【短編】別れの秋?
お茶の間ぽんこ
別れの秋?
生徒たちが下校する秋の暮れ。長袖でも肌寒く感じる。
僕は先輩と、学校から少し離れた公園の入り口で待ち合わせていた。
公園の樹々はついに紅葉を始め緑の中に黄が入り混じっていた。
「君からお呼びになるなんてね」
先輩が髪をたくし上げて僕の目を見つめた。
その視線に特別な意味はないことは理解したが僕の中では特別に感じられた。
「えっと、まあ散歩でもどうです?」
「可愛がっている後輩の頼みじゃ断る道理はないね」
黄色がかっている樹木が林立する公園をあてもなく歩く。
歩き出したからといって会話が発展することもなく、ただ無機質な空気が流れた。
「今日は何だか寒いですね」
誘った手前、僕から切り出さないといけないと思って、ありきたりな台詞を口にする。
「そうかな。今週の気温の推移に照らし合わせるとあまり変わらないけれども」
僕の無理やり絞り出した発言に対して、味気もない理屈で応対してくる。
相も変わらず先輩の辞書には『慮る』という言葉がないようだ。
「…」
あっけらかんとした先輩に次の言葉を紡ぐことができなかった。
そんな僕を気にせずに先輩は口を開く。
「ところで、君はどうして私を呼び出したの?」
「それは…」
先輩は至って率直に、僕に呼び出された理由を問いかける。
僕はまた黙りこくる。
先輩の女性らしからぬ理屈っぽくて結論を求める態度が誰よりも頼りになって、果てには好きになってしまったわけだけど。
「先輩、来月には学校からいなくなってしまうんですよね」
ついに僕は本題を切り出した。
「君も知っていたのか」先輩は依然としてさっぱりしていた。
「部内で噂が出回っていますよ。皆寂しがっています」
「へえ。で、君はどうなの?」
「僕?」
「君は私がいなくなってしまうことについて、どう思っているの?」
またしても先輩が何気ない言葉に面食らった。
僕が足を止めると先輩も立ち止まり、僕が次に発する言葉を待つ。
すっと息を吸って、意を決して想いを連ねる。
「そりゃ寂しいですよ。だって他の地方に転校してここからいなくなるんですよね? もう会えなくなるんですよ。だったら、もっと先輩に言いたかったことを言うべきだった。だから、僕は今日こうして…」
「そうか、そんな風に思ってくれていたのか。でも、どうやら少し君が認識していることとは少しずれているかな」
「え?」
精一杯連ねようとした僕に反して、悉く遮る先輩の言葉に虚を突かれた。
「転校じゃなくて家庭の事情ってやつで、一ヶ月ほど休学するだけだよ」
「えっ、え⁉ でも皆、先輩がどこかに遠方に転校するとか言ってましたよ⁉」
「それはどこかで話が曲解してしまっているな。安心して、私は一か月後にまた戻ってくるよ」
僕はこわばった身体が緩んでいく感じがした。
要は僕が聞いた噂はデマだったわけなのだ。
先輩と会えないならいっそ自分の気持ちを吐露しようと思ったけれど、その気が完全に消えた。
「で、君は何かを言いかけていたけれど、続きを聞かせてくれるかな?」
先輩は悪ぶって僕の顔を覗き込む。
「忘れてください」
別に先輩が悪くないのにぶっきらぼうに接した。
先輩は小さく「君は相変わらず可愛いね」と呟いた。
物寂しい秋の暮れが少しばかり明るく映った。
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