方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転
黒鍵
001 帰郷
「
その受験生が独特の詠唱を始めると青い火球が現れた。他の受験生のものとは明らかに違っていた。
青く燃えるそれは、火球というより猛獣の顔のような形をしていた。
熊本の言葉――「暑か(あつか)」。方言の一言で、魔法は牙を生やす。
大きく開いた口には鋭い牙が見え、その大きさも異常だ。隣に立つ受験生が作り出した火球の三倍はある。
試験会場にいた全員が、その受験生を凝視した。
黒髪に金色の瞳。無造作に伸ばした髪のせいで、顔立ちは整っているのに美男子とは言いがたい。それでも、存在感は圧倒的だった。
黒髪の受験生の隣で同じ火魔法を展開しているのは、今年の首席候補の一人。
実力を比べられるのを嫌い、誰も彼の隣には並ばなかった。――黒髪のその受験生を除いては。
決して小さくも弱くもない火球を放った首席候補は、悔しそうな表情を浮かべつつ詠唱を続け、標的に叩きつけた。
炸裂音とともに数字が浮かび上がる。
『811』――会場がどよめく。やはり首席候補。今までの最高得点だった。
高等部にも入っていない学生が出せる点数ではない。彼も自信を取り戻したように、黒髪の受験生を見やり、ニヤリと笑って挑発する。
その視線を受けた黒髪の彼は小さくため息をつき、そのまま青く燃える火球を放った。
次の瞬間、誰もが目を疑う。
詠唱途中の不完全な魔法――そう思われた火球は、凄まじい速さで標的に突き刺さり、霧散することなく燃え続けたのだ。
連動するように浮かぶ数字が跳ね上がっていく。
――8911、8999、9223、9999、0000…。
次の瞬間、特殊合金の柱は音もなく溶け落ち、点数を表示するパネルは消えた。
◆
隣に立つ生徒が驚愕の目で俺を見つめている。
――まあ、誰だって、あんなものを見せられたら仕方ない。
目を見開いたままの彼に笑みを向けると、ビクリと肩を揺らし後ずさった。その顔を見て、初めて俺の魔法を目にした両親の姿を思い出す。
周囲を見渡せば、皆が同じ顔をしていた。
予想通りの結果に苦笑し、試験官へ視線を送る。その男性もまた肩を震わせたが、すぐに表情を引き締め、次の試験会場へ促した。
小さく頭を下げて次の試験がある校舎へと歩きながら、心の中で呟く。
『ようやく、これで故郷に錦が飾れる』
――――――――――――
――あの夏、転生前。まだ日本にいたころの話だ。
俺は九州の熊本県にある田舎で育った。都会に憧れ、勉強に励み、関東の有名大学に合格。ようやく田舎から解放されると思って上京したが、現実は違った。
方言が抜け切れず、同級生に笑われる日々が続いた。熊本の田舎育ち――方言が骨の髄まで染みついていたのだ。
結局、同級生とうまく馴染めないまま夏休みを迎え、帰郷することにした。
飛行機の余裕はなく、選んだのは夜行バス。胸を躍らせながら乗り込む。
――早く方言で思いっきり話したい。
そう願い、眠りについた。
――――――――――――
――――――――
――――
目を開けると、見知らぬ金髪の若い女性が微笑みながら俺を見ていた。
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