第3話 春、始まりの教室
入学式の朝。
桜の花びらが、風に乗ってひらひらと舞っていた。
制服の襟を整えながら、私は深呼吸をした。
「ねぇ!芽衣!同じクラスだったよ!」
校門の前で奈々がプリントを振って走ってくる。
「ほんと?よかった〜!」
思わず笑顔になる。
少し不安だった胸の奥が、ふっと軽くなった。
教室に入ると、新しい机のにおいがした。
窓際の席では、どこかで見た横顔が見える。
——体育館で見た、あの人。
(また同じクラス……?)
胸が、少しだけ鳴った。
「芽衣、こっちこっち!」
奈々が手を振って、前のほうの席に誘う。
席に座っていると、奈々が誰かに声をかけた。
「あっ、将真じゃん!ひさしぶり〜!塾いっしょだったんだ〜!」
その声につられて顔を上げたとき、
将真がこちらを見て、少し驚いたように笑った。
「あれ、君……この前の合格発表の時の子だよね?」
「え、あ……うん。覚えてたんだ。」
「そりゃ覚えてるよ。印象に残る子だったから。」
不意にそんなことを言われて、顔が熱くなる。
奈々は「なにそれ〜!」とニヤニヤしていて、
私は笑ってごまかすしかなかった。
そのとき——。
また、視線を感じた。
少し離れた窓際の席。
そこには、谷口くんが座っていた。
無表情なのに、どこか目が優しくて。
一瞬、目が合うと、すぐに視線をそらされた。
でも、胸の奥がまた“ドクン”と鳴る。
——まだ始まったばかり。
でも、誰かを想う気持ちはもう、静かに動き出していた。
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