第26話 新紀元の任命式
アテナ新紀元歴993年10月。
この日、秋風颯々と吹き荒ぶ中、北国に散り敷く落葉は、清涼たる空に絶塵の妖冶たる紅黛を一面にまとわせた。これは歴史建設の意義を有する日であり、世界の広く民衆に向けて正式に予告を発した日であった。
かつて戦争美学と地政学的拡張の暴虐兼明の手段をもって東西両大世界を支配し、世界に近き三千年の劫難と省察を課した暗黒時代は、新紀元の七大帝国の固有秩序維持の下、旧世界が脱線した二両の帝国列車に続き、共に深淵の沈潭に封印された。
旧紀元の二大帝国とは、造物主が世人に下した審判と称すべきものである。何となれば、その創業者は個性鮮明なるが故に――かつて神の子と自称した齊楷は、神の祝福を受けた和睦の地に、自ら裏切りの狼煙と凶悪の兵戈を燃やし起こした。
元来薄情の男に非ずと雖も、淡漠に近き神情を以て、民のために請願する娘を抹殺し、数億の国民が渇望する自由と民主の権利を剥奪した。権力拡張の原始の欲望は、まるでペスト黒死病流行の世紀に人々を連れ戻したかの如く、忽ち東方の古老大地を覆うまでに溢れ広がった。
金鼓喧騒の戦場に於いては、連なる死骸が各地の川を塞ぎ、大地に注がれた血溜まりが漂う沼気の大洋と化した。
主君の圧殺に遭い、殺戮充満の修羅場に追い立てられた国民たちの悲愴の慟哭は遠くまで伝わり、夜の渡りをする雁の群れを驚かせ退かせた。最終に至り、苛烈なる兵鋒の威迫の下、二千年前地殻運動にて分裂したゴシェン大陸に周辺に散在する諸国は一夜にして、火光に包まれた地獄と化した。
この度重なる種族滅亡の戦役を経て、齊楷の怪しい気配と亡霊にからみつかれた不気味な後ろ姿、全ての東半球を眼下に俯瞰し、東方世界を二千七百年に亘り奴隷とした齊氏皇朝を開闢することに成功した。
齊楷が統一戦争の火蓋を切った当初、遥か西半球のアレクサンドリア大陸には、既に一人の天驕の子の統率の下、サーサーン朝の暴政に抗う旗印が掲げられていた。元来階級支配者の虐げに遭っていた奴隷たちは、毅然として人権を拘束する足枷を断ち切り、次々と彼の後ろに集まった。
この名家貴族の出身の青年こそ、後の世に全ての西洋世界を掌中に収め、西半球を支配する伝説的偉業を築いたゴドー帝国の創業者――アベラ・フォンであった。
救済困難者は神が英雄に授けた使命とすれば、世界に破壊を望む邪悪の化身もまた、この因果の下に生ずる必然なり。
ロルスが自らの帝権を固めた後、彼の第一の手諭は、独断で北方に建国したエドワードの罪状を痛斥することでも、誓師大会を開いて御駕親征で討伐に赴くことでもなく、国中が唾棄呪恨する悪事を為したことであった。
エドワードがフランス公国を建てて自らの掌を脱し、シュウラン王国に至っては長女イザベラ王妃の授意の下、許可も得ず使節を派遣して祝賀し、甚だ戦略合作の同盟契約まで締結した。
この事を知った気勢恢宏たる世界第八帝国の皇帝は徹夜難眠となり、同じ事態の発生を警戒すべく、ロルスは封地の再調整を口実に、分封されて在外にいた皇子たちを悉皆帝都に召還した。
勿論、吟味もせず慌てて号令に応じて帝都に戻ったこれら皇子たちの脳裏には、父皇が自らの治下の属地を増封されるとの錯覚が浮かんでいた。何となれば、前回の領主大清洗に際し、権力集中に伴い領主に属していた領地も中央の管治下に戻ったからである。
然るに、自らがロルスの寵愛を受けず、形を変えた分封で外に領主として遣わされた身であること、この手段が冷酷非情で性情が陰狠なる君王が今更彼らを子として遇するはずがないことなど、微塵も思い至らなかった。
果たせるかな、九位の皇子がマハ宮の閾を一足踏み入れた刹那、御座に座る者が誰であるかも確かめぬまま、背後に暗伏していた刺客が匕首を手に、音もなく九人の後ろに接近した。
首筋に森のような冷たさが迫り、ちょうど振り返ろうとした瞬間、鋭い光と影が幽霊のように走り抜け、突然九つの血まみれの首が地面に落ちた。
九人の皇子の首なし胴体が倒れるのを見て、御座に座る者は冷ややかに嗤った。
「お前たちの任務はよく果たされた。次に、今宵深夜に、この九人の皇子の死体と首を、都市広場にきちんと並べて置くよう命じる。」
「誰もがこの血塗られた事実を見えるように。我々ティロス帝国に敵対する者は、こういう末路だ。」
その男は髭を摘んで血で濡れた床に近づき、足で自分に転がってきた首を踏みつけ、得意げに笑うと、すぐに唾を吐いて入口で目を見開いたままの首に浴びせた。
この凄惨な光景を一瞥して、地上に跪いている刺客の頭領は体が急に震え出し、慌てて目を伏せた。
「はい、宰相様。」
翌日、クロオスクで最も人通りの多い都市広場の中央で、通行人たちは一つの恐ろしい光景を目撃した。
九人の皇子の遺体から衣服を剥ぎ取られ、目立つように九本の焼けた鉄柱に縛り付けられていた。そして彼らの首は整然と地面に並べられ、集まった蟻や鼠に喰われるままにされていた。
帝都で起きた此の惨劇は、北から押し寄せる寒流に乗って、すぐにライオンハート城に伝わった。その日は、エドワードが円卓会議で「防衛一号決議」を可決した日であった。
「皇兄上、此れは確かに父王らしい仕打ちですね。」
天守閣の玄関を出ると、グロスターは腕を組んで壁にもたれ、横目で目の前を通り過ぎるエドワードを見つめた。
「されど、今は憤怒に耽る暇は無い。ティロスの軍勢が北上する前に、会議で可決した防衛法案を執行せねばならぬ。」
「二弟、これ以上申す迄も無い。安心せよ、我は理性を失って事態を判断できないほど愚かではない。」
常に拳を握り固め沈黙を保っていたエドワードが階段口に至り、忽ち身を回して後方を振り返った。眼底に一閃する殺気を纏った血腥い光が走り抜けた。エドワードの冷静で恐ろしいほどの表情を目にして、ズノーと甲斐は顔を見合せ頷き、一歩踏み出して姿勢を正した。
下駄こ踵がぶつかり合い、太く鋭い音を立てた。二人は背筋を伸ばし、右手の人差指と中指を並べて刃のように、研ぎ澄まされた指先を眉骨まで水平に上げ、凛として叫んだ。
「陛下、ご命令を!」
二人の言葉が落ちると、グロスターは跳ねるように立ち上がり、傍に来たホーエンスを引っ張り、並んで立つラインら四人と共に「二指礼」を執った。六人の声が交わり合い、雷鳴の如く響き渡った。それは、狭くも長くもない廊下に漂っていた。
「陛下、ご命令を。」
「君たちのこの恢弘な気概を見て、ロルスの企図を阻止できると、ますます自信が湧いてくる。」
エドワードは手を挙げて礼を返し、瞳でこの八人の顔を丁寧に眺め、口元に穏やかな笑みを浮かべた。
九人は中央の螺旋階段を上り、二階の「総督スペース」にあるエレベーターの前に到着した。エレベーターが昇ってくるのを待つ間、エドワードは傍のズノーを振り返り、親切に尋ねた。
「ズノー、この件を君と甲斐に任せるが、本当に成し遂げられる自信があるのか?」
エレベーターの扉が開くと、一同は次々と乗り込んだ。鉄製のゲートが閉まる際に発した「ガチャン」という耳障りな音と共に、ズノーは体を横に向け、眼前の整った顔立ちに深い憂慮の色を浮かべる皇兄を見つめ、率直に微笑んだ。
「十割の自信があると言えば、皇兄の心配を増やすだけでしょう。」
「ズノー、此れは重大な国事だ。軽々しく振る舞ってはいけないぞ。」
言い終えると、エレベーターの壁にもたれかかっていたホーエンスが先んじて声を上げ、不機嫌そうな表情を浮かべた。三皇兄からの非難を聞いて、ズノーは軽率な発言を詫びるため腰を低くして謝罪した。弟の窮地を目にしたグロスターが進み出て弁護した。
「よしホーエンス、まずズノーを責めるのはやめろ。昔からこの性分だ、何年経っても直らないのか。」
「二哥、俺は…」
ホーエンスの言葉が半分になり、突然詰まらせて悲しげに頭を垂れた。同胞の弟のその委ねられた様子を見て、グロスターも責め続けることができず、腕を回して肩を強く抱きしめ、小声で囁いた。
「すまない弟、こんなに厳しくするべきではなかった。」
ホーエンスは首を振り、横目でグロスターの顔に浮かぶ自責の念を盗み見て、プット吹き出して笑った。
「二哥、冗談だよ。」
エレベーターを出ると、後ろで悔しがっているグロスターを振り返って一瞥し、ホーエンスは「ハハハ」と笑いながら後ろから思い切りズノーを抱きしめた。
「ごめんね、弟よ。さっきエレベーターの中は俺が悪かった。許してくれる?」
「もちろん、三皇兄。」
ズノーはニヤリと笑い、身を回してホーエンスと抱き合った。仲直りした二人の弟を見て、エドワードはため息をつき、歩み寄る先は、敷居で腰を曲げている、指先に紫の革靴一つを引っ掛けている甲斐のそば。
「甲斐、お前たちは絶対に無理をしちゃいけない。カイザーは見た目は豪快そうだが、聖命に逆らう勇気がある男だからな。」
式台に横に身を寄せ、背後の壁にもたれて座ったエドワードは、屋根を突き抜ける光の筋を仰ぎ見ながら、たっぷりの物悲しさは言葉となり、庭園を吹き抜ける涼風に秘められた。
「会談で意見が食い違ったら、必ず程々にしてくれ。これ以上彼を怒らせるような真似はするな。」
この紫藤の花模様が刺繍された革製の戦闘靴を履いた後、下駄を左側の低い戸棚の隠し溝に入れた甲斐は、両手を交差させ頭上を通り、だらしなく伸びをした。その後、真面目な顔でゆっくりエドワードの傍に歩み寄り、上半身を傾けて、火鳳凰の紋様かま彫られた門柱に寄りかかった。
「義兄さん、安心してくれ。ここに『奥の手』がいるじゃないか。」
そう言うと、彼は面差しにひとかけの邪悪な笑顔が浮かんだ。視線をヘラに寄り添うレイに向けた、二人は女子同士の内緒話に花を咲かせ、途中で道端に咲く景色を鑑賞するのも忘れていなかった。
「『奥の手』って何だ?」
甲斐纏が絡み付いた悪戯な笑みの視線を追ってると、エドワードの心の中の霧が瞬時に晴れ、彼は苦笑いながら首を振った。
「なるほど、お前が言っていたのは彼女のことだったのね。」
エドワードは身を横に曲げてから立ち上がり、敷居にしゃがみ込んで、遠くで甘い微笑みを浮かべるヘラに手を振った。しかしレイが彼を見ると、いたずらっぽく舌を出し、後頭部の二本のおさげ髪が空中で軽やかに跳ねていた。
「あの小娘め…」
レイのツンデレでムカつく小さな表情をじっと見つめ、エドワードは仕方なく肩をすくめ、両手を廊下の欄干に突いた。すると、枝先に咲いていた紅梅がちょうど垂れ下がってきた。
「今回の機会に、彼女をカイザーの元に帰してやるのも手だ。ここに残っていては、いつも俺を怒らせるだけだからな!」
「陛下、それはお気持ちとは違うのでは?」
指先で枝の蕾を軽く触れると、身を回して見ると、すでに戦闘靴を履き換えた数人が入口に立っていた。エドワードは神々しく英気に満ちた姿で、ラインに向かって歩いていく。
「もちろん、冗談だよ。」
言葉が終わると同時に、二人が空中に掲げた掌を打ち合わせた。漣を立てているそよ風の中で、漂う清らかな囁きが聞こえてくる。
「行こう。前堂の聖パトリック大広間へ。」
中庭を抜けて改築された聖パトリック大広間に入ると、九人は順序を守らず、順番に三列に並び、表情厳粛に整いて壁に掛けられた『鳳凰の盾形紋章』に向かった。
フランス公国建国以来、エドワードとその三人の弟は、ロルスによって与えられた身分と姓、そして幼い頃から誇りとしてきた「金獅子旗」までも捨て去った。
それはあの無情な男との徹底的な決別を告げ、この戦いで決して退くべきではないと自らに誓うためであった。
『鳳凰の盾形紋章』を長く凝視した後、エドワードは衆人を率い、狂涛を深海に沈めるほどの虔誠な目差しを胸に抱いて、この紋章に向かって挙手して崇高な軍礼を捧げた。
まさにライオンハート城の塔頂に翻る「鳳凰三色旗」の如く――青は自由と人民を、白は高潔と秩序を、鮮血のような明艷的な真紅は、ティロスの暴政に対抗するフランス公国の堅靭な信念を象徴し。火の如く永遠に輝く博愛の精神を磨難の中で慰めを求める世界の誰彼に与えるのである。
軍礼儀式が終わると、エドワードは十字聖神卓を過ぎ、碧緑色の蔦に囲まれた十字聖父玉座に就いた。振り返って左側の席に穏やかな表情で座るズノーと甲斐を凝視し、声を潜めて言った。
「ズノー卿、甲斐卿。二人聴令せよ。」
「在リ。」
名を呼ばれた二人は即座に立ち上がり、虚空を切り裂くように並んだ二指の右手を翳し、鞘を抜けた鋒刃の如く周囲の空気を瞬時に破滅させた。彼らが玉座の上にいる、エドワードの聖武な気勢を際立たせる七色の浮光を見つめた時、口元にはひとかけの喜びに満ちた浅笑が絡みついていた。
明眸には歳月が磨いた菁華が宿っており、まるで精霊がささやき歌っているようだ。時の魔法はすでに世に降臨した、ひっそりと君と私のそばに隠れている。
エドワードの高尚なイメージは、春の女神の口付けを受けたように、とこしえの宿命的な定義となった。一筋の藍蛍が指先に集まり、まつ毛が微かに震える間に、妙美な山河は皆それに心を花のように咲き誇る、完璧な優雅さの下に魅了されているかのようだった。
瞳の底に広がる温もりは、厳寒の環境中で氷を破って咲くバラのように、灼熱な不屈の意志が溢れ出している。彼は深い愛情を込めてこの二人の自慢の弟を眺め、徐々に思い出していくと、初めてライオンハート城に来た時の、まだ完全に抜け切らなかった幼さと比べ、今となって見れば、確かに成長したことが分かる。すっかり兄の悩みを分かち合い、助けられ、大きな任務を託せる一番前の男になりはじめたのだ!
感慨に浸る時間はまだ始まったばかりだった。彼の顔に浮かんだ安堵の笑顔が突然凍りつき、薄霜が凝った空気と共に、一陣の清風の中で砕け散っていく。
「汝ら二人を命じる。余の名代として灼眼城へ赴き、聖ゼアン帝国代表カイザーと灼眼城引渡しの件につき会談を執り行え。」
「陛下の詔命に従います。」
余韻が消えぬうちに、エドワードは視線を転じ、瞳孔を収縮させて右側の末席に留めた。
まるで真空の中で絶えず集まり続ける負イオンのように、その絶えず膨張する黒い気体の中で、分裂するエネルギーの渦を一筋形成し、この人物の存在感を消し去ろうと試みる。
彼は無念そうに微笑んだ。目に忽ち一筋の皎々とした輝きがきらっと光り、風にそっと撫でられ、元来狂乱していた黒い気体は降り注ぐ塵光に姿を収め、男子の清楚な顔立ちを際立たせた。
「万騎長ローウェン卿、前に進みて命令を聞け。」
自分の名前が呼ばれるとは思ってもみなかった、ローウェンが立ち上がった瞬間、ぎこちなくラインとザントを見つめたが。二人はただ温厚に微笑み、何より真摯なまなざしで自分を振り返って見つめ。ちょうどその時、傍らに座っていたローランが小声で言った。
「ローウェン閣下、陛下が呼んでるよ。」
声の方を向くと、彼の指先が低く卓に触れる袍の裾を引っ張り、「陛下が本当に呼んでるのだ。聞き違いじゃない」と温かく促す如くだった。心中に漂う朧な懸念が次第に明瞭になるにつれ、ローウェンは万束の輝光が濃い雲を貫き、灰暗な隅に蹲っていた自分の姿を照らし出すのを感じた。
身を横に滑らせて一歩踏み出すと、ローウェンは宙に掲げた両手を輝く白光に映し、極めて強靭な力で抱き合わせた。エドワードが示す清らかな笑顔を望み、ローウェンは浮かせた右足を忽ち地に叩きつけ、一層の荒れ狂う砂の波を巻き起こす。
「臣、在リ。」
この一声の応答は平凡にして普通ならず、されど在場の聴衆皆が何故か穏やかな気配を悟り。茫漠たる夜空に煌めく一つの星の如く、その微光は暗夜の果てまで染み渡り、闇を蝕む温もりを折り映えさせた。
エドワードは立ち上がり十字聖神卓を回り込み、ゆっくりとローウェンの前に歩み寄り、俯いた両肩を抱き寄せた。
「ティロス帝国軍の侵攻を防ぐため、我々は早く備えなばならぬ。」
「故に、此の任務は常に行動の堅実な汝に、託すより他にない。」
「陛下のご命令を仰ぎます。」
聞くやローウェンの眉が震い、半歩退きて片膝を地に突き、跪いた。
「臣、必ず全力を尽くし陛下の重托に背かぬ所存。」
彼の顔はまりにも自然で、まるで氷結した無垢な世界から俗世に足を踏み入れた男のよう。瞳の底に宿る確固たる意志は、時空の果てに潜むシリウスのようで、逆境の中で自らの無畏さと果敢さを示している。
膝が地面に触れるにつれて、鎧の鱗が地面を打つ音は水の浪のように澄み切っており、気流が推進する軌跡に沿って天井に貫き入り、躍動する微光粒子の中で忽然と響き渡る軽やかな交鳴が現れた。
跪く男子の身に漂う雄渾たる決意の気を観て、エドワードは腰を屈めて彼を扶け起こし、含み笑いを浮かべた。
「此のような堅苦しさは要らぬ。少し気楽になれ。」
言い終えると、エドワードは身を回して十字聖神卓に戻り、右手を高く掲げ凛然と言った。
「ローウェン卿、即日より、ライオンハート城の南三十ファデルの地に、西側海岸に連なる防衛要塞を築け。余がフランス公国がティロスの侵攻を阻む前敵の大本営とするため。」
「承知いたしました、我が陛下。」
かくして、新生フランス公国が天守閣円卓会議に於いて可決した第一の防衛決議は、ローウェンの極めて魄力満点な応答に尾を引かれ、幕を降ろした。
明日何の苛烈な試練が待ち受けるや知れず。されどこの大広間に坐する数人は、火の中を浴びて再生する鳳凰の如く、頑健勇決なる執念を以て此の土地の貴重なる安寧を護り。
生命が燃え尽きる最期まで、フランス公国の全軍民が新生皇族の下に団結し、民族復興の戦いの最前線に挺身することを誓う。正しく昔日西方世界を治めし一代賢君アベラ・フォンの如く。
在位三十二年の間、国会が決議したどんな国策も、必ず自ら検証し実行し、断固として貴戚に権力を握らせない。
彼が在位中、対外戦争の決策に於いて東方の齊氏皇朝と不可侵条約を締結した。国内では、司法の改革と教会の救済体系の普及を積極的に実施し、貴族の特権と荘園を没収し、君民平等を提唱した。それにより、後世に伝わる「開元時代」を創り出した。
この帝君は生涯、民生を根本として奉り、それを上位者の義務と尊び、この遺訓は玄孫アベラ三世まで受け継がれてきた。
今のエドワードたちは、まさにこの偉人の精神を受け継いでおり、飄逸と飛翔する「鳳凰三色旗」の光の下で、この世界が次第に崩壊していく秩序を正し、天下万民に再び戦火の芽生えない太平盛世を取り戻す使命を担う。
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