第17話 奴が来る
「いやあ夏恋ちゃん達って運動部でもないのにめっちゃ大食いだよね」
昼休みいつの間にかまとまった面子で昼食を取っていると和馬君が総菜の焼きそばパンをかじりながら重箱の様なわたし達の弁当を見て感心した様に隣から声を掛けてくる。
「え?ああ、バイトが結構体力使うんでお腹へっちゃうんだよねえ、へへ」
「そうなん?悠里ちゃんも藍ちゃんも同じバイトしてるんだ。それ見ちゃうとエルシアちゃんの弁当がこじんまりしているから心配しちゃうよ」
突然話を振られたエルシアはちょっと意外そうな顔をして笑顔で答える。よくよく見てみれば彼女の弁当箱は少し前のわたしの食べていた量とたいして変わらないから食事量が変わり過ぎた自分自身なにげにショックだ。
「ふふ、私はこれで十分ですよ、過度なカロリー摂取は太ってしまいますから。あ、わ、私はアルバイトしてませんので」
「気にしなくていいよ、あたしらガテン系だからね」
そう言いながらわたしの肩に手を掛け悠里は唐揚げを口に頬張る。
「ガテンって…まあ、それに近いのかなあ」
「それで皆さんは何のバイトを?」
「え?あ、えっと…」「あー何て言うんだ?あれだよ」
「清掃系」
急なエルシアの質問にわたしも悠里も答えを考えてなかったので二人で言葉を濁してると、藍がボソッと代わりに答えてくれたが大枠で考えたらそうなのかも知れない。
「清掃ですか?私の家でも雇ってますが見ていると大変そうなのはわかります。ただ、お年寄りの方が多かったので驚きました。若い方でもやるんですね」
「そ、そうなんだよねえ、結構肉体労働!ってエルシーは家に清掃の人雇ってるんだ。さすが金持ち」
「お金持ってるのはお父様であって私ではないわ。それでも将来的にお父様のお手伝いが出来るように色々勉強はしてるつもりよ」
「おお~」「おお~やはり本物は違うな」
悠里の言葉にそう答えるエルシアに皆の感心と羨望の溜息が出ると彼女は少し困ったような顔をしながら照れていた。
偉いのは父。そう言い切る彼女はやっぱりすごい。わたしもお母さんの遺産なんか頼りにしようとしないで仕事がんばらなきゃなと彼女を見て思い直す日だった。
◇◇
いつもの様に学校が終わり、寮に帰りつくと門を潜った所で見慣れない白いミニバンが母屋の駐車スペースに雑に止めてあるのが目に入った。
「あれ?今日は町内会の集まりの日だっけ?」
「違うと思う」
悠里の呑気な問いに無関心そうに答える藍は相変わらずタブレットでゲームをしている。お婆ちゃんは町内の集まりで公民館代わりによく母屋の大部屋を貸すことが多いが、今日はたしかに予定にはない日だったので急なお客様なのだろう。
そう思い、わたしも大して気にも留めず部屋に戻ってから私服に着替え夕食の仕込みの為にエプロンを付け母屋の炊事場に行こうと廊下へ出た所で翼が目の前に立っていた。
「あれ?翼、どうしたの?もうお腹空いたの?」
「あのな、お前らといっしょにすんなよ。それよりお前、厨房に行く気だな?取り合えず今は母屋に行くな!いいな」
「なんで?ああ、お婆ちゃんのお客さんがまだ居るから?」
「婆ちゃんは出かけていない。それよりあれは客なんかじゃねえよ、あいつらは‥‥‥」
そう言葉を言いか掛けた翼の声を遮る様に聞き慣れたあの嫌味ったらしい声が耳に入って来る。
「あらぁ~ちゃんといるじゃない」
「ミサ叔母さん!?」
翼の後ろからいつもの派手な服装で寮の廊下をドカドカ音を立てながらこちらに歩いて来た人物を見て驚愕した。
[悪い、客間で待ってろって言ったのについて来たようだ。なんとか婆ちゃん呼び戻して来るから]
小声でわたしに耳打ちをしてダッシュで叔母の脇を通り過ぎて外へと走って行った翼を見て不快そうな顔をする。
「なんなの、さっきからあの無礼な子供は、失礼しちゃう」
狭い通路、ちょっと掠めただけでブツブツと翼に対して文句を言っている叔母さんは相変わらずのようだ。正直、ここに来てから二か月程度しか経っておらず、あんな追い出し方したこの人が今更なんの用があるというのか。
「えっと、叔母さんお久しぶりです。今日はどのようなご用件で?お婆ちゃんはいないそうですよ」
「ババアの事なんてどうでもいいのよ。ん?あんたその恰好、ああここでも家政婦やってるのね。丁度いいわ」
「丁度いい?何がです?」
怪訝な顔で問いかけると相変わらずの嫌な笑顔でとんでもない事を言い出し始めた。
「あんた、家に帰って来ても良いわよ」
「え?」
「
追い出したのは自分な癖に心結ちゃんをダシに使って来る姿勢にイラっときたが、怒りを押えつつ冷静を装う。
「急にそんな事言われても、わたしはもう…」
「あら?私の娘ちゃんが可愛くないとでも?」
「そもそも叔母さんがわたしの承諾も得ずに追い出したのになんで今更…」
「はぁあああ?何言っているの?学校が近いからって言ったでしょうに」
「でしたらまた遠くなるだけじゃないですか」
そこまで言った所でイライラし始めたのか本性を現し始める。相変わらずこらえ性ない人だが次の言葉で何を求めているのか大体の事は察した。
「だから家に戻れって言ってるの!相変わらず察しが悪いわねえ、丁度いい物入れ部屋があるからからそこを提供してあげるって言ってるのよ。たった二ヶ月で頭まで悪くなったの?ああ、あのクソババアの影響かしらねえ」
次から次へと言いたい放題好き放題の叔母の言葉にわたしの堪忍袋の限界が来てしまった様だ。
――ブチッ
その時、わたしの中の何かが弾けた。
「……してください」
「は?」
『いいかげんにしてください!!』
「!?」
今まで見せた事の無い様な形相で叔母を怒鳴り付け、睨めつけると流石に図々しさの塊のような彼女も慄き、二、三歩後ずさりをする。
「な、なによ、急に怖い顔して…今まで育ててあげた恩を仇で返すっていうの?」
「あなたに育てられた覚えはありません!長年下働きの様に扱われた覚えはありますけどね」
「い、今だってそんなエプロンして下働きみたいな事やってんでしょ!た、たいして変わらないじゃない」
「ここは共同生活の寮です。皆がそれぞれ分担でトイレやお風呂、庭の掃き掃除、洗濯、買い物などみんなが分担し協力して生活しているんです。貴方みたいに人様のお金でのんべんだらりと生活している訳じゃありません!!」
「そうだそうだ」
「帰れ帰れ」
いつの間にか部屋の中にいたはずの悠里や藍、ひろむ先輩や未来先輩までも集まって叔母さんの事を囲むように睨んでいた。
さすがに大人数で囲まれ睨まれると傍若無人が顕現した様な叔母も怯み何も言えなくなった様だった。そこへ最後のトドメの様な声が後ろから響く。
「やれやれ、汚らしい声が聞こえたと思えば春太のクソ嫁じゃないか。大方、誰も何もしないから掃除はおろか、洗濯、食事もまともに出来ないもんでたまりにたまった仕事を夏恋呼び戻して全部やらせようという魂胆なんだろうがそうはいかん」
「お、お婆様!私は何もそんな事企んでませんよ。ただ、心結が寂しがってるから戻って来てもらおうという母心なんですぅ」
「ほっ!いまさらお婆様か?いつものクソババアでいいぞ?」
「いえ、そんな事は‥‥‥」
『だまらっしゃい!!!』
なおも言い訳を口にする叔母に寮に響き渡る様な怒号が響き渡り、皆が震える。
「!?」
「お前達の生活ぶりは全て把握している。いい加減さっさと出て行かないと近所や学校、ママ友達の間におかしなおかしな怪文書が届くかも知れないねえ」
「…きょ、今日の所はか、帰らせて頂きますわ」
ニヤッっと悪魔の様な顔つきでミサ叔母さんを見ると彼女は恐怖のあまり上ずった声で捨て台詞を吐いて逃げる様に寮から飛び出し、その勢いでミニバンに乗り込むと凄い勢いで帰って行ったのだった。
そのミニバンの後ろには誰が描いたか知らないが、ざんくれならぬ”かねくれ”と赤い文字が書かれていたのを見て思わず吹き出してしまった。
「まったくロクな嫁じゃないねえ。わざわざわしが居ない時を狙って来おる」
「ありがとうお婆ちゃん」
「気にするこたあないよ。遅かれ早かれ来るのは分かってたからな。それにお前もちゃんと言い返せるようになっただろ?自分の気持ちはちゃんと言わないと相手に伝わらない時がある。まああのクソ嫁は論外だがな」
「「ドっ!」」
一同が笑い、わたしも心の奥底に溜まった鬱憤を吐き出すことが出来たようで、久々に胸の奥がスッとする気分を味わった。
この時点では…
「害虫退治も終わった事だし、お前達さっさと今日のお仕事を始めな」
「「へーい」」
皆銘々自分の担当に散らばり始め、わたしも厨房に足を向けようとしたところでお婆ちゃんから声を掛けられた。
「おう夏恋、この間の廃病院の件だが」
「はい?」
「先方の提示金額はかなりよかったんじゃが…ぶっ壊した装備と故障したスーツの修理費でお前の取り分はこんだけだ」
「!?!?」
見せられた電卓には蜘蛛戦よりも少ない一万五千円が数字が表示されていた。
「あの、まじですか?」
「マジマジじゃ、最終防御の第一装甲まで破られたらマイナスだから助かったな」
あれだけの思いをして戦った結果にしばらく茫然と廊下に立ち尽くしていた。
(お母さん、こんな調子では家を取り戻すのは当分先になりそうです)
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