第30話「未来への投資、学校の設立」

 エルナの妊娠が安定期に入った頃、彼女はガイオンにある提案をした。

「この町に、本格的な学校を作りたいのです」

 現在もエルナが中心となって子供たちに読み書きや計算を教える、寺子屋のようなものは存在していた。しかし町の人口が増え子供の数も多くなってきた今、もっとしっかりとした教育機関が必要だと彼女は考えたのだ。

「学校、か」

 ガイオンは腕を組んで、少し考え込んだ。

「確かにこれからの町を担う子供たちに、教育は必要不可欠だ。だが教師をどうする? 建物を建てる予算は?」

「教師はわたくしたちが務めればいいのです。わたくしは文官系の科目を、あなたは騎士団長として体育や実践的な護身術を。リリアさんには建築学を、キール君には薬学を。この町には、それぞれの分野の専門家がたくさんいます。皆で協力すれば、きっと素晴らしい学校が作れます」

 エルナは目を輝かせながら語った。

「それに、建物は質素なもので構いません。まずは学ぶ場があるということが、大切なのですから」

 彼女の計画は、具体的で現実的だった。そして何より、未来の子供たちへの深い愛情に満ちていた。

 ガイオンに反対する理由はなかった。

「……分かった。君の言う通りだ。未来への投資を惜しむべきではないな。すぐにリリアに相談し、設計を頼もう」

 話はとんとん拍子で進んだ。

 リリアは「任せなさい!」と快く設計を引き受けてくれた。町の職人たちも未来の学校建設のためなら、とボランティアで協力してくれることになった。

 王都から移住してきた学者や技術者たちもエルナの計画に賛同し、教師として名乗りを上げてくれた。腐敗した王国では活かせなかった自分たちの知識を、新しい国の子供たちのために使える。そのことに、彼らは大きな喜びとやり甲斐を感じていた。

 建設は、驚くべきスピードで進んだ。

 エルナも大きなお腹を抱えながら現場に足を運び、職人たちを励ました。彼女がいるだけで現場の空気は和み、作業も捗るのだった。

 そして数か月後。冬の訪れを間近に控えた頃、丘の上に木造の温かみのある立派な校舎が完成した。

 名前は「ヴァイス辺境学園」。

 開校式の日、校庭には目を輝かせた子供たちと、その親たちが集まっていた。

 壇上に立ったエルナは、大きなお腹を愛おしそうに撫でながら、集まった人々に語りかけた。

「皆さん。今日、この町に新しい学び舎が誕生しました。この学校は、知識を学ぶだけの場所ではありません。これから生まれてくるわたくしたちの子供や孫たちの世代まで、この町の未来を、夢を育んでいく場所です」

 彼女の言葉に、人々は静かに耳を傾ける。

「ここで学んだ子供たちが、いつかこの町をさらに豊かにし、人々を幸せにしてくれるとわたくしは信じています。さあ、皆でこの町の輝かしい未来を、共に作っていきましょう」

 エルナのスピーチが終わると、割れんばかりの拍手が沸き起こった。

 子供たちは歓声を上げながら、新しい校舎へと駆け込んでいく。その元気な後ろ姿を、エルナとガイオンは親のような優しい目で見守っていた。

「……いい光景だな」

 ガイオンがしみじみと呟く。

「はい。本当に……」

 エルナはガイオンの腕に、そっと寄り添った。

 お腹の子が、ぽこり、と動いた。まるで外の賑やかな声に応えているかのようだった。

 この子たちが大きくなる頃、この町は、この国はどんな姿になっているだろう。

 きっとたくさんの笑顔と、希望に満ち溢れた素晴らしい場所に違いない。

 エルナはそんな未来を想像し胸をいっぱいにしながら、新しい学び舎をいつまでも見つめていた。

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