第十話 影の仲間とともに

 朝、起きた瞬間、腰が「ゴリッ」と鳴った。


 ……やべえ、昨日の怪人戦のダメージだ。怪人が現れて、タイミングを逃して逃げ遅れて、どうしようかと思っていたら怪人につかまって、死ぬかもと考えていたら変な声が聞こえて初めて変身して。怒涛の一日だった。


 でも不思議なもんで、痛みよりも先に浮かんだのは「あの人、祭りの後どうしてたんだろ」っていう疑問だった。


 結果守られる側だった俺が言うのも変だが、あの人の動きもあの時の殺気も、もう人間やめてるレベル。正直あの時は怪人が子犬くらいに感じた。


 布団の中でうだうだ考え事をしていたら、スマホが鳴った。画面には「陽翔」の文字。


「昼メシ行くぞ。澪と美咲もいる。おごりだ」


 おごりと聞いた瞬間、腰の痛みは奇跡的に治った。





 集合場所の商店街の喫茶店に着くと、入り口からコーヒーの香りが漂ってくる。


 中に入ると、陽翔君が満面の笑みで手を振ってきた。声がでかい。


「おー悠斗! 座れ座れ!」


 その横では、澪ちゃんがデザートメニューとにらめっこしていて、美咲さんはすでにサンドイッチを頬張っている。


「みなさんおはようございますっす」


「遅いぞ悠斗!」


「まぁまぁ、疲れてぐっすりだったんすよ」


 全員が注文を終えると、昨日の祭りの話に。


「しかしさぁ、悠斗。昨日のお前、ピン芸人のクセに命張りすぎだろ」


「クセにって何だクセにって!」


 美咲さんがニヤリと笑い、「まあでも、笑い取るより動きはキレてたな」と言う。


 澪ちゃんはストローをくわえながら「筋力データ、一般成人の1.5倍。訓練歴ありと推測」とか理系みたいなコメントをしてきた。


「訓練歴って……ボケとツッコミの練習しかしてませんけど」


「ふぅん、じゃあ変身のおかげか?」



「それで?今日はどんな集まりなんすか?」


 陽翔は運ばれてきたカツサンドを頬張り、口の端にソースをつけたまま言った。


「みんなで共有しておきたいことがあってな。大地の事なんだが」


「そうね、大地君のことは確かに共有しておいた方がいいと思うんだけど。澪ちゃん的にはどう??分析とか解析とか、何か情報ある?」


 ズズッとオレンジジュースを飲み、澪ちゃんが話し出した。

「.....最初は大地さんのことを、もしかしたら敵の可能性もあるかも、と考えていました。も、もちろん今はそんなことないですよ!」


「昨日のお祭りの時、一瞬大地さんがものすごく怒っていたんです。多分皆さんも感じたんじゃないですか?」澪ちゃんがみんなを見渡す。澪ちゃんも、というかみんな気づいていたんだな。


「無意識に大地さんをアナライズしていたんです。ものすごく怖かったから、本当に無意識に。そしたらその時感じていた殺気が怪人に向いているのがわかって。それと同時に私たちを守ろうといていることもわかって.....」


「その瞬間にこの人はとても優しい人で、私たちの仲間なんだと思いました。」


「選ばれてはいないんだけどね」美咲さんが困ったように笑う。


「私も大地君は仲間だと思ってる。一緒に戦ったわけじゃないし、親しいわけでもないけど、守ろうとしてくれているのがわかるのよね。元自衛隊の感みたいなものだけど」とまた笑う。


「俺は、俺なんかより皆さんの方があの人のこと良く知っていると思うんで何とも言えませんが、子供を泣かす奴に激怒して、笑顔にしてあげられる人に悪い奴はいないと思います!」


 みんなが俺の話を聞いて笑う。


 そんなこんなで、食事はほとんど大地さんの話題で終わった。これから、大地さんにはわからないかもしれないけど、俺たちは大地さんのことを仲間だと思って戦っていくということに決まった。

 会計時、本当に陽翔君がおごってくれたので、俺は素直に感謝……しようとしたが、次の瞬間、陽翔君が

「よし、次は俺んち集合で鍋な!」


「お財布が死ぬっすよ」


「大丈夫、材料費は悠斗持ちで」


「そっちのが高くないっすか!?」




 店を出ると、商店街で青空市が開かれていた。


 陽翔君が真剣な顔で焼き鳥を選び、美咲さんは試食コーナーで唐揚げを頬張り、澪ちゃんは野菜売り場で「このナスの曲率が美しい」とか意味不明なことを言っていた。


 俺もつられて焼き菓子を買った。完全に祭りの続きだ。


 別れ際、陽翔君が俺の肩をぽんと叩く。


「悠斗、これからもよろしくな!」


「こちらこそっす」


 





 帰宅後、机の上のネタ帳を開くと、昨夜半分寝ながら書いたメモがあった。


 ――ヒーロー+屋台飯漫才。


 なんじゃこりゃ?。


 まあ、このメンバーならネタに困ることは一生なさそうだ。


 ふと窓の外を見ると、昨日の祭りの提灯がまだ半分ぶら下がっていた。

 多分また俺たちも、あの人も、こういう日常と非日常を行ったり来たりするんだろう。

今度こそは俺の笑いの力で誰も泣かせずに勝ってみせる!と誓ってみた。

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