第十八話 紅蓮に轟く大きな桜

 ――赤い光に包まれ、気づけば俺は空にいた。


 轟く風が頬を叩き、息を吸うだけで胸が熱くなる。

 目を見開いたまま、足元へ視線を落とす。


 そこに広がっていたのは――紅く燃える龍の頭だった。


「……は、はは……!」


 笑いが零れる。止めようとしたって止まらない。

 怖さなんて微塵もない。あるのは圧倒的な高揚感と――震えるほどの喜びだ。


「っはは! やっぱりすげぇな、大地は!」


 叫んでいた。胸の奥から尊敬が溢れ出す。

 あいつが呼び覚まさなきゃ、俺はこんな景色に立つこともできなかった。


 リーダーだなんだと威張っていた俺に、道を拓いてくれたのは――あの男だ。

 誇らしくて、ありがたくて、どうしようもなく笑えてくる。


「大地……お前のおかげだ。俺は今、ここにいる」


 そう呟いた瞬間、龍の瞳が輝き、俺の心を見透かすように低く咆哮した。

 紅い花びらが空に舞う。神々しいほどの光景に胸が締め付けられる。


「……決めたぞ。お前の名は――桜火だ!」


 俺の宣言に呼応するかのように、龍は高らかに鳴いた。

 その声は「相棒」として共に戦う覚悟そのものだった。



「それじゃあ、行くぞ桜火!烈火一閃――変身!!」


 叫ぶと同時に変身する。

 炎のような赤の光に包まれ、心臓が爆ぜるような力が体を駆け巡る。


 桜火は嬉しそうに一声吠えると、空を切り裂いてワープした。



 視界が一瞬にして変わる。

 目の前に広がっていたのは――山中を蹂躙する巨大怪人の姿。


 足元には仲間たちが構えていた。

 だがその顔にはさっきまでの焦りも迷いもない。


 俺と桜火が現れた瞬間、黄が叫ぶ。


「みんな、行くよ!!」


「解析開始。最適化――変身モード、起動。」

「正義は撃ち抜く――サンシャイン・チェンジ!」

「笑いも涙もひっくるめて――変身ドーン!」

「老骨に鞭打ち――変身じゃあ!」


 その声を合図に、青・黄・緑・黒が同時に変身する。

 それぞれの変身の輝きに、赤い花びらが混じって見えた。


 ――なるほどな。大地の力が、みんなを繋げてるってわけか。


 胸の奥で確信する。



 大怪人と向き合う。

 デカい。禍々しい。だが――負ける気はしない。


「今度は桜火がいる。俺たちは負けねぇ!」


 拳を握り締め、声を張り上げる。


「行っくぜぇぇぇぇ!!!」


 俺の叫びに応えるように、桜火が咆哮し、弧を描いて上空を旋回し、そのまま大怪人に突撃する。



 大怪人の拳が迫る。

 殴り潰そうとする巨大な腕――その瞬間。


「させない! フロスト・ピアース!!!」


 青の叫びと共に、下から青白い閃光が突き上がる。

 ドゴォッと凄まじい音と衝撃、大怪人の腕が弾き飛ばされた。


「おお……!」

 一瞬驚いたが、すぐに笑みがこぼれる。


 下では青自身も驚愕している。

 黄が「うっそでしょ……?」と呟き、緑が「力が増してる……」と目を見開く。


 ――大地の力は、みんなの必殺技まで底上げしてるのか?

 ますます胸が熱くなる。



 大怪人が今度は足元の仲間たちを踏み潰そうと足を振り上げる。


「させるかぁ!!」


「笑撃ぃインパクト!!」

「玄武突ィィィ!!」


 緑と黒が地面に張り付いた足を同時に必殺技を放つ。

 ズシンッという衝撃と共に怪人の足がぐらつき、巨体がバランスを崩す。


「今よ!!フルバーストォ・ジャスティス!!」

 黄が叫び、顔面目掛けて光の一撃を叩き込む。


「ガァォァァァ!?!」

 大怪人が呻き声をあげ、膝をついた。



「行くぞ桜火!!!」


 俺が叫び、拳を突き出す。

 だがその瞬間――頭に澄んだ少女の声が響いた。


『……ごうおうだいぐれん……』


「…?ごうおうだいぐれん? なんだそりゃ……」


 目の前に赤く燃える文字が浮かび上がる。


 ――轟桜大紅蓮。


 それが桜火の必殺技だと直感した。

 ニヤリと笑い、胸の奥から力を解き放つ。


「よぉし! 行っくぜぇぇぇ!! 轟桜大紅蓮ッ!!!」



 ぶわっと赤い光の花びらが空に舞う。

 桜火の全身が紅蓮に燃え上がる。

 だが不思議と熱さは感じない。むしろ力が溢れ出す感覚だけがあった。


「うおおおおおぉぉ!!!」


 紅い炎の龍が吠え、一直線に大怪人へ突っ込む。

 轟音と閃光、桜火が巨大な炎の塊となって怪人を貫いた。



「グゴガァァァァァ!?!」

 大怪人が断末魔の叫びをあげ、そのまま虚空へと消え失せる。



 辺りが静まり返る。

 変身が解け、誰もがその場に立ち尽くしていた。

全力を出し尽くした気分だ、もう力が入らない。

周囲を見回しようやく大怪人を倒したことを理解した。その瞬間脱力していた身体のそこから衝動が込み上げてきた。


「……いよっしゃああああ!!!!」


 俺は叫びながら勝鬨を上げた。

 俺たちは――勝ったんだ。



 下を見ると、青と黄が思わず抱き合い、緑が涙を拭いながら笑っている。

 黒は地面に座り込んで、もう一歩も動けないといった様子だ。


 その全部が愛おしい。

 仲間たちの表情が、戦い抜いた証なんだ。



 こうして――俺たちの初めての大怪人戦は幕を閉じた。

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