女神の護符 ―誓いと裏切りの騎士たち―
ののは
プロローグ
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女神の護符
それは、王国の南の地方に伝わる一つの奇跡の物語
その昔、この地に現れた女神は
多くの傷つき悲しむ人々を助けるために、癒しの泉を湧かせた
その泉は、多くの病人を癒す力をもち
泉に願えば何でも願いを叶えてくれる
愛するものを護る奇跡の護符……
『その女神の泉の水で銀を加工し、作ったのがこの女神の護符だ』
快活に笑った初老の大きな騎士が物語を紡ぎながら、2人の子供にペンダントを差し出した。
太く美しい螺旋状の鎖から、銀のメダイが吊り下がり輝いている。
表には女神の肖像。
そして裏には女神の泉が描かれている。
護符は騎士が持っていたランプの光に照らされてキラキラと輝き、思わず娘が「わぁ…」と歓声を上げた。
『今宵は新月だ。なぁ、イーゴリ。お前のおかげでいい星見場所が見つかったんだ。礼を云うぞ』
これから向かう森の開けた高台は遮るものがなく、絶景の天体観測が出来る場所だった。
イーゴリは持ってきた古い地図を片手に『間違いなくこちらです』と案内した。
星降る夜を誰にも邪魔されずすごせる場所。
そこへ案内したイーゴリは、2人の親子をガッカリさせてはいけないと少し小走りにそこへたどりついた。
『…すごい…!』
たどり着いた場所から見上げた夜空は、吸い込まれそうな程のおびただしい星の数で埋め尽くされ、イーゴリ達を待っていた。
かけていた分厚いメガネが、目頭側熱くなったせいでくもる。
一目星を見ただけで、何千何万もの星の瞬きに圧倒れ、イーゴリは胸からこみ上げてくるのもを押さえられなかった。
『イーゴリ、ヴェーラ。約束の護符だ』
ランプを消した騎士が優しい声で護符のネックレスを一人ずつ渡した。
隣でヴェーラが淡く青い目を細めて護符を握りしめ、興奮してまた声をあげている。
彼女がずっと欲しいと言っていたもの。
それは、いつも危険を省みず民のために戦う父無事を願うために、女神の護符を3人で身につけたいという願いだった。
『お父さまありがとう!ほらっお父様の腕輪と同じ護符よ。ねぇっイーゴリも付けて!』
差し出された護符を受け取ると、それは星の光に照らされキラキラと幻想的な淡い紺碧色に光っていた。
『イーゴリ、お前はきっと強い騎士となる』
ヴェーラの父は静かに。
しかし、はっきりとした口調でまっすぐイーゴリを見つめて言った。
『師範…』
『頭のいいお前だ。この護符の女神に愛されて多くの知恵と力を与えてもらえるだろう。私もこの護符に誓うよ』
護符の鎖の留め金を外し、騎士がイーゴリの首にうやうやしくかけた。
『必ず守る。この国を。そして、お前たちを』
つけられた護符はズシリと重く、イーゴリはしばらくメダイを手にとったまま女神の肖像を見つめた。
涙が自然とあふれ、声も出せないほどの熱い思いが胸を締め付けた。
『…俺…』
涙を頬へ何度も溢れ落とすイーゴリを、ヴェーラはおどろいて見つめている。
『……こんな嬉しいものもらったの、初めてだ』
脆弱なイーゴリは父にも母にも期待されていなかった。
両親は、田舎の騎士団に入団が決まった途端息子への連絡を途絶えがちになった。
本当になりたいものへの道も閉ざされ、半ば強引に騎士の道を歩ませたのは家族だというのに。
引いたレールの上を歩いていたら、途中ではしごを外された。
誰も
誰ももう、自分を見ない。
誰にも目をかけられず、捨てられたのだと思っていた。
なのに…
こんな…
『……っ誓う』
護符を握りしめ、イーゴリは声も上げられず噛み締めるように泣いた。
『……誓うよ。俺は、君と師匠を守る。この護符に誓う』
新しい家族として迎え入れてくれた2人と揃いの護符があることだけが、イーゴリの救いだった。
師範が黙ってそばにいて、ヴェーラが泣くイーゴリを抱きしめている。
イーゴリは誓い、願った。
たとえ、自分の命が奪われたとしても
絶対にこの2人を護ると
14歳のひ弱で何の力もない少年は、心から護符と星降る夜の美しさに誓った。
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