第13話 同化していく
作戦当日、月の下、ビルの明かりが街を包み込む頃、俺たちは静かに動き出した。
チェインシティは現実と同じ時間が流れているようだ。
南区のビルは、表向きは地域交流センター。だがその内部には、フラットアーサーの拠点が隠されている。
「権限で身元を隠したぞ。今ならセンサーにも映らないはずだ」
「じゃあ行きましょう。マルク、先導をお願いします」
マルクは無言で頷き、ビルの裏手にある非常階段へと向かう。
彼の足取りは軽く、スムーズに進んでいく。
階段は各階で配置が異なり、まるで迷路のようだ。
俺たちは事前に作られた仮想マップを頼りに、目的のフロアへと向かう。
「監視カメラね、無効化するわ」
ミカイがスキャンすると、壁の赤いランプが一瞬だけ点滅し、消えた。
「この階です。敵のリーダーがいる可能性が高い」
アビリィの言葉を受け、ミカイのスキャンが示す、部屋の奥にはコードネームタイタンの姿があるらしい。
俺たちは扉の前で一度呼吸を整える。
今のところは作戦通りだ。
「行くぞ」
俺が小さく呟くと、ミカイが手をかざし、扉のロックを解除する。
静かに、しかし確実に扉が開く。
中は薄暗く、空気が重い。
壁には奇妙な模様が描かれ、まるで宗教施設のような異様な雰囲気が漂っている。
「……誰かいるようですね」
マルクが囁く。奥の部屋から、足音が近づいてくる。
「慎重に行きましょう」
アビリィがバリアを展開し、俺たちを包み込む。
その瞬間、部屋の奥から声が響いた。
「ようこそ、待っていたよ」
現れたのはタイタン。名前に反して小柄な男だ。整えられた髭と長髪が奇妙なオーラをただ酔わせる。
「ここからが本番よ」
ミカイが呟き、空間が揺れる。
すると天井から数人が降りてくる。
敵はコウモリのように潜んでいた。
俺たちの来訪を予知していたのか。
入口を塞がれ、逃げ道を失う。敵はタイタン含め六人。六対四。分が悪い。だが、退く選択肢はない。
タイタンは口を開く。
「フクチツバサ、ミカイミツハ、君たちと戦うつもりはないんだ。できれば話し合いで解決したいものだよ」
話し合い、それは俺の目的でもある。だが、奴は教団のリーダー。巧みな話術で何人もの人を操ってきたはずだ。移動履歴の解析には時間がかかる。やはり拘束するしかない。俺は最初に口を開く。
「俺たちの目的はお前の拘束だ。黙って条件を飲むのか?」
「いや、飲まない。君の真の目的はヒカワ エイイチの意志を継ぐことではないのかな?」
タイタンは俺のことを調べている。どこまで知っているんだ?彼は続けて語りだす。
「我々こそが真のサイバートピア社。今アニミスが名乗っているサイバートピア社は偽物だよ。英雄の意志を継ぐのは我々だ」
マルクが口を開く。
「奴の狙いは時間稼ぎでしょう。僕達の来訪を予知していたわけじゃない。気づいたのは数分前。今、仲間の到着を待っている」
「アニミスの指示に従っているのかい。洗脳されているようだ」
「不潔そうで嫌なのよね。作戦通り、速攻で済ますわよ」
ミカイは前髪をかき上げ、空間のスキャンを開始。
アビリィとマルクも戦闘態勢に入り攻撃を仕掛ける。
敵も部下たちも一斉に襲いかかる。
彼らはまるで機械のように無個性だが、洗練された動きで、念動力をまとい格闘を仕掛けてくる。
俺たちはそれぞれの方法で防御しながら、反撃のタイミングを探る。
勝てない相手ではない。
後方でタイタンは戦況を見下ろしながら口を開く。
「やはり、アニミスは暴力での解決を望むというのかな。こちらも暴力で応じるしかない。二人をアニミスから引き剥がせ」
俺は刃を生成し、応戦する。思わず口を出てしまう。
「洗脳?暴力?……それはお前らのことだろ」
その言葉に、敵は一斉に攻撃を止め、タイタンの横に並ぶ。まるで演出されたパフォーマンスのようだ。
タイタンは静かに語り始める。
「洗脳や暴力。我々の行為が本当にそうなのか考えてみてほしい」
タイタンの声は静かだが、確かな重みがある。
「人間は社会的動物だ。繋がりを求め、周囲と同化していく。それに弾かれた人間は別の繋がりを求める。我々はその受け皿となっているんだよ」
ミカイは地面を盛り上げ、タイタンの足元を拘束しようと試みるが、部下たちが即座に破壊する。
「我々はこのアニミス社会において確かに間違っている。そんなこと信者たちの誰もが気づいているんだ。間違いを自覚しているからこそ間違いを恐れ、間違いに溺れている。可哀想に、我々が間違いすら全てを受け入れよう。聞こえの良いことも人々には必要なんだよ。それを洗脳と呼ぶのか?」
アビリィの針状の攻撃も、念動の格闘によって防がれる。
「だが、アニミスの目的は人々の幸福ではない。支配だ。正論で人々を打ち負かす。人々に必要なのは正しさではない、居場所なんだ。それを奪うことにアニミスは躊躇がない。どちらが暴力的か考えてみるといい」
その言葉にアビリィは冷ややかな目を向け答える。
「フラットアーサーはどうしてそんなに被害者面なんですか?私達は何不自由ない生活を供給しているだけなのに。不審人物にはそれ相応の対応をするのは当たり前でしょう」
タイタンは笑みを浮かべる。
「本性を現したな、機械人形。フラットアーサーという言葉も、随分と都合よく使われているようだな」
アビリィは歯を食いしばり、睨みつける。
「我々はサイバートピア社だ。アニミス社会に反抗的な者全てをフラットアーサーと呼んでいるようだが、我々を凶悪な犯罪者たちと同等に扱っていることこそ、洗脳ではないのかな?」
どいつもこいつも自分の都合の良い情報しか口にしない。嫌になるな。
「俺の目的は明確だ。エイイチの意志を正しく受け継ぐ者の側につく」
俺は構えるのをやめ、無防備な姿勢で前に出る。
「あんた何やってんのよ!」
ミカイの声が鋭く響くがそれを無視して進む。
敵の間合いのギリギリに立ち、タイタンを見据える。
「……あんたの言葉を信じてみるよ」
その瞬間だった。敵の一人が不意打ちを仕掛けてくる。拳が俺の頭部めがけて飛んでくる。
「ツバサさん!」
アビリィの叫びと共に鈍い衝撃音が響く。
倒れたのは敵の方だった。俺のカウンターが決まった。
鉄の槍が敵の胴体を貫き、音を立てて崩れ落ちる。俺はすぐさま仲間の元に戻る。
特訓の成果だ。不意打ち返しは成功した。
敵の動きに迷いが生じる。
秩序立った集団がわずかに揺らいだ。
俺は仲間に目を配り、タイタンに言い放った。
「人間に必要なのは居場所なんだろ。あんたの言葉だ」
「よくも我々の一員をやってくれたな」
「それにアニミスとか人々って言葉を都合良く使っているのはあんたも同じだ」
タイタンは怒り、念動力を纏い始める。
周囲の椅子や壁の破片が引き寄せられ、巨大なゴーレムのような形を成す。
マルクは光の爪で攻撃を仕掛けるが傷は一瞬で再生される。内部の本体にダメージを与えなければ意味がない。巨像の中から声が響く。
「人間は獣のような爪や牙を持たない。非力な動物だ。だがそれが良い。非力だからこそ団結し組織を生む。人間の生存戦略は同化だ」
壁や床も砕かれ、破片がゴーレム吸収されていく。それぞれの部下たち破片を引き寄せ、腕となり足となり。階層を超え、構造が変化していく。
「ツバサさん、先ほどは見事でした。次は僕の番です」
マルクは俺の肩に手を置き、そう言うと、前に出て、力を解放させた。全身は白い光で包まれ、狼のシルエットが浮かび上がる。
「あの時の話を覚えていますか。頼みますよ」
毛は逆立ち、理性を失っていく。
マルクは獣のように跳躍し、ゴーレムの腕や太ももを切り裂いていく。再生される前に内部の部下を切り刻む。
圧倒的なスピードとパワーだ。
あの時の会話が今でも鮮明に蘇る。
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