第二十一章
民事事件の裁判は原則として非公開だ。当事者同士が出ることもなく弁護士同士のやり取りだ。そして逆転裁判のように「異議あり!」と熱く争うこともなく、淡々としたやり取りの中数分で行われる。数日待ち判事から次の審議の日程が伝えられ、その後、また法廷でのやり取りの末、ようやくの判決だが「示談金2000万……」安い金額ではないが当初の要求額の2割、そう考えると安すぎる。
「ふざけるな! こんな金額では到底納得できるものじゃない!」
竜胆は担当弁護士に怒鳴った。
「すまん、君に怒鳴っても仕方ないな」
「いえ、私もこんな金額では納得できません。被害者側が譲歩する必要はあり得ません。当初の要求通り1億でなければ社長も悠さんも一切の譲歩は必要ありません。もちろん叶さんもね」
弁護士は眼鏡をくいと上げた。
彼は西村という。RND顧問弁護士。今回の一件での雇われではなく常時雇用されている弁護士だ。普段は自分の弁護士事務所に居るが会社が法廷闘争に出る時に、または所属タレントの名誉棄損が行われたときに、裁判所に開示請求し、今回のようなやり取りをこんどはブロバイダー相手にする。ブロバイダー側もユーザー権利を守るために反論するが、多くの裁判は被害者側の申告が通る。そして今度は相手側へ民事裁判に持ち込まれる。名誉棄損の多くは民事だ。
「悠さん、叶さん、初めまして顧問弁護士の西村です」
彼は名刺を渡した。
「私は大学で竜胆とは同級生でして、彼に何か言われた際は私に———」
「西村! 余計なことは言うな!」
「これはこれは、私は弁護士として労使間の問題はという提案で、一応会社の権利ですよ」
「労使間の通報窓口はお前じゃないだろ。自己紹介が終わったのならさっさと帰れ」
「はいはい、では後ほど」
そう言って西村は社長室を後にする。
「まったく、あ、それで裁判の結果だが、全くの不本意だと思っているがどうだ」
「僕らもそうです。受けた被害に対して賠償金が低すぎます」
「わかった、西村にも争うよう伝えてある。よし、もう昼だな、飯にしよう」
「「え」」
竜胆は腕時計を見て悠たちを連れていく。
外にはリムジンが停まってあり、それに乗った。ただし三台。
「マスコミ対策だ。某イギリス王族も使っていた手だ」
「それ死ぬんじゃ———」
「飯食うって車の中かよ」
叶が文句を言った。
「仕方ないだろ。どこに目があるか分からないんだから」
「やっていることがスパイだな」
「まぁ、こうしてうなぎを頼んでおいた。食べようか。と、その前に」
竜胆はふたりに頭を下げた。
「俺の不注意で君たちを無用な争いに巻き込んで、すまない」
「あ、いえ、こちらこそ会社に迷惑をかけてすいません」
悠と叶も慌てて頭を下げる。
「社長、なんで1タレントと一般人の俺にここまでするんです?」
叶の疑問は最もだ。本来ならタレントを守る裁判のみのはずで叶まで会社に呼んで裁判の内容を報告する必要はない。
その言葉に竜胆はタバコに火をつけた。
「少し昔の話しをしよう」
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