ダラダラ高校生のVRMMOプレイ録

ronboruto/乙川せつ

一章 原始天変

第1話 ログイン

「いくよ、リオ!」


「……ああ!」


 暗い黒曜石の部屋の真ん中で槍と剣を振る二人の戦士。

 片や美しい金髪を靡かせる風の美女。片や地味目な顔でツンツン髪が目立つ少年。


 その刃先は部屋を守る守護獣皇、《グリム・ペイラー》に向けられていた。


「せいっ!」


 少女の槍がグリム・ペイラーの動体を狙う。しかし、両手で構える死神の鎌でそれは阻まれた。

 グリム・ペイラーはアンデット系のモンスターだが、最初から実態のある特殊個体。しかしそれは、攻撃透過が無くても負けないという意思表示でもあるのだ。


「アリス、避けろ!」


「⁉」


 黒ローブの死神がひとたび鎌を振るえば周囲には瘴気の斬撃が広がる。それは触れれば常時ダメージと麻痺(弱)を受けるという厄介極まりないもの。


「マオウ、スキル!」


「オーケー!」


 スキル、《瞬間速度上昇》。


「せ、あぁ‼」


 片手剣の三連撃。武技を使っていないただの斬撃だが、スキルの併用によって高い威力を発揮する。


「今!」


「はあぁっ!」


 少年が重攻撃によって敵の体制を崩し、その隙に少女が槍をもって懐に迫る。

 神速の槍七連撃によって鎌を砕かれたグリム・ペイラーは態勢を立て直そうと半歩下がった。


 その一瞬を、少年は見逃さない。


「――――――っ‼」


 死神、少女が認識するよりもずっと速く、少年の剣は空を翔けた。


 瞬間、グリム・ペイラーは己を保てなくなり崩壊する。


「ふぅ……」


「やったね」


 二人がハイタッチで喜びを分かち合うと、グリム・ペイラーが居た場所に宝箱が出現した。

 このようなモンスタードロップ品は大抵弱いのだが、此処このような高レベルダンジョンなら話が違う。


 それがダンジョンボスなら尚更だ。


「これは、結構期待できるかもな」


「どうかなー。案外ボロボロローブとかかもしれないよ?」


 一年前のあの日、少年たちは物語に囚われた。


 永遠に続く、異世界という名の遊戯に。


 これはもう一人の、《黒き剣士》の物語。


 ◇◇◇


 謎の天才ゲームクリエイター、流川大智が開発したVRMMO、《ニューワールド・ファンタズム》。


 冒険者となり異世界を探索するというありきたりなジャンルだが、その没入感からもう一つの現実として没頭するプレイヤーも多い。


 そしてもう一人、その世界にダイブする男が。


「お~、これが《クロノス》……まさか抽選に当たるとは思ってなかった」


 自身の部屋でそのヘルメットを抱える少年、緒方玲真。

 高校二年生の一般人。生まれつきのツンツン髪でヤンキーと間違われ、喧嘩を売られるような少年である。

 先行予約は即完売だったが、すぐ後の抽選販売で《クロノス》をゲット出来たということからも運の良さもあるのだろう。


「確か、もう昨日からサービス開始してたんだよな」


(そんじゃ、試してみますか)


「ゲート・オープン」


 その合言葉とともに、玲真の意識は電脳世界へと落ちていく。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る