第5話 【水魔力変換】の覚醒とEXランクへの第一歩
ニッポンバシダンジョンその1。俺たちはついに8階層の中ボス部屋にたどり着いた。
「デカっ!」
目の前に立つのは、これまでのゴブリンや骸骨とは桁違いの威圧感を放つ【アイアン・ゴーレム】だ。全長は優に四メートルを超え、全身が錆びた鉄板で覆われている。
「マサタカ、どうするにゃ? あいつ、物理攻撃はほぼ無効よ!」ホノカが焦ったように叫ぶ。
「【魔眼】で弱点を探る!」
俺の視界が青く光り、ゴーレムの全身を解析する。弱点は確認できた。関節部と、胸部の魔力核だ。ただし、一瞬で破壊できるかは怪しい。
「防御は任せろ、ホノカはヒールを温存だ! ひとりは水の玉を生成して、俺の援護を待て!」
「わかりました!」ひとりは言われた通り、両手で大きな水球を抱え込む。
「いくぞ、【轟弾】!」
三発の轟弾を連射し、ゴーレムの関節を破壊する。轟く閃光が鉄の巨体を揺らすが、俺のHPは急速に削られていく。ポーションを飲む暇はない。残りHPは赤ランプだ。
「マサタカ、もう限界よ! 危ない!」ホノカが叫ぶ。
ゴーレムは片腕を失いながらも、怒りの雄叫びを上げ、残った巨腕を振り下ろした。その一撃は、ダンジョンの壁すら砕きそうな、必殺の一撃。
「クソッ、【カウンター】が間に合わねぇ!」
HPがゼロになるのを覚悟した瞬間、俺の前に小さな人影が飛び出した。真治無異ひとりだ。
「ダメっ! ひとり!」
轟音と共に、ゴーレムの拳がひとりの体を打ち据える。
「痛い……けど……痛くないっ!?」
ひとりの体が地面に叩きつけられる。しかし、すぐに立ち上がった。彼女の全身が、微かに青い光を放っている。
「なんだ……この力!?」
俺の【魔眼】が、ひとりのステータスを緊急解析する。
【真治無異ひとり】
異能: 【水魔力変換(ハイドロ・コンバート)】(NEW!)
詳細: 自身が受けた物理ダメージ(HPへのダメージ)を即座にMPに変換する。変換率はダメージ量に応じて増幅する。
MP: ∞(一時的オーバーフロー)
「すごい! 身体が熱い! 痛みが魔力に変わるのを感じる!」
ひとりの手元で生成されていた水球が、まるで濃縮された液体金属のように変化し、激しく脈動し始めた。
「これなら……いける! ハイドロ・バースト!」
ひとりが放ったのは、もはや「水の玉」ではない。俺の【轟弾】に匹敵する、いや、それ以上の超高圧の水流弾だ。
水流弾はゴーレムの胸部、魔力核の隙間に一直線に突き刺さり、その鉄の巨体を内側から粉砕した。
【アイアン・ゴーレム】を討伐しました。
◇
ボスを倒し、深部で手に入れた宝箱を開ける。中にはミスリル製の剣と、古ぼけた羊皮紙が入っていた。
「ひとり、あんた……とんでもないチートを覚醒させたわね」ホノカが目を丸くする。
「まさか、ただの打たれ強さが、最高の魔力供給源になるとはな」俺は冷静に分析する。
【水魔力変換】。防御を攻撃に変える、まさに「魔法使いになりたい盾役」に最適なスキルだ。これなら、俺の【轟弾】のポーション代も節約できる。ひとりにダメージを受けさせて、その魔力で俺のHPを回復する。完全な連携だ。
「これ……なんだ?」俺は羊皮紙を手に取る。
それは、このダンジョンその1の最深部に隠されていた「EXランクへの道しるべ」だった。
【EXランクへの覚醒条件:】
スキルマスター: 属性の異なる10個以上のスキルを極めること。
至高の素材: 特定のダンジョンに存在する『世界の核(コア)』を持ち帰ること。
「スキルマスター……俺は【轟弾】、【魔眼】、【カウンター】でまだ三つ。あと七つか」
「『ニッポンバシダンジョンその1』は、俺たちにとってはもう卒業だ。次の目標は決まった」
俺は羊皮紙が示していた、東京の湾岸地域にある巨大なダンジョンの名前を指さした。
「次の舞台は『世界の核』があると言われる【トーキョー・ベイ・ダンジョン】だ。最強しか目指さない。もう立ち止まる暇はないぞ」
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