第十五話 ラジオの中の苦い戦い
なんだろう、今日はやけに静かだ。
俺の住んでるこの町、普通に暮らしてりゃ平和そうに見えるけど……実際は怪人が週一ペースで出てきては暴れる、響き渡る崩壊の音と阿鼻叫喚。うん、もう慣れた俺としては、ここはある意味観光地みたいなもんだ。っていうか慣れちゃダメなはずなんだけど、慣れた。
で、だ。
朝から商店街をぶらぶら歩いてるけど、今日はなんか空気が違う。
焼き鳥屋の親父はいつも通り「大地くん、また来いよ」って声かけてくるし、八百屋のおばちゃんは勝手にキュウリ袋に一本おまけ入れてくれるし、至って平和。
「……あれ? 怪人、出てなくね?」
気づいてしまった。
いや、別に「怪人が出てない=おかしい」っていうのもどうかと思うんだけど、ここ最近の流れを考えると逆に不安になるんだよな。
怪人が出てきて巻き込まれる → なんやかんやで俺がとばっちりを受ける → なぜか無傷。
このパターンに慣れすぎてるせいで、平和が怖い。
あ、やばい。これダメなパターンの人間だ。
⸻
そんな時、商店街のどっかの店先でラジオが流れてるのが耳に入った。
懐かしいAMっぽい音質。野球中継とか落語とかか? と思って聞き流していたら、何やら不穏な内容が流れてきた。
『――速報です。山中で、突如として巨大な怪人が出現。周辺地域に甚大な被害を与えています』
「……巨大?」
今までの怪人は普通の人間サイズか少し大きいくらい。中には軽自動車くらいのやつもいたかもしれないが、「巨大」ってつくのかよ。おいおい本格的な戦隊番組じゃあるまいし、対応できんのか?
『今回確認された個体は、体長50メートルを超えると見られ……』
は?50メートル? それってたしか20階のビルと同じ高さとかじゃなかったか!?
周囲を見回して参考になりそうな高さを探すがそんな高さのビルはここにはない。
もう人外どころじゃない。戦隊モノから一気に怪獣映画になったぞ。
いや、怪獣映画ならそれはそれでテンション上がるけどさ。現実に起きてると思うと笑えねぇ。
⸻
俺は立ち止まってラジオに耳を澄ましたけど……おかしいことに気づく。
こんだけやばいニュースなのに、周りの人は普通に通り過ぎていく。
行きかう人は確かに少ないが、それでも聞こえてないわけじゃないだろう。何ならラジオの横に座ってるおっちゃんはなんでそんなに落ち着いてるの!?
「え、俺だけ聞こえてんの?」
幻聴かと思ったけど、店の前に置かれたスピーカーから確実に流れてる。俺、幽霊じゃないよな?
『現在、ヒーロー戦隊ジャスティファイブと怪獣が交戦を開始しました――!』
あ、戦ってるらしい。
俺は思わず声が出た。
「おお、やっぱ行ったか……!」
でもラジオから聞こえるのは「ズゴォォン!」「ギャアアア!」みたいな音ばっかで、映像なし。
結局その日のニュースは「大怪獣が暴れるだけ暴れて、どこかに消えた」というオチで締められた。
被害は出てるらしいけど詳細は分からない。ヒーローたちは頑張ったんだろうけど……なーんか消化不良だな。
俺はモヤモヤした気持ちのまま一日を終えた。
⸻
*****
明くる日の休日。本日は晴天なり。
朝から天気がよかったから、缶コーヒー片手に近所の川まで散歩に来た。
この川、そこそこ幅は広いけど、流れはゆっくり。
水は透明で、川底の石が見えるくらい綺麗。
小魚がぴょこぴょこ泳いでたり、カモが浮かんでたりして、なんか時間が止まったみたいにのどかだ。
昔から「ここで巨大な蛇を見た」なんて話があって、地元じゃプチ都市伝説になってたらしい。
でもまぁ……巨大怪獣が現実に出ちゃった今となっては、あながち笑えないんだよな。
俺は川べりに腰を下ろして、開けた缶コーヒーを一口。
日差しとせせらぎの音。めちゃくちゃ気持ちいい。
「はぁー……でもよ」
どうしても脳裏から消えない昨日の大怪獣。
「なんでサイズがいきなり違うんだ?」
今まで出てきた怪人はせいぜい3メートル級。でかいのでも5メートルくらい。
それがいきなり50メートル? ケタが違うだろ。
「今までと同じ系列の怪人……なのか?」
最近のやつらと何か関係があるとしたら、組織的に動いてる可能性あるよな。
ていうか50メートルに対抗する手段なんて……
「……セオリーで行くと、巨大ロボなんだよなぁ」
思わず口に出して笑っちまった。
でも、この戦隊がそんなもん持ってるなんて聞いたことねぇし。
いや、もしかしたら神様からまた何かしらの啓示があるんじゃないか?
俺が考えていても意味のないことなんだが、そんなことを考えながらぼーっと川を眺めてたら――ふと背後に気配を感じる。
振り返るとそこにいたのは……赤、青、黄、緑、黒。ヒーローたちが大集合だった。
ただ違うのは、いつもの朗らかな感じはなく、正直全員に睨まれてる気がして居心地悪い。その顔には絆創膏とガーゼと包帯、昨日の戦闘が凄まじかったことが分かる。気づかなかったが手足も包帯が巻かれている。痛そう。
「…………はぇ?」
想像していなかったシチュエーションに思わず変な声がでる。
なんで君たち俺のとこ来んの?
赤が真剣な顔で言った。
「大地。相談したいことがある。今ちょっと時間いいか?」
「…………へ??」
頭が真っ白になった。
いやいやいやいや。なんで俺? なんか思い詰めてるみたいだけど、俺なんか何の役にもたたないんじゃない?
缶コーヒー片手に川べりで固まったまま、俺の自由な時間は終わった。
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