第十二話 そして5人がそろう時
居心地が悪い。いつもの商店街で買い物をしていると周囲の噂話が耳に入ってくるからだ。そんなことでなんで居心地が悪いかって?いつもなら気にも留めないさ。でもその噂話のネタが俺なんだよ。
「ほら、あの人よ。次のヒーローに選ばれるんじゃないかって噂の人!」
それは誰にも分りません。選ぶなら早く選んでほしいです。
「ヒーローたちがとどめを刺すきっかけを作ってる人でしょ?まだヒーローじゃなかったの??」
そうだよ、まだヒーローじゃないんだよ。それにきっかけなんて作ってないよ。
自然と脳裏にツッコミが浮かんできて食材選びに集中できない。
すれ違う子供たちからは「新しいヒーローだ!何色なの!?」なんて指さされ、大人からは「陰で支えてたんだろ?あんたも大変だったな」と勘違いされる。いや、大変なのは目下勘違いされているこの状況です。
違う。俺は選ばれてもいないただの一般人なんだ。
気恥ずかしい気持ちで買い物をしていると、横で買い物をしていた老人に話しかけられた
。
「やぁ、お兄さん、色々と大変ですなぁ。人の噂も七十五日と言いますから、そのうち収まりますよ。」
白髪を綺麗にオールバックにした背筋の伸びた、和服姿の老人がフォッフォッフォと笑いかけてくる。買い物カートを押しながら歩く姿は、どこか風格がある。
名前は――たしか…城ヶ崎権三さん。近所では優しくて有名なおじいちゃんだ。なんでも昔は槍術の師範をしていたとかでかなり強いらしい。身体を壊してしまって今はもう隠居しているという噂だ。
「はぁ、まぁ…」
俺は後頭部を掻きながら苦笑いで返事をした。七十五日とか地味に長くて嫌になる数字だな。昨日からだから後74日、2か月半も我慢しなきゃいけないの?噓でしょ?
強くもないし支えてもいない、そもそも選ばれてなんてないのにヒーロー扱いされてると か恥ずかしすぎる。選ぶなら早く選んで神様。
権蔵さんと同じタイミングで俺は別のレジに並び、会計を済ませて急いでエコバッグに詰め込み、さっさと店を出ようと振り返る。
その時だった。
「bがいgはんvjkらうl・g!」
なんだ今の!?聞いててぞわぞわする!!
急いで外に出るとそこにはいつも通りの光景。今回は金属でできていそうな表面の体、頭部には巨大なドリルを生やした「ドリルサイ男」が商店街を蹂躙していた。
またかよ……。今のはあいつの咆哮か?俺は頭を抱えた。
赤、青、黄、緑が次々に駆けつけてきた。君たちいつもタイミング良すぎない?
「大地!大丈夫か!?」
「あぁ、少し現状に疲れただけだ.....」
「みんな!行くぞ!!」
「烈火一閃 -- 変身!」
「解析開始。最適化ーー 変身モード、起動! 」
「正義は撃ち抜くーーサンシャイン·チェンジ !」
「笑いも涙もひっくるめてーー 変身ドーン!」
変身するや否やヒーローたちは各々の武器を手に駆け出す。
火花と爆音が飛び交い、またも市街地は戦場と化した。
あー、またか、また巻き込まれたか。その場に立ち尽くす俺。後ろには逃げ遅れた権三さんもいた。
怪人の固い皮膚にヒーローたちの攻撃がことごとく弾かれる。赤の炎も青の氷も効かず、黄の光線も霧散し、緑のトンファーはいつものコミカルな打撃音じゃなく、武器の方が壊れるんじゃないかってくらいの金属音鳴り響く。
「fじおあhg・gじwhぐwhg。い!!」
またか!なんなんだ、この声!見た感じ笑っているんだろうが、声が解読できない。変なノイズになって辺りに響き渡る。
と、次の瞬間怪人の体の色が変わり目の色も変化した。
「くっそぉぉぉ!!」
再び赤が剣を手に突っ込んでいく。
「!?陽翔先輩ダメです!!」
青の忠告は遅く、次の瞬間怪人の声にならない咆哮がまた響いた。その瞬間突風が吹いたかと思うと、ヒーローたちは衝撃波で吹っ飛ばされていた。
一撃で戦闘困難な状況に追い込まれたヒーローたちを見て、自分が飛び込むかどうか悩んでいると次の瞬間、光が差し込んだ。
『これは!ヒーローに選ばれる時のやつ!』
俺は全身が震えた。
『……俺か? とうとう俺か? 俺の時代が……!』
俺は心の中で叫ぶ、拳に力が入る!
そして光は俺の……足元をかすめ、そして―近くの権三さんを包んだ。
「なっ……なんじゃ!」
神の声のような、不思議な響き。
―選ばれし者よ。闇を払う黒き守護者となれ―
「…仕方ないのう、不肖城ヶ崎権三、老骨に鞭打ち――変身じゃあ!」
権三さんは右腕を掲げ、叫んだ。
一瞬光ったかと思うと次の瞬間そこには漆黒のスーツを纏った黒レンジャーが、妙に年季の入った長槍を携えて君臨していた。
ノリノリじゃねーか!
こうしてヒーロー戦隊の最後の一人。黒レンジャーが爆誕した。
(そっちかよおおおおおおおお!!)
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