第八話 祭り囃子と緑と一撃
今年も暑い季節がやってきた。
ニュースでは各地で最高気温をたたき出しているニュースがもっぱらだ。
もちろん例外はなくこの町もここ数日間はやたらと熱い日が続き、外に出ている人がほとんどいないほどだった。みんなコンビニとか会社とかデパートとか、エアコンが効いている部屋で休んでいるのだろう。
しかし!今日は違う。なんといっても今日は夏祭りだ。どんなに暑かろうが、お祭りの日だけはそんなことを誰も気にせず、みんなが外に出てきている。
昼間から浴衣姿の人たちで通りはぎっしり埋まり、焼きそばの香ばしい匂いと綿あめの甘い香りが入り混じっている。俺は人混みの中を一人で歩いていた。
何を買おうかと周りを見渡すと、焼き鳥を頬張る人やかき氷を楽しむ人、鉄板をかちゃかちゃ鳴らしながら呼び込みをするおっちゃん。この空気に触れるだけで自分の活気が溢れてくる!
まずはたこ焼きを買って、舌やけどしそうになりながら食うのがいいよな!
その後は輪投げでハズレばかり出して、金魚すくいでは水ばかりすくった。
それでも不思議と楽しくて、気づけば手には小さなおもちゃや景品が増えている。
「それでね奥さん!ちょっと聞いてくださいよ!」
ステージの方から歓声が上がっている、人だかりをかき分けて覗くと、派手なスーツに汗をかいたピン芸人が漫談をしていた。お呼ばれ芸人か?今年はこんなイベントもしているんだな。有名人かな?
「いやぁ〜、怪人より怖いのは家賃の支払いですよ!」
と軽口を叩くたびに客席は爆笑の渦。俺もつい笑い声を漏らした。
かき氷片手に屋台を冷やかして回ったけど、やっぱり周りは友達や家族連ればかりだな、当たり前なんだが。俺の手元には無駄に楽しんだ証の景品ばかり、見ていると少し寂しい気がするようなしないような。地元じゃないし友達なんていねぇしなぁ。誰かときたらまた違った楽しさがあるんだろうが。はぁ...ちょっと座って休憩するか。
目の前には母親と父親に手を握ってもらい、笑顔で歩く浴衣姿の女の子がいた。
その光景に「幸せな日常だな」なんて思いをはせていた。
そんな時だった。轟音と悲鳴が一度に響き、ステージ脇の屋台が爆発するように吹き飛んだ。煙の中から現れたのは、甲冑のような外殻を纏い、爪を光らせた巨大な怪人。血のように赤い目が、まっすぐこちらを見据えている。
まじかよ、このタイミングで怪人が出てくるとか最悪だろ。
すると、すかさず浴衣姿の3人の影が逃げまどう人達から飛び出した。
「烈火一閃――変身!」
「解析開始。最適化――変身モード、起動」
「正義は撃ち抜く――サンシャイン・チェンジ!」
赤が炎の剣を構え、青が光る解析ゴーグルを装着、黄が光線銃を回転させながら前に出る。
「お前の好きにはさせない!」
「解析開始、行動予測完了」
「周りの人達に当てないように気を付けるわよ!」
3人は怪人に向かって走り出した。赤が炎の剣を振り下ろす、青がすかさず槍ですれ違いざまに怪人を貫く。この連携で怪人の攻撃相とした手が止まる。
振り返った赤の剣閃が火花を散らし、青の蹴りが的確に関節を狙い、黄の光線が遠距離から怪人の動きを削る。
いいぞ!3人になったことで連携がうまく機能している!
今日は珍しく楽勝かと思った、その瞬間――怪人が後方へ跳び、ステージに残っていたピン芸人の首を掴み上げた。
「ぐぁ!?」
「こいつの命が惜しければ動くなヒーローども!!」
情けない悲鳴をあげる芸人。そりゃあんな顔が近くにあったら怖いよな。
「くそっ!!」
「さすがに当たっちゃうわね」
黄が銃を降ろす。
「逃げ遅れた方がいたとは思いませんでした」
ヒーローたちが動きを止めたそのとき、空から響く低い声が会場を包んだ。
ーー選ばれし者よ、新たな力を授けようーー
いよいよか?いよいよ俺の時代か?一瞬自分かと身構えた...が、光に包まれたのはピン芸人だった。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
叫ぶと同時に怪人の拘束を力づくで解くと、その男はステージから飛び降り怪人に向き直す。
「笹倉悠斗!いっきマース!!笑いも涙もひっくるめてぇ!――変身ドーン!!!」
叫び声が聞こえたかと思うと眩しい光の中から緑の戦士が現れた。
「ちっ!1人増えたところで同じことぉぉぉ!」
「いっくぞぉぉぉ!!!」
赤の掛声で今度は4人が走り出す。ステージ上で戦っているのを見てるとヒーローショーを思い出すな。小さいころに親父が連れて行ってくれたっけ。
赤が炎をまとった斬撃を叩き込み、青が行動を解析しなおし隙を突き、黄が牽制射撃を連打し、緑が軽快なステップから強烈な回し蹴りを放つ。なかなかに怪人にダメージを与えられているように見えた。
しかし怪人は甲高い咆哮を上げ、全身が黒く輝き始めた。パワーアップしたその一撃で、ヒーローたちはまとめて吹き飛ばされる。
衝撃波が俺の方にも迫り、思わず目を閉じたが、不思議と何の痛みもなかった。
「うえぇぇぇん...ママぁ。パパぁぁぁ。」
目を開けると、泣きじゃくる小さな女の子が屋台の陰で怯えているのが見えた。
……プツン。
何かがちぎれる音がした気がする。気がつけば俺は地面を蹴り、怪人に殴りかかっていた。
!?!!?
「楽しい祭りを台無しにしてんじゃねぇぞコノヤロウ。」
拳がめり込み、怪人の巨体がよろめく。
「今だ!みんな行くぞ!!」
四人が同時に必殺技を放つ。
「烈火一刀両断!!」
「フロスト·ビアース!!」
「フルバースト·ジャスティス!!」
「笑撃インバクト!!」
バカでかい炎の剣が振り下ろされ、槍の先にできた氷の穂先が貫き、銃口に収束した光が大きなビームになって襲いかかり、プスプスと煙を上げなお立っている怪人に音だけはふざけているような、しかし明らかにただではすまないことがわかる衝撃が怪人の腹に命中し、吹っ飛んだ先で爆炎の中に消えた。
しんと静まり返った中、ヒーロー達の視線が俺に向く。
「あー……その……反射的に動いたっていうか……」
と必死に言い訳をしながら後ずさる。
立ち去ろうとすると「ドン!」と足に衝撃が走る。視線を落とすとさっきまで泣いていた女の子が俺の足にしがみつき見上げて笑っていた。
「おじちゃんかっこよかった!!」
顔を赤くしながら、困っていると
「逃げなくてもいいんじゃないか!?大地!!」
と、赤の笑う声が聞こえてきた。
後ろを見るとヒーローたちは変身を解き、全員がこっちを見て微笑んでいる。
「応えてあげたら?」
黄に言われて子供を見ると、笑顔で俺を見つめていた。
「ヒーローみたいだった!!」
ニカッと笑うその子が笑ってくれたのが嬉しくて、涙がこみあげてくる。が、頑張ってこらえる。
そして俺も精いっぱいの笑顔で応える。
「ありがとう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます