第1話 日常の変化

※実在する団体名などが出てきますが行なっている行動などはフィクションです。


 この学校の屋上は誰もおらず澄んだ空気が流れていた。周りは緑に囲まれていて、たまに風の音が聞こえてくる。その男は、ここになぜ呼び出されたのかを考えていた。すると背後の扉が開く音がした男は警戒して振り向いたがすぐに笑顔になった。男は屋上に来た男性としばらく楽しげに話していたが7分ほど経つと謎の男性が男に近寄り男の腹にカッターらしきものを刺した。男は目を見開いて驚いていたが、男性に何度も刺されると男性にもたれかかるように絶命した。男性は軽くため息をついた後、男を持ち上げてフェンスの端から下に落とした。男の落ちた周りに人だかりができた頃には男性は屋上からすでに立ち去っていた。

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 その日はいつも通りに訪れた。仲田康正は地元の花上高校に通う普通の高校2年生。康正はミステリー小説が大好きで、東野圭吾やコナンドイルなどの有名小説家の作品は何度も読んでいる。自分の部屋から降りていくと母がテレビに釘付けになっていた。どうしたの?と聞くとこの町で宝石強盗事件があったとニュースで言ってたと教えてくれた。今、問題となっている闇バイトなのかなと話しながら朝食を済ませた。


 花上高校はある田舎にある小さな高校だが近くに他の高校がなく、その町の高校生が集まるので全校生徒は300人程度と決して少ないわけではない。しかし、進学実績などはなく勉強に一生を捧げるような学生は町を出て町の高校に通っている。

 

 花上高校の校長は前川信介(57)と言う男で非常に頭がキレる男だ。この学校はもともと不良達しかいないような学校だったのだが、前川が校長になってから校長が直々に話をし諭していったため、この学校はまだマシになった。前川は赴任してくる前からいる先生達から尊敬されており、前川が指示したことは余程のことではない限り全て言われた通りにしている。その為、前川がこの学校を支配していると言ってもいい。


 その校長を支えているのが副校長の有賀拓也(64)だ。学校で起きた問題や、学校にかかってくる苦情の電話などを管理しているのが有賀だ。仲田の友人である元ヤンの虎田と非常に仲が悪く虎田についての苦情が来るたびに髪を抜いているから髪が薄くなってきているのではないかと言われるくらいだ。


 その虎田は康正と小学校の時からの幼馴染だ。親同士も仲がいい。しかし、小学校の時に虎田は陰湿ないじめを受けており、中学生くらいから不良の集団に入ってしまい度々問題を起こすようになってしまった。

 そして今その虎田が康正の隣におり、一緒に登校している。康正は虎田の根は悪いやつではないと思っている。小学生の時にいじめられていたが、いじめっ子たちも何かあるのかもしれないと耐えていたため、中学生の時に心の中で何かが静かに爆発したのかもしれない。


 今日の学校の始まりは教室朝礼で担任の山田則道(35)が近くで宝石強盗があり、犯人がまだ捕まっていない為気をつけるようにという話があった。


 康正の担任の山田はまだ若い方だが弱気なので覇気が無く生徒にタメ口で話されており、舐められている。


 その事件が起きたのは康正達が外で話している時だった。話している友人の1人が上を見た時に目を見開いて止まってしまった。康正が上を見上げようとした瞬間に1m後ろぐらいでグシャという音がした。恐る恐る後ろを見てみると、後ろに血だらけの肉塊があった。至る所から悲鳴が聞こえてきた。屋上を見上げてみると、人影すらなく誰もいなかった。落ちてきた『何か』をよく見てみると、落ちてきたのは副校長の有賀だということがわかった。周りには勇気ある男子しかおらず、女子は全員校舎の中に入って震えていた。康正は死体が出てくるような小説などはよく読むが、今は目の前に死体があるので体が震え出して腰を抜かしてしまった。 

 少し経つと誰かが、落ちてきたのは有賀だと言いふらしたのか周りから、有賀先生が自殺なんて、なんで学校で、などと小声が聞こえてきた。



 3分くらいすると、パトカーの音が聞こえてきて学校に到着した。パトカーから降りてきた警察官達が有賀の死体の周りに規制線をはった。また、有賀が落ちてくるところを見た人や落ちてきてすぐの死体を見た人たちが1年A組に集められて、1年C組で事情聴取が始まった。


 もうすでに日が落ちかけており、綺麗な夕焼けが奥の方に広がっていた。しかし、広がっていた夕焼けはよくあるようなオレンジではなく紫がかった滅多に見ない色になっていた。

  

 康正は順番が回ってくるまで、あの有賀が自殺なんてあり得ないと思っていた。有賀は前川と同じように康正と面談をしており、康正の印象は元気で良い人というイメージだった。しかし、そんな有賀にも暗い部分があったのかもしれない。


 しばらくすると、警察官が仲田くんと呼んだのでC組に警察官に付き添われながら向かった。


 C組に着くと面談のような形で椅子に座った。康正は相手の顔をみるとすぐに誰かわかった。

康正はつい大声を出してしまった。「向野さん、どうしてここに」


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 向野峯太(27)刑事になってまだ5年だが難解な事件を多数解決している為、日本のホームズというあだ名がついているとかいないとか。なぜ康正が向野を知っているのかというと、康正が向野を手伝ったことがあるからだ。もともと、近所に住んでおり元から仲が良く一度向野が操作に行き詰まった時に康正に連絡してみたところ、康正が素晴らしい推理をし解決に導いたということがあった。

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 康正は向野に他の人の取り調べに参加させてもらえないかと頼んでみたが、一応捜査上ダメだと断られてしまった。しかし、あとで記録したメモを見せてもらえることになった。


 康正も一応取り調べを受けることになり、きっちり約15分程度根掘り葉掘り聞かれた。

Q、落ちてくるところは見たか。      

A、見ていない。見ようとしたが、遅かった。

Q、落ちた時に何かしていなかったか。   

A、怖くて最初は良く見ていなかったため覚えていない。

Q、屋上に誰かいたのを見ていないか。   

A、落ちてきた後にみたが、誰もいなかった。

Q、有賀は誰かに恨まれていなかったか。  

A、優しい先生だったのでそんなことはないと思う。


 

 取り調べの最後、康正は予想もしなかったようなことを向野から伝えられる。

「ここだけの話でまだ公表していないことなんだけど、被害者の有賀氏は屋上から落ちる前に鋭利なもので腹のあたりを何度も刺されていたということがわかったんだよ。」


 康正は取り調べが終わったらすぐに帰っても良いと言われたのですぐに帰路につくことにした。親には学校から事情を伝えてあると、校長から言われたのでそのまま帰った。


 康正は有賀が殺されるなんて信じられなくて、優しくして貰ったのでなんとしても自分で犯人を見つけて問い詰めようと思った。

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