最終話「20XX年某日」
――本日は取材を受けていただきありがとうございました。
「いえいえこちらこそありがとうございました」
――お陰でいい話が書けそうです。
「私、上手く話せましたかね」
――ええ、それはもう!
「なら良かったです」
――あのー、今更なんですけど、どうしてこの事を話そうと思ったんです? 私なんてただ同人誌で小説を書いている身で、社会的なインパクトもほぼゼロに近いんです。即売会で売れるのもせいぜい五部くらいですし。もし世間一般に広めようっていうなら、著名な小説家とか、週刊誌とかに任せればいいのかなって思うんですが。
「だからこそですよ」
――はい?
「有名人が私の話を書いてしまったら、それこそまたあの事件にフォーカスが当たって、私もしかしたら逮捕されちゃうかもしれないじゃないですか。もちろん小説っていうフィクションかもしれませんけど、念のために警戒しとこうかなって思いまして」
――はあ、なるほど。それでもどこかの誰かには事件の真相について知ってもらいたい。そういう事ですか?
「ええ。まあそんなところです。すみません、有名じゃないなんてちょっと失礼ですよね」
――いやいやとんでもない。ちょうど次回作のネタ切れだったので、今回のお話はとても参考になります。最初メッセージでお話し貰ったときはただの悪戯かと思いましたけどね。
「実は何人かに同じようなメッセージを送ったんですけどね」
――それで唯一まともに受け取ったのが私だけだったと。
「はい。本当にありがとうございます」
――ちなみに、もうあのような事件は今後起きないと考えていいんでしょうか?
「ええ、おそらく」
――もし同じようなお話があるなら、また聞かせてくださいよ。警察とかには絶対言いませんので。
「……じゃあ、早速書けそうなネタがあるんですけど、いかがですか?」
――え、いいんですか?
「もちろん。私の家に来てもらうことになりますけど」
――あのー、私、殺されたりしないですよね?
「まさか。私のペットを見てもらうだけですから」
――へー、何か珍しい生き物でも飼っているんですか?
「珍しくもなんともないです。私たちと一緒、人間ですよ」
――人間、ですか。
「ちょっと趣向を変えたんですよ。殺したらつまらないと思いましてね。ちなみに、貴方もよく知っている人ですよ?」
――私がよく知っている人?
「はい。よくよーく知っている人です」
――まさか、私の家族とかじゃあ。
「さすがにそんなことしませんよ。もちろん友人や恋人とかにも手を付けてませんから安心してください」
――一体誰が……。
「作家さんなのに鈍いですねー。あの合宿で最後まで生き残った子ですよ」
――後輩って二人いましたけど。
「私が好きだった子の方です。足に釘を刺した方の子」
――あの子か……分かりました。行きましょうか。
「ふふ、楽しみですね」
――ちなみに、その子に取材をさせていただいても?
「もちろんいいですよ」
――助かります。ちょうど主人公はどうしようかなと考えていたものですから。
「ぜひあの子を主人公にしてくださいよ」
――それでもいいと思っていたのですが、どうしてですか?
「私、大好きなあの子のこともっと知りたいんですよ。私のことどんな先輩だと思っていたのか、私に騙されたときはどう思ったのか、釘を刺したときどんだけ痛かったのか、もっと、もっと知りたいんです」
――は、はあ。なるほど。
「合宿のときの本音とか気持ちとか、私全然聞けてないんです。どうか取材をして、本にしてもらえませんか?」
――もしかして、世に事件を広めたいのではなく、それが本音ですか?
「……ちょっぴり図星です。本当はあの子のこともっと知りたいんです」
――どうしてそこまで、監禁してまでもその子のことを知りたいんですか。
「好きだからですよ。あの子を虐めることが、あの子のことを知ることが私にとって生きがいなんです」
――生きがいですか。
「はい。それが何か?」
――い、いいえ。とりあえず行きましょうか。
「あ、そうだ。替えの服とか持ってます?」
――いや持っていませんが……どうして必要なんですか?
「作家さんにも体験してもらおうと思いまして。だって、体験することが一番の資料になるんですよね?」
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