鬼殺し
極東エビ
第1話
炎が燃え上がる。
四方から悲鳴が響き渡る。
赤い炎の光に、剣は朱に染まり、血しぶきを浴びた瞳は赤く濁っていく。
それは、たった一夜の出来事だった。
わずか一晩で、一つの村が滅び去ったのだ。
村を滅ぼしたのは、たった一人の男。
まばらな髭を生やしたその男が身につけていたのは、半ば壊れた鎧。
手に握られていたのは、長い年月、人の命を斬り続けてきたことを物語る刃こぼれした剣。
彼が持っていたのは、その二つの物だけだった。
だが、村の者たちは誰一人としてそれを止めることができず、皆、死に絶えた。
しかし、無数の悲鳴が響き、無数の人々が地に伏して目を開いたまま死んでいく中で――
ただ一人、死なずに生き残った者がいた。
子供を含め、村の全てを斬り捨てたその男。
――おぎゃあ。
赤子の泣き声が響く。
充血した目でその声のする方へ歩み寄った男は、崩れた建物の残骸を持ち上げた。
そこには、生まれたばかりの赤子が瓦礫に埋もれていた。
すでに息絶えた母親の腕の中で、力強く泣き続ける赤子。
男はその子を静かに見つめ、やがてゆっくりと腕に抱き上げた。
生きとし生ける者を一人残らず殺したはずの彼が、
なぜその赤子だけを抱きしめたのか――誰にもわからなかった。
後に、人々はこう語る。
それは、ただの――
「鬼の変心」だったのだと。
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