第十五章
「ファンの前で女の顔はやめた方がいいよ」
更衣室でアリスに言われた。
「何それ嫉妬?」
「そんなんじゃない。ただ売り出し始めだし恋人がいるって知られると女のファンも男のファンも叩く人いるから」
「そんな顔してない、アリスは僕と一回しか寝れなかったからいじわるしているんだ!」
「………」
アリスが悲しそうな顔をする。
「ごめん、こんなこと言うつまりじゃなかった」
「いいよ、僕もあの日の事は夢だって思っているから。でも、悠の事好きだから忠告するけど、悠はアイドルとして成功したいなら、恋人の存在は全力で隠さなきゃ。じゃないと恋人も不幸にさせちゃうよ」
「うん、わかってる」
「それならいいんだ」
そう言ってアリスは寂しそうにする。
「アリスは恋したことあるの?」
「悠にしかないよ。だからあのセックスが最初で最後」
「そっか………」
アリスは服を脱ぐ。男の子なのにブラをしてどんどん可愛くなっていく。
「アリスは本名何?」
「本名もアリス。有住川真矢」
「マヤ……本名も女の子みたいだね」
「女の子になるから良いんだ」
「え?」
「僕ねお金貯めて性別適応手術するんだ。精神科医にもちゃんと行った」
性別適応前にカウンセリングで精神科医から診断を受けないと手術に入れない。その性別が今後一生背負う性別になるし、そのあともホルモン治療を一生しないと死ぬことになる。性を本気で変えるってそう言う事。ほとんどのニューハーフはそのリスクを考えて身体は変えても竿と玉は残したりするのはそう言ったリスクがあるから。術後の痛みもあるし、性器生成の感染症リスクもあるから。もちろん、医療機関はそう言ったリスクを軽減していくが、100%はこの世に存在しない。だからアリスみたいに未成年時に性別を変えようとする子は、それこそ自殺する勢いで変える。生まれた性別からの自殺。男の子としての自殺。
「悠は今のままでいいよ。そう言うの気にしてないでしょ」
「なんかとげがあるね」
「うん、だって生まれ持った可愛さで男の子で、ストレートなのに彼氏居るんだし贅沢だよ。こっちに来てほしくない。だから幸せになってほしい」
アリスは帰ろうとする、けど、ドアノブに手を掛けたまま回そうとしない。
「ねぇ、最後にわがまま聞いてもらってもいい?」
「なに?」
「キスして」
アリスは悠の方を向いて言った。目を閉じて泣きそうな顔をしている。
「お願い、それで悠の事、ちゃんと友達に戻したい」
「わかった」
2回目の浮気になっちゃうなと思った。悠もアリスが好きだ。
悠はアリスにキスをした。2回目のキスは涙で濡れていた。
「ありがとう、じゃあ、またね」
「うん」
そう言ってアリスは更衣室を出る。
ハートのアリス。不思議の国で女の子と恋をするってイメージの楽曲、女の子を虜にして不思議の国に閉じ込める曲だけど、アリスはその不思議の国から出た。痛みを伴いながら国を出たアリスはゆっくりとしっかり自分の道を歩んでいく。
「悠」
迎えに来てくれた叶が呼ぶ。タクシーを待たせていたらしい。
「お金大丈夫なの?」
「俺だってバイトしているんだ大丈夫。それに渋谷でバイトすることにしたんだ」
「え?」
「ダイニングバーだけど」
「未成年なのにいいの?」
「ホストじゃないんだし店員が酒を飲むことはないだろ? 居酒屋のバイトが客と酒を飲むか?」
「それもそうか」
「ほら乗って」
「ってか、なんでスーツ? 誰の?」
「事務所の社長さんから借りた。彼氏なら迎えに行ってやれだって」
「ええ、ちゃんとお礼言うんだよ」
「子ども扱いするな!」
そう笑いながら言い、悠をタクシーに乗せる。
叶が彼氏なら、悠は彼女になるのかな。そう言う感じもしないけど、彼氏ポジションでもない気がする。
「どちらまで?」
「〇〇〇まで」
「料金埼玉までですと少し高くなりますが?」
「構いません」
そう言って叶はお金を見せる。
「かしこまりました」
そう言ってタクシーはゆっくり発車した。
車内で密に叶の手に自分の手を乗せる。そしたら叶は手を握ってくれた。幸せな気持ちになる。
(叶の家に着いたらその……セックスしたい)
(いいよ)
運転手に聞かれないようにそう言った。
この時はアイドルじゃなく叶の恋人でいたい。
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