第6話 エンカウントスシバトラー③

前回のあらすじ:

鳥路さんと不良女子生徒が家庭科室でスシバトルをすることに。


◆◆◆


 つつがなく家庭科室に移動した俺達……なぜか不良女子の一人に襟首を掴まれ俺まで家庭科室に連行されてしまった。


「勝負はワンショット。食材はスーパーで買ってきたマグロ。シャリは共通のものを使用。良いな?」


「わかった」


 勝手に話が進んでいる……不良女子の一人と鳥路さんが家庭科室の大きめのテーブルを挟んで向かい合う。周囲はギャラリーで溢れ、なぜか俺は誕生日席的な位置に座らさせられている。

 ワンショットの意味はわからないが、とりあえずスーパーのマグロを使って同じ条件で寿司を握る感じらしい。これは技術力が問われる勝負になるのだろうか。


「この根木ねぎ登緒子とおこ様が桶ヶ丘おけがおか高校で最強のスシバトラーってことを思い知らせてやるよ!」

 

 まず、スシバトラーの母数が少ないのでは?


「私はスシバトラーじゃない。はぁ……寿司は争いの道具ではないというのにこの地域の人達は……」


 鳥路さんはスシバトラーじゃないそうだ。昨日も同じようなこと言っていたし、鳥路さんも俺と同じで被害者なのかもしれない。


「……あなたがそれで満足するなら、握るわ」


「そうこなくっちゃなぁ」


 でもやっぱり寿司は握るらしい。広義でスシバトラーなんじゃないかな、鳥路さん。


「栄寿司の大将の娘の根木さんと謎の転校生鳥路さんのワンショットバトルですか……これは見ものですね」

 

 解説役っぽいメガネの女子生徒が僕の隣で説明を始める。助かった、これでスシバトルが何かようやくわかるぞ。この際きいてしまおう


「あの、スシバトルって何ですか?」


「言葉で語るのは難しいですね。しかし、この勝負を見ればスシバトルが何か……自ずと答えが出ると思いますよ」


 くそ、わからないまま話が進むやつだこれ。


「では、マグロワンショット勝負! 始め!」


 不良女子生徒のもう一人がスシバトルの開始を宣言する。

 そして、根木さんと鳥路さんの目の前にバーカウンターの流れるグラスのようにマグロのパックが渡された。


「ああ!?」


 二人に渡されたマグロのパックが違う! 鳥路さんのは安そうな赤身、一方で根木さんには中トロ級の高そうなマグロだ!


「ちょっと待って!? 全然平等じゃないぞ!?」


「は! 言ったよなぁ! スーパーのマグロを使った勝負だって、部位が同じだとは一言も言ってねぇぜ!」


「そ、そんな!」


 中トロを慣れた手つきで切り分けていく根木さん。

 鳥路さんは文句一つ言わずに安そうな赤身を手に取り匂いや色を確認している。

 パサパサしていて鮮度があまり良さそうには見えない。


「鳥路さん! こんなのフェアじゃない! やり直した方が良いよ!」


「……」


「始まってしまったスシバトルは止めることはできません! もはやスシを持って相手を屈服させるしかありません!」


 メガネの子が解説してくれたが納得はいかない。

 鳥路さんが何も言わない以上、俺は見守ること以外はできないのだろう。


「この勝負、もらったぜ! 赤身が中トロに勝てるもんか! しかもスーパーのマグロだ! 値段=味が顕著なんだからよぉ!」

 

 勝ちを確信した雰囲気で寿司を握り始める根木さん。こんな卑怯な事をしなくても十分上手に寿司を握れているように見える。ただ、鳥路さんの握りに比べると素人目で見ても差があるように俺は感じた。


「と、鳥路さんは!?」


 鳥路さんは……ボウルに水を張り、その中に氷を入れ始めていた。

 ま、まだ寿司を握ってすらいない!? というか何に使うの氷水!?


 まさか、その氷水が赤身で中トロに勝つ秘策だというのか鳥路さん!?

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