奴とぶつかって、一般人なら死んでいた衝撃だ。俺が到着した時、お前は覚醒したようだった。そこに横たわっている子もお前のおかげで助かったようなものだから、あまり落胆するな。防衛隊が最善を尽くして治療を助けてくれるだろう。そうすれば目覚めるかもしれない。心の整理がついたら、防衛隊を訪ねてこい。」
だから今、僕はレンが旅立つ最後の姿を見るために火葬場に来た。
どれだけ多くの人が死んだのか、すでに多くの遺体が火葬炉に入っていた。
レンの番が来た。
職員が棺を運ぶと、棺が「ガタッ」と動いた。
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