方言だけ最強。機人×魔法の学園で逆転

黒鍵

001 帰郷

!」


 その受験生が独特の詠唱を始めると青い火球が現れた。他の受験生のものとは明らかに違っていた。


 青く燃えるそれは、火球というより猛獣の顔のような形をしていた。


 熊本の言葉――「暑か(あつか)」。方言の一言で、魔法は牙を生やす。


 大きく開いた口には鋭い牙が見え、その大きさも異常だ。隣に立つ受験生が作り出した火球の三倍はある。


 試験会場にいた全員が、その受験生を凝視した。


 黒髪に金色の瞳。無造作に伸ばした髪のせいで、顔立ちは整っているのに美男子とは言いがたい。それでも、存在感は圧倒的だった。


 黒髪の受験生の隣で同じ火魔法を展開しているのは、今年の首席候補の一人。


 実力を比べられるのを嫌い、誰も彼の隣には並ばなかった。――黒髪のその受験生を除いては。


 決して小さくも弱くもない火球を放った首席候補は、悔しそうな表情を浮かべつつ詠唱を続け、標的に叩きつけた。


 炸裂音とともに数字が浮かび上がる。


 『811』――会場がどよめく。やはり首席候補。今までの最高得点だった。


 高等部にも入っていない学生が出せる点数ではない。彼も自信を取り戻したように、黒髪の受験生を見やり、ニヤリと笑って挑発する。


 その視線を受けた黒髪の彼は小さくため息をつき、そのまま青く燃える火球を放った。


 次の瞬間、誰もが目を疑う。


 詠唱途中の不完全な魔法――そう思われた火球は、凄まじい速さで標的に突き刺さり、霧散することなく燃え続けたのだ。


 連動するように浮かぶ数字が跳ね上がっていく。


 ――8911、8999、9223、9999、0000…。


 次の瞬間、特殊合金の柱は音もなく溶け落ち、点数を表示するパネルは消えた。





 隣に立つ生徒が驚愕の目で俺を見つめている。


 ――まあ、誰だって、あんなものを見せられたら仕方ない。


 目を見開いたままの彼に笑みを向けると、ビクリと肩を揺らし後ずさった。その顔を見て、初めて俺の魔法を目にした両親の姿を思い出す。


 周囲を見渡せば、皆が同じ顔をしていた。


 予想通りの結果に苦笑し、試験官へ視線を送る。その男性もまた肩を震わせたが、すぐに表情を引き締め、次の試験会場へ促した。


 小さく頭を下げて次の試験がある校舎へと歩きながら、心の中で呟く。


『ようやく、これで故郷に錦が飾れる』



――――――――――――



 ――あの夏、転生前。まだ日本にいたころの話だ。


 俺は九州の熊本県にある田舎で育った。都会に憧れ、勉強に励み、関東の有名大学に合格。ようやく田舎から解放されると思って上京したが、現実は違った。


 方言が抜け切れず、同級生に笑われる日々が続いた。熊本の田舎育ち――方言が骨の髄まで染みついていたのだ。


 結局、同級生とうまく馴染めないまま夏休みを迎え、帰郷することにした。


 飛行機の余裕はなく、選んだのは夜行バス。胸を躍らせながら乗り込む。


 ――早く方言で思いっきり話したい。


 そう願い、眠りについた。



――――――――――――

――――――――

――――


 目を開けると、見知らぬ金髪の若い女性が微笑みながら俺を見ていた。

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