嫌いになれない星見議会

「で、用件は何なんなんだ?」


 『よく跳ねる謎の書かれたスライム』と遊ぶ天使上司。ゲームに夢中の悪魔。児童書を楽しむ勇者。主催なのに遅刻中の魔王。そして俺、多忙の死神のしにー。

 この面子が集まっているという事は相当な問題が起きた、という事なのだろう。



「用件? んー分からない、てか、しにー遅刻じゃんどうかしたの? どのみち主催が大遅刻す

るだろうからいいけどさー、しにーも読まない?面白いよー」



 どこからか取り出し、差し出してきた児童書のタイトルは『アホウドリの掘削日記』タイトルから予想できない中身が気になるが、できればこの時間は仮眠に当てたい、断ろう。



「遠慮しておく、鬼上司エシェルが急な仕事を振ってきて、時間管理がそれが狂ってしまったのだ、遅刻してすまない」


「なるほど。大変だねー」


「上司にそんな口を利く方だったとは、しにーさん私は貴方に失望しました。今度のノルマを増やしておきますね」


「あぁ…」



 言葉にならない怨嗟をのどが小さく叫ぶも当然、現実は変わらない、魔王が来るまで軽く寝させてもらうとしよう…。

 アホウドリの掘削日記を勧める声と、スライムとじゃれる声を無視すると、うとうととしてきて、羊のお迎えが来る。

 久しぶりの睡眠導入の感覚、しかし次の瞬間それを邪魔するかのように悪魔の罵声が響く。



 ”「あんの、『クラッカー企業』…あそこで妨害が入らなきゃ全員ニートのベストエンドだったのに…前作の897ハクナといいタイミングが鬼畜過ぎるんだよ、これだから『壁画ニート』は……こんなクソゲー辞めてやる!」”



 そういってゲームソフトの箱を投げつけてる。ゲームソフトのタイトルは壁画ニートファーミンヌ。ファーミンヌってなんだ?煩いがまあいいだろう無害だ。

 ほっといて眠りにつくとしよう、そう思ったのもつかの間、悪魔は自身がこの世で一番恐ろしいと言っていた魔法の呪文を唱えた。


「『「PRTRPGRPGGAME&PROTOTYPEを君たちには始めてもらう」』



 悪魔の十八番予備詠唱、これはまずいな。



「『ツチノコツチノコニョッキッキ!』」


『ツチノコツチノコニョッキッキを開始します』


 よく聞きなれた自動型魔法の音声。



「!×3」



『まずはルール説明をします。敗者は爆発を受けますのでよく聞いてくださいね』



 ……ツチノコニョッキッキは特殊な呪文である。ルールはたけのこたけのこニョッキッキと変わらない、しかしゲームの敗者は魔法防御の関係ない爆発をうけ死ぬ、と”悪魔”が言っていた。我が一番弱い、何としても早く安全圏へ行かなければ。

 自動音声が、ゲームの開始を告げる。



『ツチノコ、ツチノコ、ニョッキッキ!!』


「「1ニョッキ」」


 高さの違う声が見事にハモる。失敗した。勇者とハモった。



『ゲームを終了。処理を開始します。勝者への防御式を展開…爆発は3分後です術者は衝撃に備えて下さい。』



 あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ。すん。爆発である。このままだとツチノコツチノコニョッキッキに失敗した俺と勇者3分後無残にも爆発する。

 冷静になろう。


Q.悪魔は本当に俺たちを爆発できるのか?


A.この条件のルール説明型魔法、悪魔なら可能。


 ゲームの敗者は魔法防御の関係ない爆発をうけ死ぬだったか。

 つまり、この魔法は成立しているため死ぬ。どの道死ぬ。次元を超えても多分死ぬ。こんなことなら幻の『メタルタルタルソース』がけタケノコを食べておけばよかった。

 状況を理解したエシェルがスライムとじゃれるのをやめる。



「スラさん、この混沌を解決する方法を教えていただけませんか?」



 鬼上司がスライムに問うと、言葉に応えたスライムの体に謎が描かれていく。

 意味不明な言語の言葉と謎の文様だ。



「ええと、古代エルリア語と一緒に術式の設計図の謎解きが書いてあります。」


「なんて書いてあるんだ、エシェル鬼上司?」


「『我々の前世は鵜飼いの鵜だった。この意味が分かるな?』」


「うん、分からないぜ、因みに悪いけどこの術式作ったのは俺だけど解除方法は覚えてないぜ」



 悪魔は、悪魔だからなのか抑えきれない笑みを浮かべた。



「悪魔さん次生まれ変わっても死神ならあなたを殺しますからね」


「くくく」


 悪魔は不敵な笑みを浮かべる。



「まだ早いですよ、しにー。貴方にはまだ働いてもらいます。」



 鬼上司が言った。気が付けば床には魔法陣が描かれている。


 https://kakuyomu.jp/users/banmeshi/news/16818622172987210698



「魔法陣の装飾と答えは呪文でした。今呪文を唱えますね。」



 爪切りを手に持った鬼上司が呪文を唱える。



「『これは、爪切りはアイデンティティですから新世界を始めましょう!』」



 その言葉に応え魔法陣が光り輝く、もくもくと煙があふれその名から見覚えのある声が聞こえる。



「なんじゃ?召喚者、妾は魔王、『鏑矢音楽隊』との『食物連鎖列車』での旅行を楽しんでいたところを邪魔したのじゃ、相当な用件でなければ粛清するぞ」



 絶賛遅刻中、主催の魔王、こいつに何ができるというのだ。


「遅刻だよー魔王ちゃん」


「この呪文の解呪出来ないか?」


「ふむ成程、、状況は理解した、遅刻してすまない、その魔法、ほっておいても問題ないぞ」



 ”ツチノコツチノコニョッキッキ!と凄い轟音が鳴り響き、勇者と俺の体が爆発に巻き込まれる……かと思いきや機械音声はハッピバースデーを歌い出した。



「happy birthday to you〜♪

 happy birthday to you〜♪

 happy birthday dear壁画ニート

 happy birthday to you〜♪」



 確かに魔王の言う通りほっといて良さそうだ。なんだかんだキレながらも大好きじゃないか壁画ニート。考えてみれば我々に効くほどの効力を持っているのだ、威力などそうそう出せるものではないはず。

 そう思っていた俺がバカだった。



「おめでとう!」



 機械音声は最後にそう呟いて花火のように爆発した。

 ハッピバースデーだからかクラッカーによく似たそれは、ご丁寧に壁画ニートカットされていた。

 クラッカーは紙だとは思えない威力と量で、児童書アホウドリの掘削日記と俺、勇者をクラッカーサボテンにした。まぁ、それでも最初に想定してたよりも思っていたよりもずっと軽い被害だ。ただの腹いせドッキリ、大した魔法だがくだらない魔法だ。



「悪魔、この魔法が一番恐ろしいなんてどうかしてるんじゃないか?」



「この魔法は俺の苦手な聖魔法、壁画ニート、クラッカー(企業じゃない)が詰め込まれた魔法

だぞ?これ以上に恐ろしい魔法があるものか、それにこの魔法はこれたけじゃ……。」


「なぁ勇者も言ってやれよ」


「アホウドリ……絵本が、絵本が破れてるー」



 勇者の腕を見ると、ツチノコツチノコニョッキッキの被害を受けた無残な姿のアホウドリの探索日記があった。



「……ねー、どうしてくれるのー?」



 勇者はそれだけしか言わなかったが、目から本気度が伝わってくる、このままでは第53回星見うさぎ戦争が起きてしまう。



「なぁエシェル何とかできないのか?」


 悪魔、魔王、死神は勇者との属性的な相性がすこぶる悪い。 悪魔は尚更だ。遅刻魔の魔王にも、俺にも勇者はどうにも出来ない。だから、嫌ながらもコイツを頼るのだ。



「……」


エシェル天使(鬼上司)様!」


「何言ってるんですか?貴方はリモコンザウルスですよ」


「え?」


「この程度の事、貴方一人で何とかなさい」


「はぁ????無理だから言ってんだろうがこのクソ上司エシェル!」


 ペナルティ増加を叫ぶエシェルに張り手をカマしたい気持ちを抑え、勇者の制止に向かう。

 勇者がもう切り込み始めている、まずい、だからエシェルに頼んだのに……エシェルクソ上司め。

 悪魔と勇者、今は拮抗してるが、そのうち死ぬ。



「勇者やめろ、悪魔だって悪気があったわけじゃない」



「そうだぜ、俺だって、悪気はなかったんだぜ」



「それは特注品でねーオリハルコン3つもしたんだよー?」


「……それは詐欺、絵本の値段はせいぜい胴5つだ」



「んー?騙されたねー、この怒りを乗せて剣を振るうしかない、光よ、悪を払い給え、セイントスラッシュ」



「「八つ当たりかよ!」」



 悪魔と俺が同時に突っ込む。ごめんよ悪魔、死後の待遇はとびっきり良くするから許してくれ……。

 俺は目を閉じ、全てが終わるのを待った。

 しばらく経つと、カランと音がして、指の先に違和感を感じた。



「「?」」



 目を開けて手を見てみると、勇者と俺の指先が親子丼に変わっていた。



「悪魔〜?」



「体が親子丼になる病だ、治し方は分かんねぇ、忘れちまった。」


「すまねぇなぁ!」



 悪魔はケタケタと笑いながら謝った。コイツ楽しんでいやがる。



「……」


「いいよーたぶん治るから、頭も冷えたし、アホウドリちゃんについては、2巻と一緒に返してねー」

 確かに勇者の加護があれば、そのうち治るだろう、それにしても寛容だな。      


 悪魔は「はは、苦戦しそうだな」と、戸惑っているが、勇者と戦うよりマシだろう、問題は俺だ、

 エシェル……は役に立たないか。勇者も俺も治療は無理、となるとあとは魔王か、俺は魔王の方を見た。

 すると、食べかけのカップ麺の隣に電卓を添えて、彼女はお経を唱え始めた。

 そしてお経唱え終わった彼女はこう呟いた。



「口に入りきらない物は食べ物、つまりこれは食べ物か」



 そう言って彼女はカップ麺の容器をも食べようとする。……まぁいい、問題は親子丼病を治せるかどうかだ。



「魔王!この病……」



「ふむ、それか?妾には治せんぞ?そこに本職がいるじゃろう?」



「……えぇ……」



 あぁまじか、消去法で、発狂の本職エシェルに頼むしかないのか

 気がつけば親子丼化が上半身まで進行している。

 これあと10分と持たないんじゃないか?



「はて、あと10秒で意識が落ちるがしにー、そなたのことは妾が死なせないから安心して死を彷徨うが良い。」


「あぁお前だけが頼りだ。魔王」



 朦朧とする頭が想像したのは、メタルタルタルソースかけタケノコ、あぁいや違う、このタケノコ宇宙を征服しようとしている……。



https://kakuyomu.jp/users/banmeshi/news/16818622172987157823


 次に目を覚ました時、状況は混沌を極めていた。

 何があったのか、魔王と勇者と、悪魔が争い、案の定 エシェルは発狂している。


「栗きんとんは栗きんとんだから、栗きんとんなんだよ!」とエシェルは喚いていた。


 俺に治癒を行使したからこうなっている、エシェルは治療が得意じゃないから、いつも治療後に発狂する。難しい問題治療ならなおさら、酔狂する。悪魔のウイルスとしてならマシな方か。


「タラコ♪鮭♪昆布♪おかか♪イクラ♪しにーは美味しいおにぎりの具よ〜♪」


 チッ、いつもなら、酒を飲ませて愚痴を聞いて、何時間もかけて発狂を解く、だが、今はそんなことしている場合ではない。正直俺はエシェルにかなり苛ついている、荒療治だ、死んでもらおう。


「エシェルちゃんおーいで、鎌よ導け、ライフィーネ」


 俺は振るい慣れた鎌を振るう、これでエシェルの命は絶たれた、まぁ5秒で復活するが…。

 さて、揉めてる三人だが理性はあるようだしなんとかなるだろ。


「おいお前ら、この鎌の錆になりたくなければ……分かるよな?」


「「「はい!」」」



 3人は少し震えながらも頷いてくれた。どうやら分かってくれたようだ。



「じゃあ魔王今回の議題を頼む、」


「今回の議題は、メカニックエビの里とオリエンタルカニの山がどっちがおいしいかじゃな」


「「そうじゃねぇ(ない)だろ(ー)」」


ルルブルールブックとエイリアンは破るために存在している」


「妾がこの世のルールじゃ、何か問題あるかえ?」


「「しにーさん、魔王さんをサビにしてみませんか」」


「ふむ、分かったのじゃ、ちゃんと真面目にやる」


「それでは第32回星見議会、~星見うさぎの伝承について〜を開始する。」


 そうして、議会が始まった。ワチャワチャガヤガヤと楽しそうに皆が話している。

 星見うさぎがいると決めるのは悪魔の証明、故に見つかるまで終わらない。そして星見うさぎは絶滅してる可能性が濃厚だ。

 きっとこの議会はきっと魔王が勇者が死ぬまで続くだろう、そして俺はずっと迷惑をかけられる。

 それでも、俺はこの議会が長く続いてほしいと願う。だってこの議会は貴重な仮眠源なのだから。


 *****

「しにー、寝ちゃったねー」


「ああ、寝ちまった見ていて気持ちがいいぜ」


「しにーさんは頑張り屋なのでそれで良いんですよ。それではお茶でもしましょうか」


「む、元はと言えばお主のせいとも言えるであろうに」


「ただのキュートアグレッションですよ。」


「それじゃー始めよっかー」


 今日も4人は中身のない議論をする、他でもない大切なしにーに寝てもらうために……というのは建前、お茶会をしたいだけである。

 さてその後、天使のスライムが悪魔の高級クッキーをつまみ食いした。この後起こることは皆さんご存知の通りだろう。          

(完)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る