パライソの子供たち

アヂ

第1話 今日という日は

ツクツクボウシの面白い声、アブラゼミの暑苦しい声。後ろから吹いてくる風。

あなたはひまわり畑をただひたすらに歩いている。

どこからか声が聞こえる。

──…時間は意味を持つのか?

ただひたすらに歩く。

──お前に聞いてる。時間は意味を持つのかって。


あなた「①当然もつ ②持たない」





──①そう?じゃあお前はこれまでの時間を全て有意義な事に使ってきたって?毎分毎秒自己を磨いて努力して未来の自分のために行動してきたって?

そうだろう。無駄なことの方がお前の人生の中で多いんだ。時間は有限なのに結局のところ遠回りしてばっか。遠回りどころか、立ち止まったり逆走していたりする時の方が多いんじゃないか?

なんでか分かるかな?表面上では意味を持つって分かっていても、奥底では全くそう思っていないからだよ。

でも別に遠回りしたって立ち止まったっていいんだ。どれだけこの時間を無意味に使おうが有意義に使おうが死ぬんだからさ。無になるんだ。





──②ああそう?じゃあなんでお前は生きているんだ?何かに取り組んだことは、何かを克服したことは、何かを楽しみにしたことは、何かに憂鬱になったことはあるのか?そうだろう。あるに決まってる。それは時間が続いていくって信じているからだ。明日があるって分かってるから、課題を解決するし、いつかを楽しみにして胸を踊らせるし、明日なんて来ないでって思うんだ。

時間は意味を持たないなんて思ってる癖して、お前は毎日未来を生きていくために実は頑張っているんだよ。




今日という日は、お前の残りの人生の最初の日。

──お前の今日が特別な日になりますように。

──…俺はずっと見ているから。



一瞬目が眩んだ。するとそこは桜の並木道であった。ひまわりはどこにも咲いていない。

目の前には今日から転入することになった海古高校が見える。

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