第8章-3「節約型探索者、準備中」


---


ギルドからの任務通知が届いた。

封筒の端が摩耗している。誰かが節約魂で開封したらしい。


「探索者ケイ一行、深層ダンジョン“資源運用層”への派遣を命ずる。

目的:資源の記録、運用効率の評価、思想摩耗の再定義」


俺は裏紙に書き込んだ。


「任務:資源運用層」「目的:記録と運用」「思想:再定義中」


「いよいよだね、ケイさん」


リュカが巻物を広げながら言った。

彼の手元には、記録用の新しい項目が並んでいる。


「“使用目的”“再配置経路”“思想影響度”……。

これ、ギルドの新しい評価基準に合わせて作ったんです」


「思想影響度って?」


「使った道具や記録が、探索者の判断にどれだけ影響したかを数値化する項目です。

例えば、干し肉を使ったことで“魔物との交渉”が発生した場合、思想影響度は高くなります」


「交渉……干し肉で?」


「ふもも!」


机の下から声がした。

忘却ゴブリンが、干し肉を抱えていた。


「お前、交渉したのか?」


「ふももっ!」


跳ねた。たぶん、成立したらしい。


「じゃあ、素材袋の再配置も必要だな」


セイが素材袋を広げる。

中身は、干し肉、布切れ、魔力断片、投網の切れ端。

全部、摩耗済み。だが、使える。


「摩耗率じゃなくて、使い方で並べ直す。

“誘導用”“遮断用”“思想保護用”……。用途別に分類する」


「思想保護用って、斧じゃないの?」


「斧は“思想整形用”に移した。マリナが昨日、魔物の思想を“踊る”から“静止”に戻したから」


「ふももー……」


忘却ゴブリンがくるくる回った。

思想:踊る、発動中。


「マリナ、斧の調整は?」


「うん。柄の部分に“思想保護符”を巻いた。

これで、斬るときに思想が整う。たぶん。いや、願望かも」


「願望でも、記録しておこう」


俺は裏紙に書き込んだ。


「斧:思想保護符付き」「効果:願望ベース」「思想:整形可能性あり」


「あと、ギルドから“思想摩耗記録表”が届いてるよ」


リュカが紙束を差し出す。

そこには、過去の任務で摩耗した思想の一覧が並んでいた。


「思想:塩味」「思想:団子化」「思想:踊る」「思想:干し肉信仰」


「……俺たち、何してたんだ?」


「ふもも?」


忘却ゴブリンが首をかしげた。

たぶん、彼もわかってない。


「でも、これ全部“摩耗型”の記録なんだよね。

これからは“運用型”として、使い方を記録する」


「じゃあ、記録様式も変えるか。裏紙の使い方も再定義しよう」


俺は新しい裏紙を広げた。

中央に「思想:運用型」と書き、周囲に「記録余白:ゴブリン用」「素材分類:用途別」「巻物:再配置履歴」などを配置する。


「これが、節約型探索者の記録様式だ」


「ふももっ!」


忘却ゴブリンが拍手した。干し肉を落とした。セイが拾って袋に戻した。


「あと、ギルドから“思想分”の廃止通知も来てる」


「報酬、減るのか?」


「減るけど、“運用分”が新設されてる。

記録精度、再配置効率、思想影響度で評価されるらしい」


「じゃあ、思想:塩味はもう報酬にならないのか……」


「ふもも……」


ゴブリンがしょんぼりした。

塩味は彼のお気に入りだったらしい。


「でも、思想:使い方なら、報酬になる。

俺たちは、使い方を記録する。節約魂は、摩耗じゃなくて運用だ」


「準備、整ったね」


リュカが巻物を巻き直す。

マリナが斧を背負い直す。

セイが素材袋を閉じる。

忘却ゴブリンが干し肉をくわえる。


俺は裏紙を折り直す。


「節約型探索者:準備完了」「思想:運用型」「記録:使い方優先」


「ふもも!」


---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る