第7話 将来のために




「ううー。お兄ちゃんひどいよ......」


 萌音にマッサージを施して風呂に放り込んでからずっとこんな調子だ。

 彼女曰く、もっと優しくて気持ちのいいマッサージを求めていたらしい。


「拗ねないでくれよ。ほら、楽になっただろ?」


「楽にはなったけどさぁ。女の子に手加減しようとかないの?」


「そんなものは無い。」


 というか中途半端に筋肉をほぐすと変に筋肉が固まるから加減はしない方が良い。

 それにちゃんと痛みも抜けているんだし良いのではとも思う。


「ぐっ。お兄ちゃん、そんなことしてたらモテないよ!」


 失礼な、俺はかとちゃんほどではないがモテてると自覚はしている。

 海野会長は加藤君に手が届かない女の子にモテている、と言っていた。


「ふ、ふーん。言うじゃん、一昨日だって同じ委員会の後輩に告られたしー。」


「え。そんな......」


 萌音の顔が一瞬にして曇った。

 そんなに俺は妹から見てモテないと思はれているのか......


「そんなことより――って萌音どうした!?」


 萌音の口からなにやら白いモヤが出てたけど魂とかじゃないよな?

 茫然自失になる程、萌音にとって俺は魅力的じゃないのかな?

 きっと俺が萌音の彼氏を想像できないのと一緒で萌音も想像できないだけなはず。


 ――いや、そうであってくれ。




 ひんやりとした抹茶プリンを2つ冷蔵庫の中から出す。

 片方を回復した萌音に渡した。


「はい、どうぞ。昨日買ったやつ。」


「あ、ありがとう。そ、それで話って......何?」


 そうなんだよなぁ。どうやって伝えようか。

 実は萌音に通信教育を勧めようと思っている。


 けれど今まで引きこもってしまうくらいメンタルが不調だった人にいきなり勉強の話もと思うが、萌音も中3なのでそろそろ始めないと高校に行けなくなる。

 俺としては萌音の自由にすればいいと思う、しかし兄としては最低限高校だけは卒業してほしいとも思う。


 悩みながらも口を開く。


「萌音、昨日出てこれたばっかでこんなこと言いたくはないんだけどさ......萌音も一応受験生、だろ。だから少しずつ勉強を始めないか?」


 やはり萌音は俯いてしまう。

 誰だって勉強は嫌だろう。ましてや自分が遅れていると自覚しながらやるのは。


「嫌なことだってのは俺だって分かるよ。でもさ、兄としてこれだけは言わないといけない。高校だけは行ってほしい。」


 俺は続ける。


「もちろんサポートだってする。頑張って行けなかったらもうしょうがない、それいついては責めはしないさ。とにかく一旦通信教育だけ受けてみないか?」


 萌音の顔が少しだけ上がる。


 ――よし、手応えはあるようだ。


「じゃあ、さ。お兄ちゃんの行った通りに通信教育?始めるから......ご褒美が欲しいな。」


 少しだけ顔を赤らめながら上目遣いで言う。

 そんな顔されたら断れないじゃないか。


 まぁ可愛い妹の頼みを断ることなんて無いけど。


「ふぅ、分かったよ。お兄ちゃんのバイト代で収まる額にしてくれよ?」


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