第11話 一眼レフ
夏盛りの7月下旬、終業式も終わり夏休みに入る。
外は蒸し暑く、外に出るきにもならない
とはいえ外出しないと出来ないこともある。
――プレゼント選びとか
7月30日、萌音が生まれた日だ。
去年、一昨年と萌音は扉を開けてくれなかったからちゃんと祝うのは今年が初めて。
だから俺は張り切っていた。
「明日誕生日だろ、萌音。なにか欲しいものとかあったりする?」
色々と悩んだのだが、変にサプライズでもして贈ったものが使われたりしなかったら直視できない。素直に聞くことにした。
「そういえばそうだった。二年もやってないから私も忘れちゃってた」
萌音が少し笑ってチロッと舌を出す。
最近は感情を外に出せるようになってきているのかこういう仕草が多い、兄としては大変微笑ましいことでもある。
「うーん、でも気持ちだけで十分だよ。お兄ちゃんだってまだ高校生でしょ」
「気にしなくても良いよ。父さんからお金も幾分かもらってるしね。そうだ、写真部に入りたいのだったらカメラとかどう?」
パアっと萌音の顔が明るくなる。どうやら当たりだったようだ。
父さんも彩音さんもその日は都合がつかず、俺と萌音だけで彼女の誕生日を過ごすこととなる。
「うん......あんまり高いのじゃなくても良いからカメラが欲しいな」
「買いたいモデルとかは決まってる?もしあるなら今から家電量販店に買いに行こう」
「決まってるよ、五分だけ待ってね」
萌音が着替えに行ったので俺は玄関前で待機をしている。
最近萌音は服にも興味が出てきたりしていて年相応になってきている。
「お、終わったよ。行きましょう」
廊下を軽く走ってきた萌音は少し息が上がっている。
前に比べたら健康的になってきているがまだまだ。
「よし、駅前まで歩いていこうか」
――ウィーン
「イラッシャイマセ」
体を近づけると自動扉が開き、涼しい風が外の暑さにやられた火照った体を冷やす。
少し前から導入されたらしいロボットが健気に声を上げて出迎える。
「はぁー、涼しい。死ぬかと思ったよ」
「わ、私も」
たった十分程度の距離なのに汗だくになる。
いつからこんな熱くなったのだろうか。
「えーっと、カメラコーナはあっちだね」
萌音に手を引かれてゆっくりと進み始める。
一刻も早く見たいらしく、いつもよりも三割増くらいで早足だ。
「お兄ちゃん、これとこれどっちが良いと思う?」
「俺には分からないよ......でもデザインは右のほうが良いかな」
急に居なくなったと思ったら二つレフを持ってきた。
萌音が納得したように頷く。
「こっちの方がコスパもいいし耐久性もある......私はまだ初心者だし......よし、こっちに決めたよ。」
そう言って俺が指を指した方を選ぶ。
値段を見てみたら一眼レフにしては相当安い方。
値段も問題ないので特に問題は起きず、レジに持っていった。
「萌音、自分でやれるか?」
「大丈夫。問題ないよ」
コンビニに行ったときやかとちゃんと久し振りに会ったときなんか声が震えていたが今は練習のおかげか事務的な会話は既に問題なく行える。が、
「彼氏さんですか?お似合いカップルですね」
店員のお姉さんがふと漏らす。
萌音は顔を真赤にして固まってしまった。
――あー、それはだめだよ。予想外のことを聞かれたりすると動けないからね。
「実は兄妹なんですよ。だからお似合いっていうのも間違いではないんですけどね」
「そうだったんですね!レシートどうぞ。またのご利用お待ちしております」
いまだ固まっている萌音の手を引き、外に出る。
紙袋に入れてもらった一眼レフを振り回さないように気をつけながら振り返る。
「今度は冗談もいなせるようになると良いね」
「私は冗談じゃなくても良いのに......」
萌音の言葉は宙の耳には届かず、熱風とともに街なかを通り過ぎていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます