箱庭恋愛

@asarimaru89

第1話

「これをしなさい」「あれをしなさい」


はい…


「こう在りなさい」「ああ在りなさい」


ああ、


「なんでできないの?あの子は出来たのに」


この箱庭に、


「どうしてこんな子が…」


光が差し込む時は

来るのでしょうか。






僕のいる箱庭は、完全に閉ざされ暗闇で満たされている。

これは当たり前のことなのでしょうか?

矮小で何の才も持たないこんな僕でも、救いを求めることは許されざることなのでしょうか。

なんでもあげます。

誰でもいい、僕を箱庭から救い出して下さい――――。



外を知らぬまま、名家の跡取りとして育てられるうちに12歳になっていました。

母による支配は未だに続き、世間一般で娯楽とされるであろうものも知る由がありませんでした。

父は気弱で、母には逆らえず家での発言権はほぼなかったんです。父は悪くありません、

多分。


「次はピアノのレッスンです。早く準備しなさい。」

「分かりました。」


母とは親子らしい会話をした記憶がありません。

勉強やらピアノやらに埋め尽くされる毎日、

楽しいと思う人はいるのでしょうか。


しかし、こんな僕でもほんの少しの楽しみはあります。12歳になって、18時からの数分間だけ、監視無しで広い庭を歩き回ることができるようになったのです。

家庭教師が言っていた

「マイナスイオンって、これかあ…。」

って発言は意味が分からなかったけど、

一人で歩き回ってやっと、マイナスイオンとやらが分かった気がします。親と居ると空気が不味くなるので…。

ところで、僕の一番のお気に入りは、夏に白い花を咲かせるナツツバキ。特段植物が好き、という訳ではなく、夏が好きなんです。

セミは僕の箱庭に毎日のように声を届けてくれるので。ほぼ友達ですね。


夏めき出して、数日が経ちました。

お隣の家がなんだか騒がしいです。

僕には関係ありませんけどね。


僕はいつものように、庭を歩き回っていました。

「こんな所に穴なんて空いてたっけ?」


なんと塀に子供なら通れそうな穴が空いていました。昨日はなかったはずです。


「まさか、今日できたのかな。この穴―。」


ガサガサ

ガサガサ


穴の奥から音が聞こえます。


「何かいるの…?」


僕は小動物だと思っていました。

しかし、夕日に照らされうっすら黒くて長い髪が見えた途端、パニクりました。

とりあえずパニクりました。齢12にして、初めての身内以外の他者との邂逅です。


「え、誰?!」

「えっ?」


この邂逅のおかげでしょうか。

僕の箱庭にほんの小さな、本当に小さな光が差し込んだ気がしました。








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