第12話
家の中は時間が止まったかのように静かだった。
私とフミの息遣いだけが微かに空気を揺らす。
帰宅してからずっと、フミは私を抱きしめたまま微動だにしない。
私はフミの背中に手を回してなだめるように、撫で続ける。
「もう、学校なんかに行くな、ずっと私といろ」
フミは私の肩に顔をうずめているため、声がこもって聞こえた。
フミの側にいたいのは、私だって同じだ。
しかし、学校へは行かなければならない。
学校を卒業しても、仕事に就かなければならないし、四六時中一緒にいるなんて不可能だ。
人の生活をする以上、社会と関わらなければならない。
それを今のフミに、どう説明すれば良いかわからない。
「フミ・・・私はフミが一番大切だよ。だから安心して」
「なら、一緒にいろ。どこにも行くな。誰にも会うな」
フミの手に力が入る。
「亜澄・・・好きだ。愛してる・・・」
フミが私の首筋に顔を押し付ける。
唇が首を撫でていく感覚に、背筋がぞわぞわして落ち着かない。
このままでは駄目だと思い、離れようとした瞬間、激痛が走った―――。
フミが私の首と肩の付け根あたりに嚙みついたのだった。
痛みに驚いて、フミを突き放す。
血が飛び散り、ぼたぼたと床に落ちた。
フミの口元から血が垂れる。
私は傷口を手で押さえ、床に倒れこんだ。
ドクドクと脈打つ様に痛みが広がる。
フミの視線は血に注がれていた。
欲望と不安が混じり合ったように表情が歪む。
「がああああああああああああああああああああ!!!」
フミが獣のように吠えた。
抑えられない感情を爆発させるように、部屋中を鋭い爪で引き裂く。
物は散乱し、割れた窓ガラスが飛び散る。
私はただ暴れるフミを見ているしかできなかった。
涙が溢れて頬をつたう。
恐い―――。
フミに対してこんな感情を抱くなんて。
興奮して肩で息をするフミと視線が合う。
フミは動きを止めた。
フミの目に正気が戻る。
自身がしたことを自覚し、愕然としたように手を震わせた。
フミは逃げるように家から出て行った。
私は一人、部屋に取り残された。
(追いかけないと・・・)
そう思うのに、恐怖で体が動かなかった・・・。
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