元ブラック企業のOL、探索者にジョブチェンジ?
@fuuuka0000
第1話 ダンジョン事故?
20XX年の夏、世界が一変した。
それは、世界各地で起こった。
急に何もなかった場所に現れた『ダンジョン』の『ゲート』。
そこから溢れる異形のモンスター。
もちろん誰も見たことのないそれらは、近くにいた人を手当たり次第に襲い始めた。
その様子はSNSで拡散され、警察などが動く事態になった。
人々を守るために武装した人たちは、銃を持ち出し、モンスターを射殺しようとした。
しかし驚いたことに、銃火器による攻撃はモンスターに通用しなかった。
また、彼らの持っていた盾や防具も、モンスターの攻撃1発で破壊されてしまった。
よって、武装した人々もあえなく殺され、さらに死傷者が増える事態となったのである。
そのまま世界が終わると、誰もが考えた。
しかし、ダンジョンが現れたのと同時に、世界各地で不思議な力を持った人が現れた。
それが今『探索者』と呼ばれる存在だ。
『探索者』はどこから出てきたのか分からない件を振り回し、世界の法則を無視した魔法を使って次々とモンスターを葬り去っていった。
そうして世界の危機は去ったのである。
しかし依然としてダンジョンは残っており、再びモンスターがゲートから溢れ出す可能性がある。
そこで探索者はダンジョン内部の調査を行うことにした。
彼らがゲートの先で見たのは、まるで異世界のような景色。
そして、そこは未知の資源で溢れていたのだ。
それを知った国は、資源確保のために探索者を雇い、持って帰ってきたものを高く買い取ることにしたのだ。
探索者はダンジョンで手に入れた金で暮らせるようになった。
そうして『探索者』は人気の職業になったのである。
というのが、ここ数年で世界に起きた変化。
本当に、世界がガラッと変わったよ。
大量の死傷者が出るわ、モンスター出てくるわでてんやわんやだったよ。
でも、こんなに変わって世界でも変わらない生活を送っている人が大勢いる。
私もそのうちの1人だ。
人間は誰でもダンジョンに入った瞬間に、なんか『固有スキル』?とかを貰えるらしい。
だから、探索者になろうと思えば誰でもなれるってことだ。
でも、ダンジョンに入るってことは命を危険に晒すってことと同義。
別に生きてやりたいことがあるわけではないけど死にたいとは思ってないし、痛いのは嫌だ。
だからそのまま仕事を続けている。
私だけじゃないよ。だって、みんな仕事辞めちゃったら、社会が回らなくなるからね。
しかし、ダンジョンの出現に、完全に影響を受けてないというわけではない。
最近人気なのは、『ダンジョン探索配信』。
誰が始めたのかはわからないけど、動画配信サイトでダンジョン内の動画を投稿するのが流行り始めた。
そして今はダンジョン内に電波が届くことを利用して、ダンジョンの景色や戦っているところを生配信している人が多い。
……たまに配信中にモンスターや罠で亡くなる人もいるけど。
そういう動画はもちろんすぐ消されるよ。完全に放送事故だもん。
私もよく寝る前とかにアーカイブを見る。
生配信は見れないんだよね。配信者がダンジョンに潜るのって大体昼だし。
でも、夜に潜る配信もたまにあって、それを見るのを楽しみに生きている。
まるで地球ではない場所を見ているような、そんな気分になる。
やっぱ人間は楽しみがないと生きていけないよ。
美味しいものを食べながら配信を見て、ダラダラする生活に憧れがある。
でも、今の私には到底叶えられない願いだ。
18歳、社会人1年目であり、ブラック企業に就職した私には、特にね。
最近は残業続きで帰ってからも仕事、日々の睡眠は平均2時間。
今日もコーヒーを机の上に大量に並べて、眠気と戦いながら仕事に向き合う。
でも夕方くらいに眠気を我慢できなくなって、多分寝てしまったのかな?
で、さっき(なんか肌寒いな…?)って思って寝てしまっていたことに気がつき、飛び起きて周りを見たら、同僚や上司が誰もいない。
焦って窓の外を見て何時くらいか確認しようとしたら……
あたり一面銀世界。
……意味わからないでしょ?私もわからない。
何でこんなところにいるの?とか、会社にいたのが夢だったのかな?とか、外はあんなに吹雪いてるのに何であんまり寒さを感じてないんだろう、とか。
疑問をあげていけばキリがない。
衝撃と寝起きで回らない頭を必死にフル稼働させ、スマホで状況を確認することを思いつく。
スマホの時計を見ると、今はどうやら夜の11時らしい。
……相当寝てしまっていたみたいだ。
ネットニュースを漁っていると、やがて1つの記事を見つけた。
『東京都●●区のビルに、突然ダンジョンが出現』
……は?
そこに写っていたのは、私が毎日通勤しているビルだった。
下にスクロールしていくと、さらに写真が出てくる。
外から見た感じは変わらないみたいだけど、ビル内の写真を見て驚愕した。
ビルの中身は、ダンジョンのゲート以外何も無かったのだ。
どういうことかというと、まず夕方まであったはずの机や椅子といった物がない。
そして、床が無いのだ。
いや、1階の床はある。ただ、それより上の階の床は消えており、12階建てだったビルは天井が高い1階建ての建物になってしまったみたいだ。
つまり私は、ダンジョン事故に巻き込まれたってこと?
血の気が引いていくのを感じた。
ダンジョン事故とは。
ダンジョンは突然生成されるんだけど、ゲートの周りにあった物が消えるんだよね。その現象をダンジョン事故って呼ぶ。
物だけじゃなくて、人もそう。
かなりの人がダンジョン事故により姿を消している。
姿を消した、という表現をするのは、ダンジョン事故に巻き込まれた人がどうなったのか誰も知らないからだ。
つまり、生還者は未だ0人ってこと。
それに巻き込まれたってこと…?
今夏だし、外が吹雪いているのはおかしい。あと、ネットニュースの情報から多分ここはダンジョンだと推測はできる。
起きた時は会社の中だと思ってた。
だって、建物の中はいつも通りなんだもん。
ネットニュースに出てたビルの内部の写真を見るに、ビルの中身だけダンジョン内にテレポートしちゃったのかな?
……ダンジョン事故に巻き込まれたことに対しては、何の感情も湧かない。
何というか、状況は分かっているんだけど、脳が理解を拒否してる、みたいな感じ。
だって、さっきまでいつも通り過ごしてたのに。
私、このまま死ぬの?
ど、どうにかならない?
しばらく調べてみたけど、やはりダンジョン事故に巻き込まれて帰った人の記録はどこにも無かった。
これは詰んだか…?
いろいろなサイトを開いていると、私がよく見ている配信者、『赤土グレン』の配信が目に入った。
……今日は、グレンさん配信してるのか。
………あれ?スマホで助けを呼べば良くないか?
何で思い当たらなかったんだろう?スマホ使えるなら1番に気づくべきことなのに!
えっと、警察に通報するべき?
いや、こんな時は探索者組合に連絡するべきかな?
探索者組合とは、簡単に言えば探索者がほぼ全員所属している組合のことで、ダンジョンアイテムはそこで換金してもらえるらしい。
恩恵はいろいろあるが、対価としてモンスターが溢れた時ーーー人々はそれをスタンピードと呼ぶーーーに、半強制的に討伐に参加しなければならないのだ。
まれにダンジョンの外でモンスターが現れたり、新しいダンジョンが現れたりするので、一般人はそれを見つけた場合探索者組合に連絡するのが常識となっている。
マジで、何で今まで気付かなかったの?
早速電話をかけよう。
電話を繋ぐと3回目のコールの後に女の人の声が聞こえてきた。
『ーーーお電話ありがとうございます、こちら、探索者組合です。
ご用件をお伺いします』
「えっと、救難要請です。
ダンジョン事故に巻き込まれたみたいで。
●●区のビルに出現したダンジョンに閉じ込められたみたいなんですけど……」
『……ただいま担当者に確認してまいります』
なんか今、返事までに変な間がなかった?
気のせいかな?
しばらくすると、別の女の人の声が聞こえてきた。
『お電話変わりました、『ダンジョン事故』担当の新木です。
一つお聞きしたいのですが、何故その時間にビルにいらっしゃるんですか?』
なんかこの人、威圧感あるな?
「それは、仕事中に寝てしまって、起きたらダンジョンの中にーーー」
『……はぁ、またイタズラ電話ですか』
え?この人何を言ってるの?
こっちは命の危険を感じてるんですけど?
「イタズラ電話じゃ無いです、本当にダンジョン内で……」
『もっとマシな嘘をつくべきでしたね。
ダンジョンが生成されたのは夕方で、会社の人は生成された瞬間に全員ビルの外に転送されたらしいですよ?
その場で安否確認をして、全員が無事という報告が上がっています。
はぁ。これで懲りたらもう電話をかけてこないでくださいね』
ガチャ、という音がして、問答無用で電話を切られた。
…………え?
本当に人生詰んだかもしれん。
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