コリコリな感触

 クラスカースト……なんて言葉がある。

 目立つ奴とそうじゃない奴とで区切られるが、端的に言えば力を持つ者とそうでない者とで分けられるものだ。


「それでよぉ、昨日は誘った女の子が――」


 すぐ傍で自分の武勇伝を語る佐助。

 内容としては休日の間に他校……しかも女子高の女の子を引っかけたって話だが、中々に逸材を見つけたらしい。


「それで……ってちゃんと聞いてるか?」

「聞いてるよ。んで?」

「それでよ――」


 いやすまん、あまり真剣には聞いていない。

 話を戻すがスクールカーストって言葉だけど、俺の立ち位置としてはまあ上の方らしい……らしいというのは佐助曰くってところだ。

 別に威張っているわけもないし、みんなを纏めているわけでもない。

 それでもそんな風に思われているのはこの見た目で目立っているのと、佐助と仲良くしているのが大きい……それでビビられるのだとしたら全くもって不本意だ。


「やっぱ見た目も大事だけど、心の広さも大事なんだよ。そういう所に女の子は惚れるってわけ」

「まあ、確かにお前は心が広いわな」

「へへっ、よせやい」


 顔を赤くするなよ気持ち悪い……。

 ただそれでもイケメンだからなのか似合ってやがる……これに釣られてホイホイ近付いてくる幼気な女の子が不憫で仕方ない。

 ……まあでも。


「それでもお前、特別な相手は作らないよな?」

「あ? そりゃそうだろ? もちろん彼女っつうか、特別な存在は欲しくもある……けどそういう関係になる以上、そこにあるのは俺の感情だけじゃないからな。女の子を引っかけはするが、向こうが不快にならないで楽しめることを考えてんだよ俺は」

「……そういうのをもっと前面に出せばいいんじゃないか?」

「俺はミステリアスな男を目指してるんでね。俺の内面は、その時が来るまで親友が知ってりゃそれでいいのさ」


 ミスエリアスとかどうでもいいとして、ちゃんと線引きは出来ている男なんだこいつは。

 それからも語られる武勇伝に耳を傾けていたが、教室の入口が騒がしくなっており、視線を向けるとその中心に居たのは綾香だった。


「……なんだ?」

「あん? あ~阿澄あすみじゃん」


 顔を下に向ける綾香と、そんな彼女の前に立つのは阿澄あすみ加奈かな……さっきも言ったがクラスカースト上位に位置する女子の一人で、見た目はギャルで気の強い奴だ。


「下向いてるからぶつかるんでしょうが。ほんと、ジメジメして嫌になる奴よアンタ」

「……ごめんなさい」

「はぁ? 聞こえないんですけどぉ?」


 よく見てなかったから事情は詳しく知らないけど、少なくともあんな風に目立つような糾弾をする必要はないはずだ。

 しかも阿澄だけでなく彼女の取り巻きが綾香を取り囲んでいる。

 俺は佐助との会話を中断し立ち上がったが、ふと前に座っている徳井に視線を向けた。


「……綾香」


 徳井は動かず、ただ見ているだけだった。

 そのことに関して俺が思ったことは……驚くほどに無――俺はサッと綾香の方へ視線を向け、すぐに向かった。


「おい」

「は?」

「……あ」


 教室が静かだな……なんて、今はどうでもいいことだ。

 声をかけると阿澄は勢いよく振り返ったが、相手が俺だと分かってうっと一歩下がった……そんなに俺って怖いのか……そっかぁ。


「わざわざそこまで言う必要はないだろ? 悪気があったわけでもないんだし、そこは余裕を見せてやれよ」

「……アンタには関係なくない?」

「関係はある。わざわざ一人に多人数で囲むのは目に余る……俺の気分が悪くなるからだ」


 そこまで言って、俺は教えの一つ――軽く睨むを実行した。

 阿澄以外の女子はビビったような顔になったものの、阿澄だけは逆に俺を睨み返してきた。


「なによ、この地味子が気になるわけ?」

「そうだな……気になるからこうしてここに来た」

「……え?」


 馬鹿正直に認められるとは思わなかったのか、阿澄は目を丸くするもそれで完全に勢いは失くしたらしい。

 でも俺自身、気になるって言うのは仲良くしている女の子が困っているのを見て見ぬフリが出来なかっただけだからな……だからこうしてここに来たことを伝えたんだけど、これは凄い勘違いをされたかもしれん。


「誰だって気になると思うが? 綾香……音無は大人しい子で、そんな子が絡まれていて見て見ぬフリをしたら気分も悪くなるだろ?」

「そ、それは……」

「それにお前だって後々になって嫌な気分になると思うぞ? 本当にあそこまで責め立てる必要があったのかって」

「……………」

「お互い、軽くごめんって言えば済むだけの話だ。なあ阿澄、お前って確か先輩とかにもモテる良い女だろ? ならこんなことで自分の価値を落とすようなことすんなよ」

「あ……」


 だからさ……取り敢えずとっとと収まってくれないか?

 内心ビクビクしていた俺だが、阿澄は少し俯いた後……勢いよく顔を上げて頷いた。


「そうね……あたしったら何を熱くなってんだか。ごめんね音無、よくよく考えたらよそ見してたあたしも悪い」

「え? う、ううん……大丈夫。私こそごめんなさい」


 どうやら丸く収まってくれたようだ。

 阿澄がこうなったのだから取り巻きに関しても、綾香に何かを言ったりすることはもうなさそうだな。

 阿澄が立ち去り、残った綾香と視線が合わさった。


「じゃあな」

「……うん」


 俺と綾香のやり取りはそれだけでいい。

 そうして自分の席に戻ると、物珍し気な視線で佐助が口を開いた。


「珍しいじゃん、天斗がああいうのに口を出すなんて」

「別にいいだろ……お前だってああいうの見てて嫌いだろうが」

「そうだな。しっかし阿澄の奴、思った以上に素直だったな」

「ま、おだてるような言い方もしたからな」

「年上にモテる良い女ってやつか、確かにああいうのはプライドの高い奴ほど刺さりそうだ」


 俺としてはただ、綾香に何もなければそれでいい。

 何故か徳井に少し睨まれたことはともかく、逆に睨み返してやった。

 なんで幼馴染のお前がいの一番に助けてやらないのかと……。


「……はっ」


 お前が動かないのなら、俺が助けるまでだよ。


 ▼▽

 昼休みになり、また俺は屋上でのんびりしていた。

 そして今回は既に彼女が……綾香が俺の隣に座っていた。


「……今日はありがとう天斗君」

「だからいいって。いい加減にしつこいぞ?」


 実はここに来てから何度もお礼をされていた。

 その度に俺は別にいいからと伝えてるけど、流石にしつこいと思ったので軽く……本当に軽いデコピンをお見舞いした。


「いたい……」

「……ははっ」

「なんで笑うの!」


 ぷくっと頬を膨らませ、今度はこちらの肩を軽く叩いてきた。

 至近距離で見つめてくる怒り顔は怖くないが、ふと脳裏に浮かんだのは出かけた時の記憶……彼女の胸を触り、その時に見た綾香の表情だ。

 ……本当に、全然忘れることが出来ない強烈な記憶になってしまった。


「天斗君? 天斗君!」

「え? あ、おい――」


 デコピンのお返しなのか綾香に押し倒された。

 その拍子に何の因果か……綾香を受け止めるために出した手が、ちょうど彼女の胸へと触れていた。

 再び感じた柔らかな弾力だったが、俺はまさかの事実に気付いたのだ。


「こ、これって……!?」

「……分かっちゃった?」


 ニコッと微笑んだ綾香の表情は、あの忘れられない雌の顔を彷彿とさせた。


「……………」


 綾香……もしかしてノーブラ?

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