第2話 思い通りにはいかない

 今日の朝は快晴だった。昨日の夕方はとても曇っており、夕焼けは見ることができなかったが紫ではなかった。

 

 仲田はまず、浅地が言っていた伊藤先生に話を聞くことにした。


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 伊藤圭介(28)花上高校教員。高校に来てから4年目のまだ学校の中では新人。担当教科は社会科でその中でも歴史を教えている。伊藤に結婚歴はなく、まだ独身のままだ。

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 仲田が職員室に行くと、伊藤は端の方で座っていた。仲田を見るなりすぐに違う方向を向いた。その挙動があまりにもおかしすぎたので、仲田はこの男何かあるな、と思い1年C組の部屋に連れて行った。


 教室について椅子に座っても、いろいろな方向を向いたり過度に手の関節を曲げて音を鳴らしていた。仲田は一旦教室から出て行った。この部屋の窓を一時的にマジックミラーにしたため、こっちからは伊藤が見れるが、伊藤はこちらが見えない。仲田が部屋から出て行った瞬間から、伊藤は立ち上がってこちらを見ようとしてくる。しかし、絶対見えないので少しするとこちらを見るのをやめたが、椅子に座っても手を組んで何かを作ったりしていた。


 再び仲田が部屋に入ると、ものすごい速さでこちらを向いてきた。仲田は一瞬足を止めたが、すぐに席についた。

「伊藤圭介さんですね。いきなりなんですが、あなたは吉川さんと不倫関係にあったと聞いているのですが、どうなんですか?」

「スゥ、彼女から誘ってきたんです。彼女は校長の奥さんだということは知っていましたが、美しい方だったのでつい。でも、殺したりはしていません。信じてください。」必死に訴える。

「別に、あなたを犯人と思っているわけではありません。吉川さんと関係があった方を全員事情聴取させていただいているので。」仲田はこう言ったものの、伊藤の行動は異常だったため、容疑者として考えていた。

「次に、吉川さんと最後に会った時のことを教えてください。」

「はい、最後に会ったのは一昨日の夜です。大事なことがある、と言われたの行ったのですが結局それがなんだったのか教えてくれなかったのでわかりません。」

「思い当たることはありますか?」

「いやぁ、特にないですね。」しかし、伊藤が話す前に唇を少しだけ噛んで顔を歪めたのを仲田は見逃さなかった。

「伊藤さん、嘘はダメですよ。本当のことを教えてください。」

「ぐっ、う、嘘なんてついてませんよ。本当のことです。」

「そうですか、わかりました。では次の質問です。吉川さんと関係は持ったことがあるのですか?」

「あ、いやぁ、まぁ、あります。」

「次が最後の質問です。一昨日の夜と昨日の早朝に何をしていましたか?」

「一昨日の朝は…自宅にいました。私の家はマンションで出口が一つしかないため防犯カメラを見ればわかると思います。昨日の朝は6時くらいに起きました。それからすぐにここへ向かいました。出る時も写っていると思います。」

「ありがとうございます。今後も何か聞くことがあるかもしれません。」

「あ、はぁ、わかりました」


 伊藤の事情聴取が終わった後、上原が近寄ってきて「伊藤、怪しいですね。何かを隠していると思います。」上原が考えていると

「俺は大体わかったよ。隠していることは、多分合ってる。」

「事情聴取の途中で分かったんですか?」上原は聞く

「そうだけど、まだ確信がないから上原にも言わないでおくよ。で、調べてほしいことがあるんだけど、できるよね?」

仲田が聞くと

「もちろんですよ、調べることは任せてください。」そんな頼もしい上原に

「多分、吉川さんはどこかの産婦人科に言っているはずだ、そこで話を聞いてきてくれ。また、伊藤のアリバイの件も確認してくれ。」


 伊藤の次に吉川尚輝に話を聞くことにした。

「何回もすみません。あなたが事件発生の約1ヶ月前に奥さんに多額の生命保険をかけられていますが、これはなぜかけたんですか?」

「妻と相談して決めたことです。それがたまたま、事件発生の1ヶ月前だったというだけですよ。もし、保険金が目当ての殺人だとしたら、私にはアリバイがある。」仲田は何も言えなかった。吉川には確固たるアリバイがあるのだ。仲田はそのアリバイをどうやって崩そうかを考え始めることにした。


 仲田は考えていると、日が少しずつ落ちてきた。仲田は今日はもう終わりかなと思った時、上原が部屋には入ってきた。

「仲田さん、言われたこと調べましたよ。やっぱり合ってました。吉川美南さんは自宅の近くの□□□産婦人科に通っていることが分りました。また、そこに事件発生日の朝に行っていたらしくてその時に妊娠していたようです。」

「また、伊藤のアリバイの件は確かに20時くらいに玄関に姿が写っており、次に写ったのは6時過ぎでした。それまでには写っていなかったので確かに部屋にいたと思われます。


 仲田は確実に解決に近づいていると思っていた、しかしこの時点では解決から離れて行っている。


 次の朝、仲田は少し遅めの朝7時に起きた。そこから、隣の部屋の上原と合流して近くのレンタカー屋で車を買い、吉川尚輝が事件発生日の夜に行っていたという温泉へ向かった。途中大粒の雨が降ってきたが、すぐに止んだ。通り雨だったようだ。


 吉川が言っていた温泉はとても大きかった。スマホの画面で見ても大きいなと思ったが、改めて現地に来てみるととても大きいということを再実感する。


 仲田は乗ってきた車を温泉の駐車場に停めて、少し歩いて温泉へと入った。入り口の暖簾をくぐると着物姿の人たちが「いらっしゃいませ」と言って出迎えてくれた。仲田はそのうちの1人に

「あ、警察です。先ほど電話して、ここの防犯カメラを見にきたのですが。」というと

「話は聞いております。」と言って奥の方へ通された。


 長い廊下を少し行くと、「こちらでございます」と言われて大きくて豪華な部屋に通された。その部屋の中には着物を着た高齢の女性とスーツを着ている若い男性がいた。仲田は

「防犯カメラの映像を見にきたのですが。」と言うと

「お待ちしておりました。言われた時間の防犯カメラの映像をこのパソコンの中に入れてありますので、どうぞ見てください。」

仲田は軽く会釈してらパソコンで映像を再生する。しばらくは一般人などで賑わっている様子が映し出されたが、ある1人の男性客が来たときに仲田はを引き締めた。吉川が来たのだ。確かに来ていた。ここまでは高校から約2時間、吉川の自宅からは2時間半離れているので、吉川に殺害は不可能ということになる。仲田は納得できなかった。

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