第1話 翼生命保険会社
牙城は「退職届」と書かれた封筒を草津に提出した。その手は少し触れていたが、封筒をしっかり掴んだ。
「お前はこれでいいのか?」
「僕は決心しています。」
「そうか、他の会社に行くのか? 頑張れよ。」
牙城はこんな時だけ優しい言葉をかけてくる草津を煩わしく思っていた。いつもは優しい言葉など無く「なんでこんなことができないんだ。」「どうしてこんなことができないんだ?」などという厳しい言葉を浴びせられていた。なぜ自分だけこんなに当たりが強いのだろうか、といつも考えていた。
草津は今日中に終わらせるべき仕事を部下たちに振り分けた。仕事が良くできる岸上と髙我には多めの仕事を振り分け、それ以外の社員には普通の量の仕事を振り分けた。草津は岸上と髙我には早く昇進して欲しいと思っている。なぜなら、彼らはとても自分に優しくしてくれたからだ。
草津は岸上と髙我を見て、自分も早く昇格したいなと思った。自分は新人を教育するのは自分でも上手いと思っており、このポジションでもいいかなとは思っているがやはり階級を上げたい。そうすれば自分の愛する娘のためにお金を使ってあげられる。
また、邪魔だった牙城がいなくなってくれたことを内心でとても喜んでいた。なぜなら、仕事があまりにもできないことが自分のキャリアに傷がつくと思ったからだ。今までは素晴らしい人材を育ててきたため上からの評価も高かったが、牙城が現れたことで全てが狂ったと感じていた。
岸上と髙我は与えられた仕事をすぐに終わらせた。他の社員たちは仕事の速度が遅いなと感じていた。岸上は髙我と休憩時間までパソコン上で会話していた。
「他のやつ全然終わってなくねw」
「それなw 俺らの方が量多かったのにな」
「マジでそれ 早く昇格したいな」
「早く昇格して金欲しいよな」
彼らはいつも周りの社員を煽っている。自分たちがだんだん周りの社員たちに嫌われ始めているというのはまだわかっていない。
野本はいつも通り仕事をしていた。できるだけ人と話したくない。前回の職場でも同じことをしていた。そのため解雇されてしまった。彼が解雇された理由は他にもあった。それは大卒が入ってきたということだった。そのため、高卒という理由で解雇されてしまった。やっと見つけた会社、できるだけ粘ろうと思っている。
岸上と髙我がクスクス笑いながらパソコンを見ているが、どうせ変な動画でも見ているのだろう。彼らは草津のお気に入りなため厳しいことを言うことができない。
また、最近斎木と話し始めた。それは野本にとって初めての経験である。話しかけてきたのは向こうからだった。馬が合うとはこのことだ、と野本は悟った。同じような考え、同じような仕事の仕方、全てが斎木と一致していた。
斎木はずっと野本と自分が似ていると思っていた。ずっと話しかけるタイミングを見計らっていた。しかし、話しかけれずにいた。自分は周りから陽キャだと言われるけども自分では陰キャだと思っていたが、話しかけれないところなどが特徴的なところだ。
飲み会などだと指揮を取ることができるのだが仕事に関しては若手に負けてしまう。斎木は学生時代努力して東大まで行った。しかし、賢いだけでは社会に出て活躍できなかった。人一倍努力するが実らない。激しい葛藤をする時期もあった。
木下はとにかく「言われたことを全力で」をモットーに仕事に励んでいる。まだ1年目でわからないことがたくさんあるが、草津さんがとても優しく、わかりやすく教えてくれるため段々仕事に慣れてきた。周りから「ちゃんとできているか?」と聞かれることがあり、最初の頃は「できていません」ばかりだったが、最近では「終わりました」「できました」ばかりだ。
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