美醜逆転の世界でレンタル彼氏をしてみた

普通

ある男と女が街を歩いている。その二人の距離感は親密な関係を周りに伝えるようなもので、周りの人々は奇妙なものを見る目や嫉妬の眼差しで二人のことを見る。

男の方はどこにでもいるような普通の少年。顔立ちは悪くないが、イケメンというわけでもない。中肉中世に黒髪の優しい笑顔を女性に向けている。

女の方は青いロングの髪で顔立ちも整っている。一言で言い表すんであれば美しい人。只でさえ、美人なのに加えて今は男が近くにいるからなのか満面の笑みを浮かべている。それも相まって、美しさに加えて可愛らしさが際立っている。

女は男に対して一つのお願いをする。

「て、手を繋いでくれますか！？」

「いいよ」

男はそれに対して快く受け入れてすぐに手を繋ぐ。

ここまでの説明であれば普通のカップルがデートをしているだけというもの。それにしか映らないが、彼と彼女は普通のカップルとは違う少し特殊な関係性なのだ。

そして周りの人々は男ではなく、女に対して蔑むような目、嫉妬の眼差しで見ているのはこの世界ならではの特殊な事情があるのだ。

――――――

美醜逆転という世界は漫画やライトノベルで知っていた。俺たちが生きている世界と美的価値観が全くの真逆の世界。簡単に言えばイケメンがブサイクにブサイクがイケメンと勘違いされるような世界。

いや、勘違いという言葉が正しいのかはちょっと分からない。この世界ではそれが当たり前で逆に俺が元いた世界の常識が非常識に映るんだろうから。

なんで俺がそんなことを語っているのかと言えばそれは実に簡単で俺がその美醜逆転に転生してしまったからなのだ。前世の死に方などはあんまりよく覚えていないが、少なくても死んだことだけは覚えている。

そして死んだ後に俺が目を覚ますとそこは…別の世界だった。建物や魔法を使っている人たちが平然といる段階で、俺が前にいた世界と全然違うところなのだろうとすぐに理解した。

最初は死んだのに変な夢を見せられているのかとも思ったが、いくら頬をつねってもこの夢が覚めることはない。それに死んだのに夢を見るなんてあり得ないだろう。

そしてそんな世界で俺は名案を思い付いた。

それはこの世界であれば俺でも容姿を使ってお金儲けができるんじゃないかと。そこから俺はこの世界の男女関係や常識などを収集しながら生活を続けた。そこで分かったのはこの世界は少し男女比の偏りが存在すること、たぶん三対一ぐらいで男が少ない。あと奴隷制度もまだ続いていて、未だに売買が続いていること。

男は予想以上に奥手なようで一人の女を愛したらそのまま添い遂げるのがこの世界の常識らしい。

調べてみてやっぱりこの世界は俺が金儲けをするのに向いている。男女比の偏りがあり、男が少ないのは有難い。男であるということに少し希少価値というものが生まれる。奴隷制度に関してはどうでもいいが、奴隷が売買されるような世界であれば俺が自分を売るような商売をしたとしてもそこまで問題はないだろう。

最後のこの世界の男は一途だというのも俺の商売を考えれば追い風だ。そうなれば儲けも出しやすい。

ここまで話して分かる人もいるかもしれないが、俺がやろうとしている商売は『レンタル彼氏』だ。レンタル彼氏は金銭と引き換えしにデートをしたり、相手の望むことをしたりすること。

この男女比の偏りやこの世界の常識を考えれば『レンタル彼氏』はかなりの儲けを出せる可能性がある。もちろん、この世界に俺と同じことをしている奴はいないようなのでしっかりと土台作りをして、知名度を高めていかなければいけないが、それぐらいの苦労は全然いい。だって成功すればそれなりのお金が俺の懐に入ることになるんだ。

「これから忙しくなりそうだ！！」