パン屋開業します!え、いつもの食材たちが最強モンスター?なわけないっ(笑)

もがみなち

1章 まっくろパン ~黒トカゲのベーコンサンド~

少女との出会い

(……なんなんだ、この少女は。)


ハジマーリ王国のギルド長、テラスタは思わず頭を抱えた。

応接間のテーブルをはさんで、彼は栗毛のショートカットの少女と向かい合っている。

ぱっと見は、どこにでもいる明るい娘だが。


「すまん、もう一度説明してくれないだろうか?」


「あ、はい。あの黒オオトカゲさんの卵は私の求める新作パン「まっくろパン」に必要だったんですが、少々暴れてしまいましたのでしました!」


「そ、それは黒龍だぁぁぁ!」


テラスタの声が応接間に響きわたる


時は数日前に遡る――。


◇◇◇


ちりん、チリーン


「う...」


少女、ブレッドは眠い目をこすりながら魔法鈴アラームのタイマーを止める

魔法鈴アラームは時間を設定すればその時間になると鈴の音が鳴る優れものである。


ガバッ


まだ眠りたい気分ではあったが状態を起こしベッドから移動する。


パン屋の朝は早い。

なぜなら開店までにパンを焼き上げる必要があるからだ。


寝ぼけ眼をこすりながら、かまどの火を起こす。

薪がぱちぱちと音を立て、店の空気がゆっくりと温まっていく。

粉をこね、手のひらで空気を押し込む。


生地がふくらむのを待つあいだに、紅茶を一口。

窓の外で夜明けが白んできた。

今日もいつもと同じ朝が始まる。


「はあ」


パン屋の店主である彼女はため息をついた。


「今日はたくさんお客さん来るかな」


悩みの種は、店の客入り。

開店して一週間。

毎朝いい匂いのパンを焼き上げているのにあまり客足は増えていなかった。


「やっぱり、出店場所が良くなかったのか~」


と言うのも出店場所を決める際、

手持ちが多くなかったため一番安い物件を選択したが、

紹介してくれた商業ギルドの人にもやめたほうが良いと釘を刺されていた。

実は商業ギルドが止めた理由は安いからだけではなかったのだが。


「安いには安いだけの理由があるか...」


「でも、口コミが広がってお客さんも増えていくはず。ひと月もやってないし常連さんも来てくれるから頑張ろう!」


彼女は今日も前向きだった。


「さて、生地も膨らんだ頃合いかな」


コンコン


席を立とうとしたとき、裏口がノックされる。

裏口を開けるとモヒカン三人衆が立っていた。

堅気には見えない彼らだがブレッドを見るや90度のお辞儀をする。


「「「姉御、おはようございます」」」


「モブさんたち、おはようございます。今日もお手伝いしていただけるんですか...?」


「「「はい、もちろんです」」」


「では、いつも通りお店の前の掃除お願いできますか?」


「「「はい、よろこんで」」」


彼らとの出会いは開店初日になるのだが、その話はまた後日。

ブレッドの指示通りどこからか取り出した箒で店の前の掃き掃除を始める。


「んー、今日はどんなパンにしようかな。

 開店からあまりラインナップを変えてないから新作作ってみよう」


「とりあえず、材料置き場に使えそうなものがないか見てみるか」


「店の看板メニューになるとよいんだけどな...」


独り言をつぶやきながら地下の材料置き場に降りる途中であることに気づく。


「あ、そういえば昨日残ってる材料渡しちゃったんだ。補充するの忘れちゃった。」


「どうしよう、これだと丸パンと長パンしか出せなくなっちゃうな」


丸パンは名前の通り生地を手のひらサイズのボール状に成型して焼き上げるもので、

対して長パンは細長く腕のように成型して焼くものでありどちらもメジャーなパンである。


「それだと、ほかのお店と変わらないからお客さん増えないよな~」


調理場に戻りながら思考をめぐらすブレッド。

そこで、実家の近くにいた黒くてブレッドの身長よりも少しい大きいスライムを思い出す。


「黒くてまん丸...」


「そ、それだ!!!」


名案が浮かぶのだが問題があった。

思い立ったら即行動新作パンを早く作りたいのだが――。


「生地作っちゃったからお店離れるわけにはいかないよね。どうしよう...。」


「あ、そういえば」


思い出したことがありお店の前で掃除をしているモヒカンに話しかける。


「モブさん」


「は、なにか御用でしょうかッ」


声をかけられたモヒカンのモブは直立し返事をする。

はたから見ると鬼教官と新米兵士にも見えなくはないだろう。


「たしか、モブさんのご実家ってパン屋さんだったと聞いたことがあります」


「はいッ、両親が生きていたころなので昔の話ですが」


「もしかして、簡単なパンだったら焼けたりします?」


「親の手伝いしたことがあるので丸パン、長パンなら、、、ただ難しい技術のいるやつは出来ないですけど」


「でしたら、生地の発酵まで終わっているので私の代わりに丸パンと長パンを作ってくれませんか」


「多分いけると思いまっせ」


「新作パンが思いついたので材料を調してきます。

もし、開店までに間に合わなければ販売までお願いしたくて。もちろんお給金は支払いますので」


「姉御からお金を頂くことは出来ません、この使命ぜひ私にやらせてくだせぇ!」


それから、給金の話で少し押し問答があったが。

売り上げに応じて支払うという形で納得してもらった。


2階の自室に戻り軽く準備する。

目的地はそれほど遠くではないので軽装でよいと判断し、素早く準備を整える


「それでは、いってくるので後はお任せします。できるだけ早く帰ってきますので!」


「「「はい、お任せくだせぇ!」」」


ブレッドは大地を軽く蹴り上げる。

次の瞬間モブたちの視界からブレッドが消える。

消えたように見えたが実際は最初の踏み込みで視界に移らないほど前方に移動しただけだなのだが。


「「「さすが、姉御」」」


モブたちは口をそろえるのであった。


◇◇◇

ハジマーリ王国から北へ3日ほど行った大樹海


Cランク冒険者パーティである星空会スターパーティは森の主である

キングベアーと対峙していた。

状況は最悪で4人パーティのうち3人が重傷で動けるのはリーダーのステラだけだ。

動けるといっても立っているのがやっとで戦闘継続は不可能であった。


「ここまでなのかな、お父さんごめん」


ギルドの長である父親を思い浮かべる。

あきらめかけたその時、少女が頭上から現れた。


「え...」


「くまさん、ちょっと邪魔。」


栗毛の少女の蹴りでキングベアーの頭部が吹き飛ぶ。


「はっ...?」


この少女との出会いがステラを大きく変えることになる。

























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