5 参りますわよ、よろしくて?
「愚弟は学園内で過ごしている。
情けないことに
他の高位貴族子息らとともに聖女に侍っているそうだ」
「目障りなわたくしを排除して、
さぞや開放的なご気分でいらっしゃるのでしょう。
オーシャンブルーの娘に斬りつけて、
無事で済みましょうはずがございませんのに。
そんな自明の理にもお気づきになられないとは、
お気の毒な方々ですこと。
是非ともご挨拶に伺わなければなりませんわね」
「……ふ、そなたは変わらぬな。
私が幼い時にも随分と力ずくでしつけてくれたものだ。
おかげで踏み外さずに済んだわ。
相変わらずで嬉しいぞ、
ところでエスコートはさせてくれるのかね?」
「まあ、婚約者でもございませんのに?
残念ですがわたくし、どなたかと同じような
はしたない真似は出来ませんわ。
もしも第二王子殿下の仰る婚約破棄が公式になる日が参りましたら
その時は是非にお願いできますかしら?」
「なるほど、道理である。
其方までもが恥知らずに合わせる必要は無いな。
ではその時には任せてくれ。
……おそらくそう待たせることもあるまいよ」
一瞬、
日頃から凪いだ湖面のようと謳われる第一王子殿下のお顔に
一瞬だけお辛そうな
「ええ、
第二王子殿下はやはりお気づきではありませんわね」
「あの女に唆されたのであろうよ。
もはや戻してやることもできぬ」
先日、急激に大人びてお帰りになった第一王子殿下。
ご本人様は大層誇らしげでいらして
愕然とする周囲の者たちの反応にも、
ご満足そうにされていらっしゃいましたが……
「酷なことではございますが、夢の世界に暮らすことはできませんわ。
第二王子殿下に現実をお伝えするのも
わたくしの婚約者としての義務と心得ております」
「……其方の献身に感謝する。
長年苦労ばかりをかけるな、
まったく、謝罪できぬ立場がこれほど心苦しいとは」
「第一王子殿下には、
お心を煩わせることのございませんよう。
此度の不始末、婚約者としてはもとより
国防を担うオーシャンブルー家の者として
早急に納めなければなりませんわ。
わたくしどもが、わたくしどもである限り、
そこは譲れませんのよ?
たとえ王家の方であろうとも」
⭐︎
この時刻ですとまだ授業中ですわね。
わたくしはもう卒業してしまいましたから、
学園への訪問には手続きを行う必要がございます。
まずは従者を受付に差し向けて、学園長への面談依頼を致しましたの。
……わたくしの正式な職掌、宰相補佐として緊急で。
日頃はお忙しい学園長ですのに、本日は幸いにもご在室でいらして
わたくしの要請をすぐに受けていただけましたわ。
おそらく、殿下や『聖女』さまのご様子が尋常でないことに
お気づきでいらっしゃいましたのね。
「学園長、急な訪問を受けていただきありがとう存じます。
申し訳ございませんが、急を要す案件なため
礼を失することお許しくださいませ」
わたくしは宰相補佐として、学園側へ協力要請に参りましたのよ。
宰相閣下へは俊足の従者を遣わして申請、
許可をもぎ取っ……受理していただきましたわ。
⭐︎
カツ カツ カツ カツ
誰も居ない学園の廊下を第二王子殿下の教室まで
姿勢良く、優雅に、品位を失わぬ程度の速度で急ぎますの。
学園長には、協力要請とともに
学内をお騒がせすること、お詫び申し上げてまいりましたが、
さすがに焦燥に駆られてしまいますわ。
「お嬢様、
僭越ながら、気息が乱れていらっしゃいます。
まずは調息を。
現在、学舎の周りはオーシャンブルー家の私兵で囲んでおります。
羽虫一匹逃すことはございません。
ご存分になされませ」
「……常在戦場、いかなる時も冷静であれ。
お前の声が子守唄がわりでしたのに、
まだ指摘させてしまうとは、なんと我が身の情けないこと。
教室でお前たちの手を煩わすことも無いでしょうが
あちらは怪しげな魔道具を持っている可能性が高いわ。
他の学生たちに被害が出ないよう、
それだけは手抜かりの無いように」
「は」
一礼しつつ、
ノックして
さて、不肖、カンタネッラ・ギガンティア・オーシャンブルー、
参りますわよ?
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