第9話
昼休み、校庭の隅に設置されているベンチに座り、弁当を広げた。
いわゆる、ぼっち飯であるが、教室で食べるよりは良い。
昨夜から、フミとはちゃんと話せていない。
朝、フミは布団から出てこなかった。
一応、フミの食事の用意をしてから、学校へ来た。
午前の授業は全然集中できなかった。
なんでこうなっちゃったんだろう。私は無意識に深い溜息をつていた。
「なにか悩み事?」
声のした方を見ると、黒髪の女生徒が立っていた。
たしか、佐々木さんって言ったっけ。
佐々木さんは断りなく私の隣に座った。
弁当を持っている。ここで食べるつもりか。
「安心して、久川さんになにかするつもりはないから」
私が警戒心をむき出しにしているのが伝わったのか、佐々木さんは穏やかに言った。
私が警戒しているのは私のためではなく、フミを守るためだ。
佐々木さんは弁当を広げて食べ始めた。
結構、精神の図太い人だなと思った。
「あの・・・私に何か用?」
私は警戒心を強めて言う。
「久川さんから漂う妖怪の気配、前より強くなってる。もしかしてだけど、妖怪と住んでたりする?」
いきなり、核心を突かれて体がこわばる。
(この人、やっぱりフミを狙って・・・)
「落ち着いて。今すぐどうにかしようってわけじゃないから」
佐々木さんは、卵焼きを頬張った。
マイペースな彼女に調子を狂わされる。
「何が目的なの」
「ただ、忠告したいだけ」
「忠告?」
「あなたみたいな人、たまにいるんだよね。妖怪と仲良くなって魅入られちゃう人」
佐々木さんの目が私を貫く。
「っ・・・」
心を見透かされているようで落ち着かない。
「色々見てきた経験上、そういう人たちは必ず不幸な結末になる」
言って佐々木さんが目を伏せた。
「不幸って・・・」
「私も全部の妖怪が悪者だとは思ってないけど、やっぱり人間と妖怪って相容れないんだよね」
佐々木さんの言葉に昨夜の出来事がよぎった。
「私たちは違う!」
私は声を荒げる。
ご飯を食べる気も失せた。早くここから立ち去りたい。
弁当をしまい、立ち上がる。
昨夜の出来事だって、ちょっとしたすれ違いだ。
家に帰ったら仲直りすればいい―――。
午後の授業も集中できず、どうやって仲直りするかだけを考えていた。
学校が終わると、すぐさま家に向かう。
早く、フミに会いたい。
フミに会って、謝って、それから―――。
私は、走り出していた。
勢いよく家の玄関を開ける。
「フミ!」
会いたかった姿がそこにあった。
玄関に膝を抱えて座っていた。
もしかして、ずっとここに座って待ってたのだろうか。
「フミ、ごめんね」
私はフミを抱きしめた。
「亜澄・・・私も・・・ごめん」
フミも私を抱きしめる。
私たちは大丈夫。
絶対。
この関係は、壊れたりしない。
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